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国際微生物学連合2011会議開催結果報告
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文)国際微生物学連合2011会議
         (英文)International Union of Microbiological Societies 2011 Congress (IUMS 2011 Congress)
(2)報 告 者 : 国際微生物学連合2011会議 国内組織委員会委員長 冨田 房男
(3)主   催 : 日本微生物学連盟、日本学術会議
(4)開催期間 : 平成23年9月6日(火)~ 9月16日(金)
(5)開催場所 : 札幌コンベンションセンター、札幌市産業振興センター(北海道札幌市)
(6)参加状況 : 65ヵ国/地域・4800人(国外1450人、国内3350人)

2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯
 IUMS2011は、国際微生物学連合(International Union of Microbiological Societies)が 3 年ごとに開催する会議であり、1930年の第 1 回(当時は、International Association of Microbiologists: IAMと称していた) から当会議で
Bacteriology & Applied Microbiology Division (細菌学及び応用微生物部門)と Mycology Division(真菌学部門)は、13回目、Virology Division(ウイルス学部門)は、15回目を迎える微生物学分野で最も歴史のある国際会議である。
日本での開催は、2005年に7月に開催されたIUMS2005(母体団体:国際微生物学連合(International Union of Microbiological Societies))のIUMS総会 において、IUMS2011を 2011年9月に日本で開催することが決定された。尚この
際の立候補に当たっては、当時IUMSの副会長であった著者(冨田房男)が、日本学術会議の下にあった微研連(微生物研究連絡委員会)の意を受けて行なったものである。日本への誘致は、スムーズに理事会レベルで決定され、
サンフランシスコでの総会で対抗馬もなく自然の流れの中で日本・札幌開催が決まった。これは、Davies会長での理事会が発足したころから長い間アジアで開かれなかったこともあって暗了解を得られるようになってきていた。その
結果、対抗馬もなく自然の流れの中で日本・札幌開催が決まった。
 これを受け、当時の微研連に日本開催準備のために、2004年にIUMS2011国内組織員会を組織して、日本開催の準備を進めることとなった。その後、この国内組織委員会(NOC)は、日本学術会議の改組に伴い、微研連の存在が
なくなり、新たな日本学術会議の中のIUMS分科会および総合微生物科学分科会に属することとなったが、2002年頃から微研連で検討してきていた微生物学分野の学会の連盟を設立するとの議論が進み、2008年2月に結成され
た日本微生物学連盟に属することになったが、その構成員(少しの増員あり)と役割には変化なく、IUMS2011に向かって役割を果たすこととなって現在に到っている。
 IUMSの会合は、1990年の開催以来日本での開催(アジアでの開催でもある)は、 21年振り、4回目の開催となり、この度の日本開催では、世界のトップレベルの研究者が一堂に会し、最新の研究成果について討論や発表が行わ
れ、微生物学の発展とその応用展開を図ることを目的としている。 特記すべきことは、これまでの分野に寄生虫学分野を初めて加えることを行なった。
 微生物学は、その基礎要素である生物学の中核を成し、中でも生物学を分子レベルで研究を始め、いわゆる「分子生物学」を拓いた最初の科学分野であリ、現在も生物学の分野で少数多体系である微生物を研究する学問である。
微生物学の特徴は、原核生物から真核生物までの広い対象があるのみならず、応用面についても、我々の日常生活に関与するほとんど全ての分野にかかわりのある大きな分野である。特に現在では、新興感染症学、応用微生物学、
