代表派遣会議出席報告
会議概要
- 名 称
(和文)第37回万国地質学会議、第5回IUGS-IGC総会、第80回国際地質科学連合理事会、及び執行理事会
(英文)37th International Geological Congress, 5th IUGS-IGC Council Meeting, 80th International Union of Geological Sciences, Executive Committee, and Bureau meeting - 会 期
2024年8月25日から2024年8月30日まで(6日間) - 会議概要
- 会議の形式:対面
- 会議の開催周期:IUGS理事会(年1回)
IUGS 執行理事会(年4回、理事会開催時は対面、それ以外はバーチャル)
万国地質学会議及びIUGS-IGC 総会(原則4年に1回) - 会議開催地、会議場:大韓民国・釜山市、国際会議場(BEXCO)Centum Premia Hotel 会議室
- 会議開催母体機関:国際地質科学連合
- 会議開催主催機関及びその性格:
国際地質科学連合主催(地質科学及び関連分野の振興を目指すISC傘下の国際組織)、第37回万国地質学会議組織委員会共催
- 参加状況:
参加国・地域名:米国、英国、中国、日本、韓国、台湾、フィリピン、タイ、マレーシア、インドネシア、インド、フランス、ドイツ、
デンマーク、ノルウェー、スウェーデン、フィンランド、オランダ、スペイン、イタリア、ギリシャ、イスラエル、
リトアニア、ルーマニア、スロバニア、スロバキア、チェコ、ポーランド、カザフスタン、イラン、オーストラリア、
カナダ、南アフリカ、ケニア、エチオピア、モザンビーク、ナミビア、アンゴラ、ナイジェリア、ボツワナ、
ルアンダ、ウガンダ、セネガル、ガンビア、モロッコ、アルジェリア、キューバ、メキシコ、ペルー、コロンビア、
アルゼンチン、ブラジル等。参加国数:98カ国・地域
参加者数:2,500名日本人参加者:(現地参加27名+オンライン参加100名以上)
北里 洋(IUGS執行理事(財務担当)・早稲田大学招聘研究員・日本学術会議代表派遣制度による派遣)
齋藤 文紀(島根大学副学長・37回万国地質学会議科学委員会・日本学術会議代表派遣制度による派遣)
川村 喜一郎(IUGS海底災害タスクフォースChair・山口大学教授・基礎地盤Co.Ltd )
大久保 泰邦(日本学術会議連携会員・土木委員会・日本地熱開発Co.Ltd)
掛川 武(東北大学教授・日本学術会議地球惑星科学委員会IUGS分科会委員長・IUGS-IGC Council Head delegate)
堀 利栄(愛媛大学副学長、日本学術会議会員、IUGS-IGC Council vice delegate)
圦本 尚義(北海道大学大学院教授、日本学術会議連携会員、IGC Plenary Session 招待講演者)
佐々 真志(国立研究開発法人港湾空港技術研究所主幹研究員、上席グループリーダー)
他19名が現地参加 - 次回会議予定(会期、開催地、主なテーマ):
第38回万国地質学会議は2028年8月、カナダ(カルガリー市)、主催はIUGSと第38回万国地質学会議組織委員会。「Geosciences for Humanity(人類のための地球科学)」をスローガンとして地質科学全分野がそれぞれの研究成果に基づいて地球規模課題にどう立向うかなど広範囲に議論する。
第81回IUGS理事会は2025年2月に開催されるが、開催場所は理事会メンバーのうち8割が入れ替わった直後であるために現時点では決まっていない。
- 会議の学術的内容
- 日程と主な議題:
第37回万国地質学会議(37th IGC)は8月25日から30日までの会期で、38のトピックのもとで3,000を超える講演が行われた。テーマは、層序基準、人新世、陸域及び海域における地質災害軽減、ビッグデータ地質情報とその応用、Geoethicsなど地質科学全体にわたり、その内容も多岐にわたっている。
一方で、IUGSの理事会、執行理事会、各委員会の打合せなどは、37th IGCと並行して開催された。理事として参加した会議について項目と若干のコメントを記す。@8月24日(土)午前中に理事会メンバー(会長、事務局長、財務担当理事) による打合せを行い、主な問題点を含む理事会議事次第の確認を行った。
