代表派遣会議出席報告
会議概要
- 名 称
(和文)国際土壌科学連合(IUSS)第1部門国際会議「私たちの未来を創る土壌」
(英文)International Union of Soil Sciences (IUSS) Division 1 Meeting:Soils for Our Future - 会 期
2025年7月19日から2025年7月25日まで(7日間) - 会議概要
- 会議の形式:対面、全体会議、部門総会・役員会、シンポジウム、現地調査会議
- 会議の開催周期:定期及び必要に応じて随時(対面定期は隔年)
- 会議開催地、会議場:カナダ・ウィニペグ、RBCコンベンションセンターウィニペグ
- 会議開催母体機関:国際土壌科学連合(International Union of Soil Sciences, IUSS)
- 会議開催主催機関及びその性格:
IUSS(国際学術会議(ISC)に国際学術団体として加盟、80余りの国を代表する土壌科学関連学協会が会員、我が国は日本学術会議が会員として登録)、今回の会議はカナダ土壌科学会および世界土壌安全保障グループが共催、大会委員長 R. Heck博士(IUSS第1部門長、カナダ土壌科学会長) - 参加状況(参加国名・数、参加者数、日本人参加者の氏名・職名・派遣機関)
参加国名・数:日本、オーストラリア、ブラジル、カナダ、中国、チェコ、デンマーク、フランス、ドイツ、ハンガリー、インド、イタリア、韓国、メキシコ、オランダ、パキスタン、ニュージーランド、ポーランド、ロシア、南アフリカ、スペイン、米国の計22か国
参加者数:約400名
主な日本からの参加者:小﨑 隆・愛知大学/京都大学名誉教授(IUSS Honorary Member, Division 1 Soil Judging Contest WG Member)・日本学術会議
- 次回会議予定(会期、開催地、主なテーマ):
会期 :2026年6月7日~12日
開催地 :南京国際展示場
準備組織:IUSS及び中国土壌学会
テーマ :人類が共有すべき未来の土壌
- 会議の学術的内容
- 日程と主な議題:
7月19日:ワークショップ(2課題「土壌-植物-大気連続系における物質の流れ」及び「黒色土壌国際ネットワーク」)
7月20日:全体会議「ペドロジー(基礎土壌学)2025、そして将来」、企業展示等、開会式・レセプション
7月21日:基調講演、シンポジウム(17セッション)、IUSS第1部門総会・役員会、ポスターセッション、企業展示等
7月22日:基調講演、シンポジウム(17セッション)、ポスターセッション、企業展示等
7月23日:基調講演、シンポジウム(15セッション)、ポスターセッション、企業展示等、閉会式・バンケット
7月24日:現地調査会議(3課題「土壌と地形」、「土壌と水管理」及び「長期連用試験」)
7月25日:カナダの大学生を対象としたSoil Judging Contest - 提出論文:
「SDGs達成のための包括的土壌教育パッケージ」(小﨑:筆者)
その他:
「土壌科学におけるAIとその応用」(B. Minasny博士・シドニー大学・豪・基調講演)
「知識から行動へ-土壌科学を政策に反映させるために」(F, Terribile博士・ナポリ大学・伊・基調講演)
「変わりゆく土壌擁護の背景」(P. Wensley氏、National Soils Advocate(元クイーンズランド州知事/環境大使)・豪・基調講演)
「土壌安全保障と土壌健全性評価の効率向上」(A. McBratney博士、シドニー大学・豪)
「カナダにおける酸化還元型土壌の特性と分類改訂」(R. Heck博士、グェルフ大学・加)
「ペドロジー(基礎土壌学)と土壌の健康」(C. Morgan博士、土壌健康研究所・米)
「在来知と土壌科学の接点」(C. Smith博士、リンカン大学・ニュージーランド)
「世界土壌資源照合基準における識別特徴としてのalbeluvic tonguingの重要性とRetisolのゆくえ」(C. Kabala博士、ヴロツワフ環境生命科学大学・ポーランド) 他約400題 - 学術的内容に関する事項(当該分野の学術の動向、今後の重要課題等)
①IUSS第1部門「空間・時空における土壌」が所掌する土壌科学の分野はペドロジー(基礎土壌学)であり、土壌科学発祥の原点であるにもかかわらず、近年、世界的に「基礎的」を理由に研究・教育リソースの獲得が困難な状況に遭遇することがあったが、今回、開催国のカナダ土壌科学会と世界土壌安全保障グループとの連携により、ペドロジーが学術的のみならず社会的、文化的なより広範な課題と取り組み、今後の主要な課題解決の可能性を提示できた点は極めて重要である。これに関しては、当該部門の役員として我が国から唯一参画している前島勇治博士(IUSS Commission 1.3 vice-Chair・農研機構)と連名での同Commission Chairである E. Dobos博士(ミシュコルツ大学・ハンガリー)の発表の中でも十分に指摘されていた。
