日本学術会議は、第19期学術会議声明「新分野の創成に資する光科学研究の強化とその方策について」を発表した。 光は我々にとって最も身近な存在である。地上の多様な生物は光合成を通じて太陽光で生み出され、その生命は太陽光で維持されている。人類は古代から太陽の動きで時を定め、暦を作り、歴史を構築してきた。17世紀に至り、ガリレイが望遠鏡を試作して天体観測を開始して以来、光学機器は未知の世界の探索に不可欠の手法となってきた。
20世紀に至り、アインシュタインは光の性質に関し深く考察し、100年前に光電効果の理論、特殊相対性理論を発表し、同年発表のブラウン運動の理論とあわせ、現代物理学の基礎を築いた。1960年のレーザーの発明により光利用の世界が飛躍的に広がり、小柴昌俊氏による宇宙ニュートリノ検出などの基礎科学から、田中耕一氏によるたんぱく質分析技術の開発、大容量情報・通信社会の実現にいたるまで、光科学は広範囲の分野に革新をもたらしている。
科学技術の大きな発展は、既存の領域を超えた新分野の開拓によりもたらされることは、歴史が示すところであり、わが国の科学技術基本計画の立案に当たって、最も重視すべきことである。光科学は、本来領域横断型の研究分野であり、学際的交流により他分野に新しい研究手法を提供し、その発展を促進してきた。本声明では、基礎から応用にわたる領域横断型の光科学研究に、わが国として本格的に取り組むべきことを提言している。
光科学研究に本格的に取り組むには、その基礎的研究と教育を重視し、しっかりした研究者を育成することが最も重要である。その上に立って、情報通信における次世代技術開発や、新しい医療技術開発など、社会へ貢献する研究を、異分野間の連携により開拓することが可能になる。これを実現するには、光科学技術に関するわが国の研究力を結集することが必要であり、その方策として、連携型研究所である「光科学技術研究ネット機構(仮称)」を提案している。
21世紀は、地球環境劣化、人口増加、南北格差拡大など、地球規模の共通課題への対応が必要であり、環境と経済が両立する社会の構築へ向けてのヴィジョンの提示が必要である。超高精度測定、次世代情報通信、高精度加工などを少ないエネルギーで実現する光科学技術は、21世紀型社会の構築におけるキーテクノロジーとして位置づけられるものと考えられる |