微生物生産学(グリーンバイオ)、環境保全学、バイオエネルギー学などなど多くの我々の暮らしに直接関係する総合的且つ先端的学問分野である。このような見地からみると微生物学は、他の学問分野(化学、物理学など)と相互
に関係しながら研究が遂行され、また、応用が進んでいるところである。このところ話題の多い地球環境(地球温暖化など)にも深い関係のある重要な分野である。
 わが国が古くは、高峰譲吉による世界最初のバイオ特許(タカアミラーゼ、酵素、の生産)や応用微生物学、北里柴三郎、志賀潔などによる病原微生物学、梅沢濱夫による抗生物質の研究、木下祝郎によるアミノ酸の微生物による
生産など世界に先駆けて行われた数々の独創性の高い研究成果を社会還元してきているところである。この流れは、今日も続いており、微生物学日本の研究水準は高く、世界において多大な貢献をしている。また、さらには、天然資源
に恵まれないわが国であるが、微生物資源に関しては世界のトップにあり、今後の更なる発展が期待できる。
(2) 会議開催の意義・成果
 我が国及び世界の微生物学の発展に寄与し、地球上における多様な問題に光をあて、人類の食糧、エネルギー、環境、医療、市民生活などに関する基礎的・応用的問題を考え、我々の生活の質の向上に寄与すること。また、わが
国の微生物学の状況を世界に発信することとわが国の関連科学者がより多く参加できることを目指している。更には、わが国が開催することでアジア諸国についても同様の効果を上げることができる。
 21年振りに日本(アジア)で開催できたことは、それ以前にアジア地区で開催されなかったことを挽回し、アジア・日本の微生物学分野のレベルの高さ、微生物学の隆盛を伝えるよい機会であった。東日本震災・津波による福島第一原
子力発電所の事故があったが、開催地を札幌にしたことで多少の混乱はあったものの学問の進歩を止めることなくできたのは真に幸運であった。勿論関係者の大きな支援があってこその幸運であった。特に、経済状況のあまりよくな
い中での企業などからの支援、自治体からの支援が非常に大きかった。観光長長官、日本政府観光局理事長、札幌市長からのメッセージも大きく寄与したと言える。その結果、上記のような厳しい状況にありながらも1996年エルサレム;
3000人、1999年シドニー;4000人、2002年パリ;4000人、2005年サンフランシスコ;3000人、2008年イスタンブール;2100人に対して、今回2011年札幌;4800人(国外1450人、国内3350人)と1996年以来最高の参加を得ることができた
のは大きな成果であり、成功を収めたと言える。
(3) 当会議における主な議題(テーマ)
 この度のIUMS2011では、「The Unlimited World of Microbes, 限りなく拡がる微生物の世界」をメインテーマに、細菌学、応用微生物学、真菌学、ウイルス学、寄生虫学それぞれとこれらの間をつなぐこれらの境域の共催シンポジウム
を多くもつことで協奏的、融合的研究を促し、その成果は、微生物学の発展に大きく資するものと期待される。上記の1)、2)にも述べてあるように微生物学の領域は極めて広い上に更にメインテーマに掲げるように更に拡がりつつある
ので主なテーマだけでも述べるのは容易ではない。しかも、今回は初めて寄生虫学分野の方も入って頂いたので更に領域が広がっているので、招待講演、特別講演の演題を以下に示すにとどめたい。
○細菌学及び応用微生物学部門と真菌学部門の講演題名の例示(9月6日から10日)
特別講演
 1)微生物由来生物活性代謝物質の発見とそのインパクト(大村 智)(有馬賞受賞講演)
 2)21世紀のワクチン、医薬品と公衆衛生 (Rino Rappuoli)
 3)Cochliobolus speciesの二次代謝産と宿主選択性毒素の生産 (Gillian Turgenon)
 4)叡智の始まり (Georte Garrity)(Van Niel 賞受賞講演)
 5)木下祝郎博士記念特別招待講演
  微生物バイオテクノロジー:その40年を振り返る (Arnold Demain)
  化学品の微生物及び酵素による大量生産プロセス(清水 昌)
 6)微生物・植物間の寄生体と宿主の相関機構 (Ilan Chet)
 7)細菌ゲノム塩基配列データーの新規処理法 (斉藤成也)
 8)抗生物質耐性における選択性、監視、防止について (Fernando Baquero)
 9)難培養性細菌(Viable but nonculurable bacterial) (竹田美文)
