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報告「日本における農業資源の潜在力を顕在化するために生産農学が果たすべき役割」のポイント

1 作成の背景

 日本の農業は高齢化、担い手不足などが進む一方、スマート農業、ゲノム育種などの新技術により新たな農業の可能性も示されている。また、気候変動による農業生産の一層の不安定化が指摘され、国連も持続可能な開発目標(SDGs)を掲げ各国に取組を求めている。
 このような状況のもとで、農学委員会農学分科会は主に土地利用型農業に関する日本の農業資源の現状とその潜在力を顕在化させるために生産農学が取り組むべき研究開発およびSDGsの達成への貢献について議論し、その結果を取りまとめ公表することとした。

2 現状および問題点

 日本の食料・農業を概観してみると、日本の食料消費の量と構成が大きく変化したが、そこには食品産業の寄与が大きく、農業経営も食品産業への拡大(六次産業化)や食品産業との直接取引が増大している。また、農業技術の面では、情報通信技術(ICT)を組み込んだ機械や設備が登場している。社会経済の変化への技術革新の対応は、ICTを活用した機械・設備や定年退職者の就労増による高齢者の労働力などの潤沢な資源を活用し、いまなお自然生態系の特色を保持している森林や湖沼などの貴重な資源の開発利用を抑制することが基本となる。
 また、潤沢な資源と貴重な資源をどのように組合わせていくかに関して、例えば農林水産省は食料自給力を数年以上の長期の視点からの供給力として公表している。これに対して、食料自給力を1年以内での供給力という視点から独自に試算してみると、一人一日あたりの供給熱量はその年の生存に必要な基準熱量より200 kcal以上不足することになり、私たちの生命を支える農業生産の基盤の持続可能性について議論が必要である。
 近未来の農業を考える場合、農業それ自体の生産性向上と環境負荷の低減のトレードオフに向き合うことが避けられず、その解決には、まず、二つの目的間のトレードオフの関係性を物的・数量的に把握し、社会的評価を加えること、次に、二つの目的を同時に達成できる技術的可能性を広げることが重要である。このように、近未来の農業は二兎を追って二兎を得ることが必要で、新たな技術体系のもとでバランス良く達成することが求められている。
 新たに注目されている技術はゲノム編集育種とスマート農業である。ゲノム編集技術は狙った遺伝子をピンポイントで編集する技術であり、育種の高速化に繋がる。アメリカでは本技術で育成された高オレイン酸ダイズの食用油が販売されている。一方、日本では本技術に対する国民の理解は十分ではなく、安全性などに関する情報発信が重要である。また、農業担い手不足、農産物の高品質化・生産コスト削減のために、ITやロボット技術などを活用した農業のスマート化が必要である。2014年度から5か年間進められた内閣府戦略的イノベーション創造プログラムで実施されたスマート農業研究では、ロボットトラクター、ビッグデータを活用した営農支援システムなど多くの成果が得られた。現在、主に生産条件好適地で確立されたスマート農業技術を生産条件の不利地域に適合させることで、地域農業の活性化に繋がる取組も行っている。
 このような新たな農業技術は実際の農業現場でも大きく期待されている。新潟県の(有)穂海農耕は15名で145 haの水田において業務用米を生産している。全員非農家からの新規就農者であり、平均年齢は約32歳である。今後も農地の集約は進むと予想しており、圃場の大規模化、ロボット・ドローンの導入などが必要になり、また、栽培時期を分散するためにもゲノム編集育種による多様な品種開発が求められると考えている。

3 報告の内容(生産農学の取り組むべき主な研究開発)

 このような日本の農業および農業技術の現状とSDGsへの貢献も含めて今後の期待に応えるために、生産農学に含まれる各学問分野として取り組むべき研究と技術開発を以下のように進めていく考えである。

  •  (1) 作物学(SDGs目標2、13、17への貢献)
    ① 大規模水田農業に資するため、直播適性を備えた高品質・良食味品種を用いて各地域で安定多収が得られる直播栽培技術を開発する。
    ② 畑地化した水田における畑作物の耐湿性向上のための作物栽培および土壌管理の技術を開発し、水田輪作体系における畑作物の生産拡大に繋げる。
    ③ 中山間地域の小規模農地での高収益作物の栽培技術の開発、ドローン利用などによる作業の効率化などを進める。
  •  (2) 園芸学(SDGs目標2、3、7、9、11、13、17への貢献)
    ① 施設園芸においては、二酸化炭素排出削減の観点から水素やバイオマス、太陽光などの自然再生エネルギーの活用技術などの開発を行うとともに、地域の特性やニーズに適合した施設栽培用品種の育成を行う。
    ② 露地園芸においては、ロボットの活用技術開発、作業性に優れた園地整備のデザインなどを行う。更に、資源投入を抑制し、持続可能なシステムとしての再構築をめざす。
    ③ 流通時の品質低下によるロスやコストを減らすフードチェーンシステムの確立を図る。
  •  (3) 土壌科学(SDGs目標2、13、15への貢献)
    ① 作物の生産性に関わる土壌資源の潜在力の更なる開発のため、土壌成分の微細存在状態および土壌微生物による植物養分などの形態変換機能などの解明を行う。
    ② 温室効果ガスの発生抑制のための無駄のない施肥管理に向けて、田畑一筆ごとの地力など土壌資源の潜在力を示す精密土壌図の作成と効率的活用や気候変動にも対応したきめ細かい施肥管理の普及を図る。
  •  (4) 育種学(SDGsの目標2、3、9、13、15への貢献)
    ① 全ゲノム情報を活用した迅速な有用遺伝子の同定やDNAマーカーの開発、およびゲノム編集技術などの育種技術の高度化により育種の効率化を実現する。
    ② AIやIoTを用いた先端的形質評価技術を導入することにより、気候変動に対応したストレス耐性の向上やSDGsに適う生産性の高い省資源投入型品種開発に繋げる。
  •  (5) 植物病理学(SDGsの目標2、12、15への貢献)
    ① 様々なビッグデータを作物保護に応用することにより、最適な防除の実現、ロボットやドローンなどを利用した新たな防除技術を開発する。
    ② 日本で開発された防除技術を、途上国の実情に適応した技術として展開する。また、その技術を使いこなすことのできる研究者や教育者を育てる。



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