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報告「「軍事的安全保障研究に関する声明」への研究機関・学協会の対応と論点」のポイント

1 作成の背景

 日本学術会議は、近年学術と軍事が再び接近しつつあるとの認識の下、2017年3月に、「軍事的安全保障研究に関する声明」(以下「声明」という。)を発出した。「声明」は、大学等の研究機関における軍事的安全保障研究が学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にあることを確認するとともに、大学等の各研究機関に対しては、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究の適切性を技術的・倫理的に審査する制度を設けることを求め、また、学協会等に対しては、それぞれの学術分野の性格に応じてガイドライン等を設定することを求めた。
 本報告は、「声明」が大学等研究機関及び学協会においてどのように受けとめられているかを明らかにするとともに、そこから抽出された論点を整理するものである。

2 報告の内容

 本報告では、①大学等研究機関を対象として実施したアンケート(2018年2月~3月実施。183機関が回答)、②学協会を対象として実施したアンケート(2020年1月実施。379団体が回答)、③①に合わせて収集した軍事的安全保障研究に関する大学等研究機関の規則類の集計及び分析を行った。その結果、「声明」及び軍事的安全保障研究をめぐる大学等研究機関、学協会の取り組みに関する貴重な知見が得られると同時に、いくつかの重要な論点も抽出された。主な論点は下記の通りである。

  1. (1) 「声明」をめぐる基本的評価

     大学等研究機関アンケートでは、回答機関全体の約7割が「声明」に対して何らかの対応を行い、また、半数近く(45.2%)が、「声明」をきっかけに軍事的安全保障研究の適切性に関する審査制度を新たに設けあるいは検討を始めるなど、「声明」が真摯に受けとめられたことが確認された。ただし、大学・大学共同利用機関と国立研究開発法人とでは異なる傾向も見られた。また、自由回答では、「声明」の基本的立場への賛同の意見も多かった一方、「声明には現実と乖離している点があると感じる」との意見もあった。

  2. (2) 「軍事的安全保障研究」の概念とその適用

     大学等研究機関アンケートにおいて、「声明」をきっかけに軍事的安全保障研究の概念を学内の方針、申し合わせ等に採用する研究機関がある一方、軍事的安全保障研究の定義が不明確であるとの指摘もあった。学協会アンケートにおいても、軍事的安全保障研究に該当するかどうかの判断が微妙な事例の指摘や、軍事的安全保障研究としての線引きが困難であるとの意見が見られた。

  3. (3) 軍事的安全保障研究の適切性に関する審査制度の設計

     「声明」は、大学等研究機関に対して、軍事的安全保障研究と見なされる可能性のある研究の適切性を審査する制度の創設を求めたが、この審査の手続と基準について、とくに規則類の分析から、軍事的安全保障研究の可否、資金の出所の考慮、審査機関の性格、審査の時期、審査基準を構成する具体的要素等についての豊富な情報が得られた。

  4. (4) 「学問の自由」の理解

    「声明」は、「学問の自由」にとって学術研究の自主性・自律性、研究成果の公開性が本質的に重要であるとの見地から、「軍事的安全保障研究は学問の自由及び学術の健全な発展と緊張関係にある」ことを確認し、「学問の自由」を擁護する立場から、軍事的安全保障研究の適切性に関する審査制度や、それぞれの学術分野の性格に応じたガイドライン等の設定を求めた。これに対して、大学等研究機関アンケート及び学協会アンケートの中には、研究活動の制限は学問や研究の自由の原則に反するとの意見も見られた。


 これらの論点について、本報告では、まず、「声明」の立場を改めて確認する作業を行った。上記論点に関わる大学等研究機関及び学協会の意見の中には、すでに「声明」及びそれと一体をなす報告(日本学術会議安全保障と学術に関する検討委員会「報告 軍事的安全保障研究について」2017年4月)の中に回答が用意されている事柄も少なくないからである。その上で、本報告は、「声明」の立場とは異なる、あるいは「声明」の射程を超える論点や問題の所在(安全保障技術研究推進制度の運用実態の評価、軍事的安全保障研究の線引きの可否、国立研究開発法人の特徴的傾向等)についても確認し、今後のさらなる議論の参考に供することとした。本報告で示した大学等研究機関、学協会の取り組みに関する知見、及びそこから抽出された論点等について、また日本学術会議が果たすべき役割について、日本学術会議としてもさらに議論を深めていく必要がある。



     報告全文はこちら(PDF形式:1,316KB)PDF
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