 10)コレラ菌ゲノムの進化:環境微生物と医微生物のモデルとして (Rita Colwell)
ワークショップ
 1)抗菌性物質耐性遺伝子の不安定性 関するワークショップ
  グラム陽性球菌の抗生物質誘導性耐性の解明 (Patrice Couvalin)
  薬剤耐性と病原性における細菌の多剤排出ポンプの役割 (西野邦彦)
  環境細菌の抗生物質耐性:臨床分離菌との関係はあるか(Garry Wright)
  抗真菌剤抵抗性 (Dominique Sanglad)
 2)微生物産物の多様性に関するワークショップ
  微生物産物の多様な化学物質(Parvome)の利用を目指して (Julian Davies)
  Spirotryprostatin Bの組上げには酵母の非リポゾームペプチド工場が使い易い (渡邊賢二)
  Ⅲ型ポリケタイド合成酵素系の多様性を利用した植物ポリケタイドの微生物による生産(鮒 信孝)
  新規ペンタレノラクトン合成系の分岐と二つの領域特異的Baeyer-Villigerモノオキシキナーゼの発見(池田治雄)
市民公開シンポジウム
○高峰譲吉-北里柴三郎シンポジウム:微生物学の歴史的転換期における偉大な二人
 高峰譲吉とバイオテクノロジーの誕生 (Joan Bennet, 米国)
 高峰譲吉:酵素工業の父及び酵素工業の歴史の俯瞰 (山本 綽)
 高峰譲吉:高い愛国心をもった科学者且つ起業家 (Tomio Taki、米国)
 北里柴三郎:病原性研究の歴史的及び細菌の考え方 (Jorg Hacker、ドイツ)
 予防は、治療に勝ることを心にとめて (森 孝之)
 以上の他にシンポジウム: 128 セッション 561題 (この中にブリッジングセッション40、演題174題を含む) 、ポスター:1578題、科学展示に加えて、一般公開展示(高峰譲吉-北里柴三郎展示)を行った。更に、日本微生物学連盟傘下の
日本細菌学会、日本乳酸菌学会、日本放線菌学会、日本医真菌学会、アジア乳酸菌学会連合が年会または大会を開催した。
○ウイルス学部門講演題名の例示(9月11日から16日)
特別講演
開会特別講演:ウイルス学とノーベル賞-この領域の進歩 (Erling Norrby)
ノーベル賞受賞者特別講演I
 ヒトがんの原因となる感染源を探して (Harald zur Hausen)
 HIV科学の30年: これまでの成果とこれらの挑戦課題 (Francoise Barre-Sinoussi)
ノーベル賞受賞者特別講演II
 ヒトの健康に関与するヴェクターとしてのウイルス (David Baltimore)
 1)システムウイルス学
  ウイルスの病原性と免疫性に関するシステム生物学的研究:グーグルとIBMは何処に向かうか?
  海洋にいるウイルス:遺伝的多様性と地球規模での変容の大きな源として(Curtis Suttle)
 2)ウイルスの病原性について
  レオウイルスの血流感染拡大の機構(Terence Dermody)
  HIV-2感染:防御的免疫性のモデルとして
 3)ポストゲノム時代のウイルス学
  ポストゲノム時代のBluetongueウイルス (Polly Roy)
  高速RNA I検索を用いたウイルス増殖に関与する新宿主因子の発見 (Sara Cherry)
 4)ゲノムウイルス学
  我々の中にいるウイルス:RNAウイルスと宿主ゲノムの新規相互作用(朝長啓造)
 5)構造ウイルス学
  LASV NPの構造:二重鎖RNA特異的エキソヌクレアーゼとRNA結合の関門機構 (Erica Sphaire)
  インフルエンザウイルスRNA複製の構造及び機能解析 (Juan Ortin)
 6)ウイルスとその非翻訳RNAの機能性
  動物と植物におけるRNAに起因する抗ウイルス免疫性の機構(Shou-Wei Ding)
  ショウジョウバエの抗ウイルス免疫:体液性RNA Iとウイルスサjプレッサー (Paul Andino)
 7)ウイルスと宿主相互作用
  αV-β3インテグリンがヘルペスシンプレックスウイルスへの初期細胞への感応を調節する (Gabriella Campadelli-Flume)
  生来もっている免疫による核酸のセンシング(審良静男)
 この他シンポジウム62題、ポスター1277題、日本ウイルス学会の年会
(4) 当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割
