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日本学術会議会長コメント

日本学術会議会長コメント
平成17年3月23日
 日本学術会議は、平成17年3月23日に『放射性物質による環境汚染の予防と回復に関する研究の推進』と題する対外報告を公表した。これは、広域の環境放射線と放射能の監視、放射性物質による環境汚染の予防と回復、この分野での研究体制の強化と人材育成の必要性について述べているが、重要な点は、原子力エネルギー利用の拡大に伴う放射性物質による環境汚染から、国民と周辺諸国の人びとを防護するための方策を幅広い視点から見直したことである。  
 20世紀の中葉以降において、放射線と原子力エネルギーの利用は、産業の発展と人間生活の向上に大きく貢献している。現在東アジアには、我が国を含めて現在約80基の原子力発電所が稼動中であり、我が国では本格的な使用済み燃料再処理施設が試運転中である。また、日本近海では原子力軍艦が航行しており、その周辺において原子力潜水艦の老巧化に伴う廃棄も行われている。冷戦終結後の新しい問題としては、小型核兵器や放射性物質によるテロの潜在的脅威が存在する。このため、我が国を含めた周辺諸国で放射性物質の放出を伴う原子力災害が起きた場合に備えた東アジア域の環境放射線と放射能の監視体制の構築が望まれる。燃料再処理によって生じる放射性廃棄物を安全に処分するには、社会に受入れられる処分技術の確立を目指した研究を推進すべきである。これらの課題を解決していくには、研究体制の充実と研究機関相互の連携を強化するとともに、研究者や技術者を養成するための教育を充実する必要がある。  
 地球温暖化を抑制しつつ開発途上国のエネルギー需要の拡大に応えるために、東アジア域での原子力エネルギー利用が今後ますます盛んになることが想定される中で、我が国はこのような施策を東アジア域で積極的に展開し、我が国はもちろんのこと周辺諸国の人びとを放射性物質による環境汚染から防護するためにリーダーシップを発揮することが重要である。このためには行政が措置すべき施策もあるが、一方では大学や研究機関及び研究者とその所属学会等で取り組むべき課題も存在する。
日本学術会議会長 黒川 清
【参考】
・日本学術会議ホームページ http://www.scj.go.jp
         
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