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報告「大学教育の分野別質保証のための教育課程編成上の参照基準 教育学分野」のポイント

1 作成の背景

 日本学術会議は、文部科学省からの審議依頼を受け、平成22年(2010年)7月、回答「大学教育における分野別質保証の在り方について」を発出した。日本学術会議では、その後、回答の枠組みに沿って各分野の参照基準を作成する作業が進められ、現在までに32分野で参照基準が公表されている。このたび教育学分野の参照基準を取りまとめ、公表することとなった。

2 報告の概要

  • (1) はじめに
     日本の大学教育において、教育学分野に関連する主たる教育課程には、〈教育研究に関する教育課程〉と〈教員養成に関する教育課程〉がある。このうち、後者の一部については、既に文部科学省によって「教職課程コアカリキュラム」が公表されている。本参照基準は、教育学分野に関連する教育課程を編成する際の参照基準であり、二つの教育課程にひとしく通底する基準である。現行の教職課程コアカリキュラムは、本参照基準に先立って作成されたが、改訂にあたっては本参照基準をふまえることが望まれる。

  • (2) 教育学の定義
     教育学とは、ある社会・文化における人間の生成・発達と学習の過程、及びその環境に働きかける教育という営みを対象とする様々な学問領域の総称である。教育は人間の生涯にわたって、また、学校、家庭、地域、職場などおよそ人間が生活するあらゆる場所で行われる。教育学はこのような教育という営みの目的、内容、方法、機能、制度、歴史などについて、規範的、実証的、実践的にアプローチする学問分野である。

  • (3) 教育学に固有の特性
     教育学に固有の特性として、以下の点を挙げることができる。
    1. ① 人間と社会の可変性への関心:教育学は、人間と社会がどのように変わりうるか、変えられうるかに関心を持つが、それは同時に、教育に限界があることや教育が社会的・歴史的な状況に影響されるということの認識を求めるものでもある。
    2. ② 研究アプローチの多様性:規範的アプローチ、実証的アプローチ、実践的アプローチがあり、教育学の各下位領域の研究アプローチはその組み合わせからなる。
    3. ③ 技術知と反省知の両面性:「よりよい教育」を目指すことは、単に技術的・実践的な課題解決だけでなく、人間や社会についての科学的知見と価値・理想についての考察を必要とする。
    4. ④ 再帰性:教育学は、それを教え学ぶ者に対して、教育や学習といった自己の行為自体を対象化し問い直すことを求めるという性格(再帰性)を有する。
    5. ⑤ 他の諸学との協働:教育学は、基盤となる学問やその対象領域において、他の諸学との協働を必要とする。

  • (4) 教育学を学ぶすべての学生が身に付けることを目指すべき基本的な素養
     参照基準の枠組みでは、基本的な素養を「基本的な知識と理解」及び「基本的な能力」によって構成している。教育学の基本的な知識と理解には、「教育の原理と基本概念の理解」と「教育の目的に関する探究の理解」、「教育の歴史的理解」と「教育の社会・文化的多様性の理解」、「学習過程とそれへの教育的介入の理解」と「教育事象と社会的事象の相互関係の理解」が含まれる。一方、基本的な能力については、学生が教育学の中のどの学問領域を深く学んでいくか――例えば、規範的か実証的か実践的か、マクロな制度構築かミクロな教育実践かなど――によって、獲得される具体的能力は異なる。とはいえ、正答が一義的には見つからない教育の諸問題に向き合うことを通じて、多様な視点やアプローチによって教育という営みについて考察し、教育のありうる姿を構想・具体化する力を身に付けることは共通に期待される。

  • (5) 学修方法及び学修成果の評価方法に関する基本的な考え方
     教育という営みの多様性を考慮すれば、学修方法にも多様性を確保することが必要であるが、教育の理論と実践について、精神と身体、認知・情動・社会性のすべてを視野に収めつつ考察を行うことを基盤とする。特に、教育に関するフィールド等における実践的演習や教育実習は特徴的な学修方法である。また、教育学は再帰性という特性を持つことから、学生にとっては、大学での学びや教育の営みそのものもフィールドとなる。
     評価方法は、学生の自律的な学修を促進するものであることが求められる。

  • (6)市民性の涵養をめぐる専門教育と教養教育との関わり
     日本学術会議では「市民性」を、民主主義社会を形成する市民の政治的教養、及び、自らの専門性や職業以外の分野の公共的課題に対しても判断できるアマチュアとしての資質と捉えている。この2点はいずれも、過去と未来の間の境界、学問や文化の領域間の境界を越えて往還し架橋するという教育学の性格と通底している。さらに、教育学のこの性格は、教育学によって育成されるプロフェッショナルの特徴にも密接に関わっている。このように、教育学は教養教育、専門教育の双方において市民性の涵養に資する学問分野である。

  • (7)教育学と教員養成
     教育学教育と教員養成教育の関係は、大学・学部等によって多様である。だがいずれにしても、教員養成は大学における学問を基盤にして行われなければならない。教育学においては、教員養成という要素を付加的にではなく本来的な要素として位置付けることが、また、教員養成においては、理論と実践を包括する最先端の教育学が適切に活用されていくことが、より望ましい教育学及び教員養成(教職課程)の構築に際して求められる。同様のことは、教員以外の教育関連実践者養成にもあてはまる。



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