 本会議は、先に述べたように我が国・アジアにとって21年振りのものであり、この間のさまざまの変化を考えるとここで会議をもてたことは極めて意義深い。特に東日本大震災などの後の混乱の中で開くことができたことは我が国の
集中力を示すものでもあったと言えよう。勿論本来の会議の意義である我が国及び世界の微生物学の発展に寄与し、地球上における多様な問題に光をあて、人類の食糧、エネルギー、環境、医療、市民生活などに関する基礎的・応
用的問題を考え、我々の生活の質の向上に寄与すること、また、我が国の微生物学の状況を世界に発信することと我が国の関連科学者がより多く参加できる目指を達成できたと言える。
 この度のIUMS Congressの開催は、世界のトップレベルの微生物学研究者が一同に介して最新の研究成果について発表を討論が行われることにより、日本国内のみならずアジア全域を含めて、国際的に微生物学の発展とその応
用展開を図ることを目的とした。我が国が微生物学とその応用の領域において、今後も国際的に主導的役割を保ち続けることは、次世代の育成、国際連携強化、国内関連産業の新興に極めて重要であり、IUMS Congressの開催に
より、国内の研究者が研究領域を超えて国内外の研究者と直接交流する機会が与えられ、我が国の微生物学研究の今後の発展に多大な貢献が期待される。また、アウトリーチプログラムを通じて、日常生活に密接して微生物やウ
イルスについても、市民にも理解しやすく解説され、様々な研究の成果が日常生活に密接に関わりがあることなどを学ぶ機会を提供する事もできた。
 本会議の日本での開催は、1990年に大阪で開催されて以来実に21年ぶりのことである。永年の懸案事項であった日本微生物学連盟を設立することで多くの微生物関連学会が協力して本会議を開催・運営できたことはこれからの微
生物学分野の方向を示すよい機会となった。また、幸いにも本連盟の当面の運用資金の見通しもできたことで、本格的に本連盟の将来構想委員会を開催、運営できる見込みができたことも大きな成果である。また、本会議の目的の
一つである、「微生物学領域を横断した情報の発信・交換」を目指して、シンポジウムには多くの「Bridging Session」が設けられ、境界領域あるいは異分野との交流が活発に行われた。さらに本会議では、さまざまな分野との交流も積極
的に行えるよう、世界のトップレベルの講演者を微生物領域外からも多く招いた。 IUMS2011Sapporoは、我が国で開催される大規模な国際学術集会に相応しい極めてレベルの高い学術集会となったと言える。
 成果の評価を、細菌学及び応用微生物学部門と真菌学部門のAdvisory Board Membersにお願いしたところ、回収率は31%であったがほとんどがGood ~Excellentであった。
(5) 次回会議への動き
 今回初めて紙ベースでの広報や要旨集をつくらなかった。そのため広報がやや不十分であったとの反省がある。また、mail addressの完備や加盟国・地域での広報活動の要請をもっと強くお願いすべきであったと反省している。
現在、次回開催のカナダ(モントリオール、2014)からの要請もあるのでこれらの個人情報の整備に努めており次回に生かして戴きたいものと願っている。研究テーマは、今回のものに連なるものと期待しているがまだ決定されていない。
(6) 当会議開催中の模様
 ほぼどの会議場も一杯であった(添付資料1参照)。参加者が多く発表演題も多かったのでポスター発表における討議の時間が十分な議論ができなかったと反省している。
(7) その他特筆すべき事項
 日本開催の経緯にも述べたように、アジアでの開催がしばらくなされていないことから私が副会長に立候補する時以来、日本での開催をあらゆる機会を捉えて行ってきた。また、国内でも当時の日本学術会議の微生物学研究連絡会
での支援を受け、さらに微生物学研究連絡会の皆様のさまざまの局面でのご支援があり、米国微生物学会(American Society for Microbiologists)の応援も大きく、ほとんど競争のない状況で日本開催が決定された。しかしながら国か
らの国際会議への支援が減少したこと、また経済不況から抜け出せないこと、更には今回の東日本大震災があったため開催に向けての議論が大きく揺れたことが特筆すべきことである。しかしながら、このような逆風の中で過去最大の
人数が参加したことは当事者として大きな喜びである。重ねて皆様に謝意を表したい。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:平成23年9月11日(日) 10:00~16:00
