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報告「現代社会への応答性を備えた総合的社会理論の振興のために」のポイント

1 作成の背景

 今日、ICT技術の著しい発達は新たな産業革命を引き起こしつつあるとの認識が広まっている。しかし、他方では巨大なIT企業による市場支配や情報倫理に対する懸念も大きい。また医療や生命科学の進歩により、人びとの健康水準の改善や長寿化という恩恵の一方で、生命倫理や超高齢社会の諸問題も生まれている。さらには、グローバル化する世界におけるさまざまな社会的な軋轢も露わになっている。
 このような状況において、アカデミアを中心とする「学知」に対しては、問題状況の把握と解決を通じて新たな未来社会の構築に大きな貢献をなすことが期待されている。とくに自然科学系に関しては、科学技術の発達そのものによって人びとの生活を快適にし、効率的な社会を形成するとともに、経済の発展にも寄与するだろうとの期待が寄せられてきた。そして、そうした科学技術が恩恵をもたらすだけではなく、過度に発展したり暴走したりして生じるさまざまなリスクを回避すべく、人文学と社会科学の文系学問からの貢献も求められている。文系学問は、単に科学技術の発展を補助的に支えるだけではなく、それ自体として新しい未来社会の構築に、より主体的に貢献すべきであろう。
 しかるに、文系学問の現状はどうであろうか。1968年の学生運動を一つの転機として、既存の人文学と社会科学の内容と方法は大きく揺さぶられ、新たな方向へ向けての変革が促された。そしてその後の情報化の進展に象徴的に示されている科学技術の高度化と、その帰結ともいうべき科学的知識の専門化と断片化は、「人文学や社会科学において、何が正しい知識なのか」についての懐疑を広げることになった。アカデミアが本来もつべき「真理の探究」という機能がゆらぐようになってきたのである。
 もちろん研究者がこれまで正当とされてきた知識に懐疑の念を抱くことは、研究者の良心としては当然のことである。むしろここで問題とすべきは、懐疑の結果、学術研究をどちらに進めたらよいのかという方向性感覚を、多くの研究者が失っているように思われることである。しかもこのような学術研究に対する信憑性の失効と方向性感覚の喪失は、21世紀に入ってから一層強まっているのではないだろうか。本報告は、以上のような時代認識・社会認識のもとに、現代社会が抱えるさまざまな問題に対応すべき人文・社会科学の本来の役割は何かという問いについて、一つの考え方を示した上で、アカデミアや学術に関係する機関に対して、それを支援する研究基盤整備を求めるものである。

2 現状及び問題点

 ここ20年あまり、デフレ経済のなかでの18歳人口の減少を背景としながら、政府による財政圧力のもと、人文学と社会科学の学問の存在理由が問われてきている。この問いを冷静に考えてみると、国立大学の文系部局の「再編」といった対症療法的な対応で済むものではなくて、アカデミア全体に関わる「学知」のあり方について根底的な問いが投げかけられるようになってきたことがわかる。その一つの要因が、人文・社会科学が本来遂行すべき「真理や価値の探求」を等閑視して、十分に検討しなくなったことにあるのではないかと考えられる。そこで、この等閑視されてきた問いについて、過去50 年近くの人文学と社会科学の展開を念頭におきながら、検討することにした。

3 報告の内容

本報告では、「社会思想、経済思想、経済哲学、政治思想、政治哲学、社会学理論、社会哲学、社会理論、歴史哲学等々の学術的研究分野」の全体を表現するものとして、「総合的社会理論」という概念を用いている。
 まず人文・社会科学系の学問の危機は、学生運動以降の世界のなかで「大きな物語」が終焉し、真理や価値を正面から取り上げるという素朴かつシンプルではあるが「学問の王道」をいくことへの躊躇によってもたらされたとした。そして本分科会では、この危機を克服するためには、現代社会が直面している重要な諸課題への取組を通じて、「何が真理であり」「何が価値あることなのか」という問いに答えることが求められているとし、その方策として、現代社会への応答性を備えた「総合的社会理論」が重要になってくると考えるに至った。「総合的社会理論」は学術コミュニティにおける共同了解の再構築の基盤となり、現代社会が抱える課題に応答する学術研究の促進に重要な役割をはたすものである。そこで、総合的社会理論の振興のために、次のような共同研究及びその支援体制が必要であるとした。

  • 1) 現代社会の課題に取り組む上での理論的探求とその成果の社会課題への実装をめざす大規模な共同研究を支援する。
  • 2) あらかじめ緩やかに特定化された現代社会の課題がテーマとして設定され、個々の研究はそれにそって独自の研究プロジェクトを構想する。
  • 3) その共同研究はある程度多様な学問分野から構成されており、原則として、自然科学系の研究者も巻き込んでいること。
  • 4) 理論的探求を踏まえつつデータ収集を中心とする実証的な研究も含むこと。
  • 5) 国内の多様な研究者を包含するとともに、海外の研究者との密接な連携を組み込んでいること。
  • 6) 研究の遂行期間を通じて、支援システムとして、研究の進捗状況について不断に把握し、理論的研究のリスクの高さを踏まえて、適宜、研究プロジェクトの当初目標やアイディアや仮説を見直すなどの研究計画の軌道修正を行うこと。
  • 7) ただし、この支援システムにおけるこうした軌道修正は、あくまで研究チームの自発性を前提とし、個別の研究プロジェクトを「鼓舞し、勇気づけ、励まし、助言する」ことを旨とする。



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