②本学会では基調講演はもとより「土壌安全保障」や「土壌の健康」を主テーマとするシンポジウムセッションは21%にのぼり、その関心の高さが明確に示された。その中でSDGs達成のための土壌の健康、とりわけ土壌炭素の動態、を定量的に把握するためにAIを含む情報科学の利用は不可欠であるが、まだその方法は試行錯誤の段階にあり、研究者は具体的な目的のためにそれらを取捨選択しつつ適切に使う必要があることが強調された。
③土壌科学研究の成果を土壌安全保障やSDGs達成のための政策へ反映させ、必要な技術を社会実装するためには農業者、消費者、企業、政府、NPOなどのステークホルダーの協働が不可欠であるが、それぞれのセクターにおける理解は未だ不十分であり、そのための教育システムの構築が必要であることが訴えられていたことは重要な視点である。
④近年、我が国においてはペドロジー研究が低迷しており、また、土壌の健康や土壌安全保障に関する社会的関心は未だ高まっていないのが現状であるが、この会議で見られたように世界では地球環境問題の解決やSDGs達成のためには土壌の健康や土壌安全保障の視点が不可欠であり、それらの問題解決のためにペドロジーがすでに広く利用されていることから、我が国においてもペドロジー研究の深化と展開が焦眉の急と言えよう。
⑤以上のように「土壌の健康・土壌安全保障」研究・教育の深化と社会への啓発が世界の主要な潮流の一つであることを鑑みるに、学術会議土壌科学分科会およびIUSS分科会がこれまでに実施してきた数多くの公開シンポジウムを基礎として、現在、「土壌の健康」について世界と同様の視点で意思の表出を準備していることは至極当然かつ喫緊の必要性を有していることが明らかとなった。
- その他の特記事項:
①今回の会議は我が国の一般的な学務・業務日程に照らすと必ずしも参加し易い時期ではなかったものの、我が国からの出席者が派遣者のみであったことは残念であった。特に、(3)‐⑤で述べたように、当該分科会としては近年特に重要視している課題であるだけに、潜在的参加者への事前の周知について反省すべき点があったことは否めない。次回以降のために広報活動改善の必要性を銘記したい。
②本会議の関連イベントとして7月19日にIUSSと世界食糧機構(FAO)との共催で開催された「黒色土壌国際ネットワーク」ワークショップでは、対象とする黒色土壌の中心概念がわが国の土地条件とは異なる乾燥~半乾燥中性の肥沃な所謂「チェルノーゼム」タイプ土壌であるが、今回カメルーンやインドネシアの報告には黒色でありながら上記とは全く特性の異なる火山灰土壌や泥炭土壌も含まれており、それらはわが国にも深く関連することから、わが国からの報告がなかったのは大変残念であった。今回の共催団体の一つであるFAOは各国の農水省を窓口として活動を展開していることから、これまでにもすでに指摘されてきたが、特に我が国では省庁とアカデミア間の情報共有と協働の更なる活性化が必要であると判断された。
- 日程と主な議題:
所見
①直前の急な会場変更(カナダ北部の森林火災避難者支援のため)にもかかわらず、多くのセッションを予定変更することなく当初の計画通りの対応がなされた大会委員会の組織力は高く評価でき、第24回世界土壌科学会議(於カナダ・トロント市、2030年7月予定)の成功も大いに期待できる。
②このような国際会議を国内の定例学会と同調して開催し、当該分野の国際化をより推進できたことは、公用言語が英語であることの優位性を遺憾なく発揮したことによるとはいえ、派遣者は羨望の念を禁じ得ない。
③カナダ国内からが主流とはいえ発表者の相当数が学生(発表者の21%以上)や若手研究者であり、また、参加国には数えなかったが、アフリカ、アジア、南米からの留学生も多数参加するとともに、学生のための各種表彰も実施されたことは、カナダの当該分野における研究人材育成の重視とそれによる国際展開戦略を表しているものであると理解できた。
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| ①全体会議での基調講演 | ②シンポジウムセッションの討論 |
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| ③ワークショップ | ④現地調査会議 |
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| ⑤現地調査会議 |




