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報告「工学システムに対する安心感と社会」のポイント

1 背景

 日本学術会議の第24期では、総合工学委員会・機械工学委員会合同 工学システムに関する安全・安心・リスク検討分科会に、「工学システムに対する安心感等検討小委員会」を新しく立ち上げた。初めに「快適感」のような「・・感」という概念について議論し、まず「安心感」そしてそれに深く関係する「安心」を対象として検討した。

2 報告の内容

 「安全・安心」あるいは「安心・安全」と言われるように、「安心」は「安全」と並び称されることが多い。しかし、「安全」の重要性に関しては、これまで多くの議論がなされてきたのに対し、「安心」に関する議論は、それに比較して少なく、「安全」が担保されれば「安心」なはずという乱暴な議論すらある。その一方で、工学システムは、安全であっても安心でなければ、あるいは安心感を得られなければ、社会に受け入れられないという現実がある。例えば自動車の自動運転の実現において、この社会受容性が大きな課題となっている。そこで、「安心とは何か」、あるいは「安心感とは何か」ということに真正面から向き合うことは、工学システムの社会受容性の観点からきわめて重要と考えられる。そこで本分科会では、これを大きな社会的課題と認識し、議論した。
 そもそも「安心」については、その定義が曖昧で、ぴったり対応する英語が無い。さらに、実は「安全」の定義においても主観の関与が共通認識となった。すなわち、これまで「安全」と「安心」は、その対比において、「安全」は客観的な事象、「安心」は主観的な事象と考えられていた。しかし「安全」が2014年のISO/IECガイド51によって「許容不可能なリスクがないこと」と定義されると、どこまでリスクを下げたら安全といえるかは、決定に関与した関係者の価値観に基づき決められ、主観から離れられない。
 ここでは、工学システムに対する安心感と社会との関係を明らかにするために、まず「安全」の視点から、これまで不明確だった「安心」と「安全」の関係について明確化を試みた。「安心」は、「安全」との関係で議論されることが多く、「安全なら安心」という考え方すらある。本分科会では、両者の関係を整理するために、まず「安全」の視点から「安心」を考えたときに、その両者をつなぐのは「信頼」であると考え、「安心」=「安全」×「信頼」というモデルを仮定した。また本分科会で検討している「工学システムの社会安全目標の新体系」の議論も踏まえつつ、検討を行った。
 次に「安全」の視点とは異なる視点も含めた「安心」の体系化や「安心感」との関係の明確化、さらに社会との関係に不可欠な要素の明確化について議論した。これらの議論、およびシンポジウムでさらに深めた議論の結果得た知見を、以下にまとめる。
 またこれらの議論のプロセス自体も、複雑多様化した未来社会における新しい課題の解決を検討する際の有益な方法論の知見として、活用し得ると考える。

    1. (1) 工学システムの「安心」を議論するために「安心」の構造を体系的に整理する必要がある
       検討の当初、上述したモデルを仮定した。ただし、「安全」は「許容不可能なリスクがないこと」と定義されるが、危害が破局的な場合には許容される余地の無いリスクもあり、また「信頼」にも種々の要素がある。さらに以下の(2)にも関係するが、社会との関わりの検討の中で、「安全」と「安心」の関係の双方向性や、「安心」と「安心感」との違いも見えてきた。すなわち当初、我々の出発点は、「安心」は「安全」と「信頼」から成り立つというモデルであったが、逆に「安心」から「安全」が規定される側面や、人間の価値観に依存する「安心感」が判断や行動を規定すること等も明らかになった。そこで今後、「安全」の視点とは異なる視点も含めて、工学システムの「安心」の構造を体系的に整理し、「安心」に関する問題を議論するベースを構築する必要がある。また、違いの見えてきた「安心」と「安心感」であるが、今後はこの両者の違いのさらなる明確化も必要である。

    2. (2) 安心な社会を実現するための要素を明確にする必要がある
       分科会では、工学システムの安心と社会との関係を議論するために、ファッションブランドの存在意義や、電気工学、ものづくり、感性工学、自動運転の立場からも、「安心感」の社会との関わりについて検討した。安全であれば必ずしも安心と捉えられるわけではなく、情報不足や人々の無関心に起因する理由のない合理的でない安心(合理的でないリスク評価に基づく安心)は、社会の健全性に影響しうることを確認した。しかしこれまで実は、多くの工学システムについて、既知のことも、あるいは何が未知なのかも、十分に社会に説明してこなかった可能性がある。そこで、「安心な社会」を実現するのに必要な要素を明確にする必要がある。そこでは、未知への不安に対する知識を提供する側の責任、信頼できるグローバルな情報と生活に必要なローカルな情報の集約方法や発信方法,想定される不安に対する法律や保障制度といった社会システムとの関係性についても検討が必要である。



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