(2)開催場所:札幌コンベンションセンター
(3)主なテーマ、サブテーマ:「限りなく拡がる微生物の世界のテーマ」のもとに以下の講演を行った。英語での講義の際は、同時通訳レシーバーを使用し、参加者は各講義を熱心に聴講した。講義の後には質疑応答の時間も設け、
盛んな質疑もあった。
○微生物バイオテクノロジーの人類福祉への貢献 (Arnold Demain 、USA)
○未知の大陸 ― 新しい微生物世界を探る (別府輝彦 、東京大学名誉教授)
○鳥インフルエンザとパンデミック対策 (喜田 宏 、北海道大学教授)
○製品評価技術基盤機構バイオテクノロジー本部(NITE NBRC)提供ビデオ「微生物のさまざま」の上映
○気候、海洋、伝染病、ヒトの健康 (Rita Colwell 、 USA)
○バイオテロとは何か (森川 茂、国立感染症研究所ウイルス部一部第一室室長)
○次々と登場する感染症 : 制御は可能か? (倉田 毅 、国際医療福祉大学塩谷病院教授) 
○作物と病原微生物の相互作用 (上田一郎、北海道大学副学長)
○閉会の辞  (篠田純男、岡山大学名誉教授)
(4)参加者数、参加者の構成:250名を超える市民と、約50名の学会関係者が参加
(5)開催の意義:
 広渡清吾日本学術会議会長の開会挨拶に明確に述べられてるように、学術会議の役割とその共同開催である本公開講座の意義は大きい。以下に広渡清吾日本学術会議会長のお話の概要を、引用する。 「国際微生物学連合2011
会議が、9月6日から16日の11日間にわたって、ここ札幌で開催されております。この会議は、日本の微生物学の研究者で組織された日本微生物学連盟と日本学術会議が共同主催で開催しております。
 国際微生物学連合を母体とするこの会議は、3年に一回、世界の微生物学の研究者が一堂に会して、その最新の知識を発表、論議するもので、全世界からおおよそ1400人の研究者や技術者と、これに日本全国からの2600人を加
えておおよそ4000人が参加する大きな学会であります。
 微生物学は、真菌、細菌、ウイルス等の肉眼で見えない小さな生物を扱う学問です。これら微生物は、普段目に見えないだけに親しみにくかったり、イメージできなかったりしますが、実は皆さんの生活にとても身近な存在です。たとえ
ば、大豆から納豆を作ったり、お米や麦からそれぞれ日本酒やビールを作ったり、また小麦粉からパンを作るのも、微生物が材料を発酵させるからできることです。一方で、インフルエンザウイルスのように、人に風邪を起こす病原菌も微
生物です。国際微生物学連合2011会議では、人間に役立つ面と害になる面の両方を含めて、微生物を基礎から応用までのあらゆる方向から研究して成果を発表しております。
 日本学術会議は、内閣総理大臣に任命された210人の日本を代表するような科学者により構成され、日本中の科学者の内外に対する代表する機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映浸透させること
を目的としています。その意味で、今回の国際微生物学連合2011会議が札幌で開催される機会に、微生物学の理解を深める為に、日本学術会議としてこの市民公開講座を共催して支援いたします。
 またこの会議は、日本(アジア)で21年振りに開催されるもので、札幌での開催は、はじめてのことです。そこで、この開催にあたっては、札幌市と北海道から多大の助成を受けております。更に独立行政法人製品評価技術基盤機構バイ
オテクノロジー本部からの協賛も受けております。このような方々と一体になって広く一般の方々とともに微生物と我々の暮らしとの関わりをよく考えることの試みの一環として、世界中から一流の微生物研究者が一堂に会するこの機会に、
この市民公開講座では、様々な専門家の立場から、微生物学について我々の暮らしとの関わりに焦点を当ててお話しいただきます。国内外の優れた研究者の方々のお話によって、皆様に微生物学の重要性がすこしでもご理解いただけ
れば、大変うれしく思います。」
(6)社会に対する還元効果とその成果:
 一般市民向けの行事としては、市民公開講座に加えて、高峰-北里シンポジウムには一般市民にも公開し、日英同時通訳を入れてその理解の支援をした。またこれに関連して我が国の微生物学、微生物バイオテクノロジーの先駆者の
