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報告「高等学校の生物教育における重要用語の選定について(改訂)」ポイント

1 現状及び問題点

 高等学校の生物教育で使用される用語については、従前より語数の多さと不統一が指摘されていた。生物科学がさらに格段の進歩を遂げた結果、高等学校の生物教育で扱われる用語が膨大になり、現行の教科書「生物」では、2,000 を超える数の用語が重要と指定されている。このことは、学習上の障害となっているばかりでなく、生物学が暗記を求める学問であるという誤解を生んでおり、大学の入学者選抜試験における受験科目の選択においても敬遠されるなど、高大接続のあり方にも深刻な影響を及ぼしてきた。そこで、生物科学分科会は生物科学分野教育用語検討小委員会を設置し、平成29 年に、当時の高等学校生物の教科書の調査、インターネットを駆使した頻度分析、そして生物教育用語集の理念を踏襲した作業を行って、最重要語254語、重要語258語、併せて512語を選定し、高等学校の生物教育で学習すべき用語として報告した。平成30 年には、学習指導要領が改訂され、「生物基礎」においては200 語程度から250語程度までの重要用語を中心に、また「生物」においては500 語程度から600 語程度までの重要用語を中心に指導することと記載された。また、同年の学習指導要領解説には、この規定は平成29 年に日本学術会議から出された報告「高等学校の生物教育における重要用語の選定」も参考にしたことが明記された。

 一方で、大学入学共通テストについても改革が進みつつあり、試行調査として行われた2度のプレテストにおいて、用語穴埋め問題の廃止、思考力の重視という方向性が明確に示された。今こそ、生物学が、知識ではなく思考で取り組むべき学問であるという根本的な認識を取り戻す時である。

2 報告の内容

 生物科学分野教育用語検討小委員会はこの度、平成29年に選定し公表した重要用語のリストについて、生物科学学会連合に加盟する学協会、高等学校の教育の現場等からフィードバックされた意見を慎重に審議して見直しを行い、最重要語251 語と重要語243 語の合計494 語を、高等学校の生物教育で学習すべき用語として改めて選定した。今後の高等学校生物教育における用語使用の指針としたい。

 選定に当たっては、前回の平成29 年の報告の用語リストを元とし、学協会等から得られた意見を審議し、削除や入れ換え等の判断を慎重に進めた。基本的な考え方は前回と変わらず、学習すべき主要な概念とのつながりを重視し、用語の変遷があったものについては、原則として学界での一定の定着があると言えるかどうかを検討した。

 本報告は、重要語リストに選定しなかった用語を、教科書で使わないことや、高等学校の生物教育の現場で教えないことを求めるものでは決してない。重要語として教科書中ゴシックで扱われる語を減らそう、問題文でこのリストにない語を用いる場合には脚註を付けるようにしよう、と提案するのがねらいである。そして最も重要なねらいは、前回同様、生物学が暗記科目ではなく、思考力を大きく刺激する魅力にあふれた学問であるというメッセージを送ることにある。

 今回の改訂では、最終的に最重要語251 語、重要語243 語、併せて494 語を、高等学校の生物教育で教え、学習して欲しい用語として選定した。見出し語として、平成29年度報告の用語リストに新たに追加されたものはない。削除したのは、「脳,神経,心臓,花,葉」など中学校で学習していて一般にもよく使われている語、「集合管、糸球体、尿細管」など、学習指導要領で扱わないことになった臓器の細部の構造名などである。学習指導要領解説の内容の取扱いに関する説明に鑑み、最重要語と重要語の 若干の入換えも行った。また、平成29 年度報告の用語リストでは、学習指導要領に従った単元分けを行っていたが、用語を扱うべき単元が必ずしも1か所とは限らず、そもそも本報告が、各用語について教科書で扱われる単元を指定するような意図を持つべきでない。そのため、今回は単元分けを行わないこととした。「生物基礎」、「生物」という分類も、同様の理由から廃止した。

 平成29 年の報告と前後して日本遺伝学会が用語検討を行っており、なかでも優性・劣性という呼び方をやめ、顕性・潜性と呼ぶことにしようという提案は重要なものであった。平成29 年の時点では、まだ学界においても社会においても定着するかどうか見きわめがつかないと判断して、優性・劣性を見出し語に、顕性・潜性を別名として記載した。しかしその後、さまざまな場で議論が進み、呼び替えを歓迎する、あるいは許容する流れが確実にできつつあると判断される。したがって本報告では審議の末、顕性・潜性を見出し語にすることとした。中学校では依然として優性・劣性で教えられているため、混乱を防ぐために優性・劣性も別名として残すが、優れた形質、劣った形質という誤解を防ぐために、将来的には使われなくなる方向に向かうと考える。

 大学の入学者選抜試験のうち、大学入試センター試験については、高大接続システム改革会議で打ち出された考える力を重視する方針を受けて、2021 年1月からは大学入学共通テスト(新テスト)として新たな制度の下で実施される予定である。この新テストの具体的な方向性については、試行調査として行われた2度のプレテスト(2017年11 月および2018 年11 月実施)の内容が参考となるが、そこでは思考力の重視が明確に打ち出されている。特に、「生物」の出題については、単純な用語穴埋め問題が全く見られない一方、実験の経験や思考の過程を問う問題が多くみられ、暗記科目としての生物学から、思考で取り組むべき学問としての生物学へ転換していこうというメッセージが明確に発信されている。各大学の個別入試においては、現状ではその改革への取組姿勢は一様ではなく、大学ごとに様々であるが、本報告における重要語の選定が、個別入試においても瑣末な用語を問う問題の廃止につながり、生物学が、知識を暗記する学問ではなく思考する学問であるという重要な認識を取り戻す契機となることを期待したい。



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