高峰―北里展示を9月6日から11日まで公開し、多くの市民および学会参加者に二人の業績や足跡を紹介した。また小中高生を対象とする出前講義を行い、微生物学の紹介を行った。出前講義は、海外の専門家が札幌市内の小中学校
及び室蘭市内の高校で微生物やウイルスについてわかりやすく話をしてもらうように企画した。札幌市立伏見小学校では、カナダ出身(現在米国パーヂュー大学教授)のCindy Nakatsu氏が「バクテリア『ボブ』の冒険」というタイトルで授業
を行い、児童は英語で歓迎の言葉を述べ、「伏見よさこいソーラン」を踊って歓迎しました。
 Cindy Nakatsu氏は、土の中に住むバクテリアの「ボブ」が人間の皮膚、リンゴ、牛の胃の中などを冒険するストーリーを通し、バクテリアは目には見えなくてもどこにでもいるとても身近な存在であることを児童に伝えました。授業に先立
ち、バクテリアについて学習してきた児童は、積極的に質問をし、会場となった体育館は熱気に包まれました。
 「(『ボブ』の冒険に登場した)酸素を作るバクテリアのように、他にも自分で何かを作ることのできるバクテリアはいますか?」と質問した森茜さんは、「最初は微生物について理解できるか心配したけれど、先生がとてもわかりやすくお話し
して下さったので、理科への関心がますます高まりました。」と、感想を述べていた。シンディー氏は子供たちの好奇心に感心し、「みんなの中から将来必ず優秀な微生物学者になる人がいるでしょう」と期待を寄せ、エールを送っていた。
中学校では、「米国のバイオテクノロジーの父、高峰譲吉」について、Joan Benett教授(米国、ラトガース大学教授)講演を行い、学生が既に調べていたことをもとに質疑も行え、大変有意義であった。室蘭栄高校では、ドイツのHeinz Zeidthart
教授(ドイツ、ベルリン・シャンテ医科大学教授)が「ウイルスの特徴と病原性」について易しい講演を行い、高校生からの質問、また近隣の理科の教師からも質問があり、ウイルスに関する理解を深めた。資料2にあるように、多くの一般の方
々が参加して、微生物に関する理解を深めたことは社会への大きな還元と考える。また、その上、共同主催の学術会議の広渡会長が直接学術の重要性と、学術会議の役割についても話して下さったことは、北海道民に対する大きな貢献で
あったと言える。また、これらの行事について、テレビ、新聞などのメディアが報道したことは、天皇陛下のご臨席に加え、微生物学の重要性を一般市民に広報する上で大きなものであったと言える。
 以上の各種行事への参加者は、資料2にまとめたように多数に上る。
(7)その他:
 海外からの参加者及び同伴者へのおもてなしとして、多彩な日本文化体験を実施した。「着付」、「華道」、「茶道」、「書道」の日本文化体験プログラムを全15回実施し、157名が参加、延べ100名の市民ボランティアが活動した。これらは、
札幌市の外郭団体である札幌国際プラザの方々の貢献によるもであった。
 着付体験実施時には、色とりどりの着物に身を包んだ参加者の姿が会場に華を添え、拍手が沸き起こる場面も見られた。華道と書道の会場では、熱心に作品に取り組む参加者の姿が目を引き、自身の作品を写真に収め、互いの作品
について話すなど、参加者同士の交流の場にもなっていた。また、日本文化に強い関心を持つ参加者も多く、市民ボランティアの話に熱心に耳を傾ける様子が印象的だった。
 日本文化体験プログラムの参加者からは、会議終了後も日本の伝統文化に触れる貴重な経験であったという声とともに、市民ボランティアのおもてなしの心を感じたという感謝の言葉も多数寄せられている。
 日本文化体験ボランティアの池上代表は、「参加者との交流を楽しむことができ、言葉が通じなくても身振り手振りで心は十分通じ合えると改めて感じました。毎回、日本文化体験に参加した人から、札幌市民の温かいおもてなしの心を
高く評価されるが、これは、「札幌のカラー」として誇れることですね」と語っていた。
 「着付」には、日本人も参加しており、久しぶりの和服を楽しむ方もいた。また、会場内をそのまま和服でいる参加者もいて、会場に華を添えることにもなった。
 これに加えて参加者に対し、市民ボランティアガイドによるテレビ塔、赤れんが、時計台、狸小路などの観光名所を歩いてめぐるツアーを実施した。今回は、4日間で214名が参加する過去最大規模のシティウォークツアーとなり、延べ95
名のボランティアが案内した。
 シティウォークツアーは、徒歩で市内をめぐることで街の様子を知り、札幌滞在を快適なものにするばかりでななく、会議参加者と市民ボランティアとの交流の場でもある。ツアー中は、札幌の街に関する話のほか、参加者の出身国や家
族の話などで会話が弾む場面も多数見られた。参加者から、地元市民の温かいおもてなしと札幌の魅力を知る良いツアーであったというお礼の言葉が寄せられるなど大好評でした。
 外国語ボランティアネットワークの吉村会長は、「今回の市民ボランティアのおもてなしで会議参加者の再来訪につなげることが大事であり、市民ボランティアとして活動の目的意識をしっかり持つことが重要です。市民ボランティアの中に
は、海外居住経験のある方もたくさんいるので、その経験を生かし、ツアーの企画段階から携わることでより一層充実したプログラムにしていきたい。」と語った。
 国内からの参加者にも札幌に来たことがない方がかなりおられ、これらの方々にも楽しんで頂けたのは札幌の観光地としてのよさを知ってもらうことで大きな収穫であった。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
 日本学術会議との共同主催で日本が国を挙げてこの会議を支援して頂いていることが世界中に周知された。個人参加という形であったが、唐木日本学術会議副会長が、初日の開会式で微生物学の重要性をその挨拶の中に含ませていた
だき世界中の微生物学関連科学者に、我が国における微生物学の重要性を評価いただいた。更に、天皇陛下のご臨席を頂くにあたっても申請から、実際の記念式典の運営などあらゆる面で学術会議からご支援をいただけたことで、この会
議が如何に重要なものであるかを世界に向けて発信できた。このことにより、大震災の後にも拘わらず国内外からの科学者は勿論一般の方々にこの会議の重要性を知ってい頂く大きな力となった。市民公開講座においても広渡日本学術会
議会長からこの会議の意義を開会挨拶及び講演で述べて頂いたことで予想をはるかに超える会場一の参加者を得ることができた。学術会議との共同主催なしでは、予定の80%もの参加者を得ることは不可能であったと言える。
 また、札幌国際プラザは、会期中、メイン会場である幌コンベンションセンター内において、参加者への市民によるおもてなしの一環として、参加者登録のサポートとシティ・インフォメーションデスクの設置をしました。
 延べ30名を超える市民ボランティアにより、参加者へのコンベンションバックの配布を行い、シティ・インフォメーションデスクでは、市内・道内の見どころやおすすめの居酒屋などの情報を提供するだけでなく、一人ひとりの希望や相談にき
め細やかに対応し、デスクを訪れた参加者は、みな笑顔がこぼれていた。また、札幌市や商工会議所・市民ボランティア協会などから構成される“札幌おもてなし委員会”が、期間を合わせて実施した“MICEおもてなし月間”を通じて、市民一
人ひとりが思いを込めて作った折り紙と市長からのウェルカムメッセージを手渡した。カエルやバラ、中には、はんにゃの面など、一枚の紙から創り出される様々な形の折り紙の精密さや華やかさに、受け取った参加者からは、「素晴らしい!
是非、孫に持って帰りたい。」など、多くの感嘆の声が上がっていた。
 謝辞
 このように道内で過去最大の国際会議「国際微生物学連合2011会議」(IUMS2011)が成功裏に終了できたのは、日本学術会議、多くの省庁、多くの企業や財団、多くの参加者、北海道、札幌市、多くの市民など多くの方々の協力支援があっ
たからであり、ここに心から国内組織委員会を代表してお礼申し上げます。
 今年3月の東日本大震災後における国内最大規模の国際会議開催成功を通して、札幌・北海道の安全性や市民のあたたかいおもてなしの心が世界に発信される良い機会となった。そして我々が大震災から復興する力になっていることは間
違いありません。


(天皇陛下の御臨席のもと主催者挨拶を行う広渡清吾日本学術会議会長)

(天皇陛下に感謝の言葉を申し上げる冨田房男国内組織委員長)
  大臣挨拶(PDF形式)
(来賓挨拶を行う古川元久内閣府特命担当大臣)





(レセプションで参加者と歓談される天皇陛下)

(レセプションで司会を務める春日文子先生(現日本学術会議副会長))

(一般セッション風景)

(市民公開講座で開会挨拶する広渡清吾日本学術会議会長)

(市民公開講座で講演するアーノルド・ドメイン博士(米国))

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