@8月25日(日)午前中に第80回理事会(IUGS関係者20名参加)2020〜2024年度IUGS理事メンバーによる最後の理事会。会長、事務局長、財務担当理事から今年度前半の活動報告を行ったのち、IUGS-IGC Councilで議論する内容、理事会選挙などについての段取りを確認した。
@8月25日(日)午後にIGCC(IUGS-IGC Council)メンバー(第35回、36回、37回万国地質学会議会長、事務局長、IUGS会長、IUG事務局長、財務担当理事)で、8月28、29日に開催される会議のアジェンダ、会議におけるそれぞれの役割を確認した。
@8月26日(月)14時〜15時半、BEXCOに隣接するAuditoriumにおいて万国地質学会議開会式が行われた。全参加者が集まる中で、韓国政府大統領の祝辞の紹介に引き続き、通商産業大臣、釜山市長、大会委員長の挨拶、IUGS会長John Ludden の挨拶、その他来賓からの祝辞があった。引き続き、IUGS 表彰を行った。地質科学の発展に寄与した最高の賞であるEmile Argand Medal には米国アリゾナ大学のGeorge E Gehrels特別栄誉教授(地球年代学)が、James M. Harrison Award for distinguished Serviceにはドイツ連邦地質調査所のKristine Asch 上席研究員(情報地質学)が、Early Career Awardには スロバニア・コメニウス大学のSujan Michel講師(地質学)がそれぞれ受賞し、メダルを授与された。最後に、Gehrels教授による受賞記念講演があった。
@8月27日(火)14時から18時まで、IUGSがユネスコと連携するIUGS-UNESCO 2nd 100 Geoheritage Sites(地質遺産)を発表し、その内容を紹介した。日本からは、鹿児島県奄美喜界島、雲仙・普賢岳の平成新山溶岩ドームが選ばれた。9月10日には日本地質学会山形大会会場においてIUGS分科会の掛川委員長からプレス発表を行うことになっている。
@8月28日(水)のほぼ全日(9時半〜17時)の間に、IUGS-IGC Council 総会を行った。28日は、2020〜2024年期の会長報告、事務局長報告、財務報告、事務局報告を行い、会場にいる加盟国代表から承認された。今期はチャレンジングな活動ができ、IUGSを地球惑星科学諸学会の中で、学術的に推進するだけでなく、成果を社会貢献に繋げる意味でも著しく進展したことが評価された。それに引き続いて、IUGS委員会8件、課題別委員会3件、イニシアティブ1件、IUGS Big Project1件の活動報告があり、それぞれ活動が活発であるとして承認した。また、初日の夕刻にはIGC に関する定款(Statute) と附則(ByLaw) の改訂が提案され、承認された。
@8月29日(木)9時半〜16時半 第38回万国地質学会議の開催国としてはロシアが決まっていたが、IUGS 理事会はロシアのウクライナ侵攻をよしとせず、万国地質学会議開催を取下げさせた。その代わりに開催場所を募ったところ、グラスゴー(英国)、カルガリー(カナダ)、メルボルン(オーストラリア)が立候補した。それぞれ魅力があったが、カナダのカルガリーが準備状況、多様なフィールド、陸だけでなく深海にも及ぶ話題など魅力が満載であると感じられた。投票の結果、カナダ・カルガリーが選ばれた。万国地質学会議の投票は、加盟国が分担金金額に基づいた票数を行使することができるので、最高位の加盟国分担金を払い続ける意義は大きい。
午後になり、次期理事会メンバーを立候補者の履歴書と決意表明発表に基づいて投票し、票数に従って当選者を決定した。@8月30日(金)13時〜15時IUGS新旧合同の理事会を開催し、引継ぎ事項を確認した。財務は日本からオーストラリアに引き継がれるが、実務的な内容が多いので、USBに多くの情報を入れ、手渡した。9月から10月にかけてオーストラリアに銀行口座を開いて、段階的に業務を引き継ぐ予定である。その間、オーストラリア大使館科学技術・教育部に支援をお願いすることとしている。
@8月30日(金)16時〜17時半 37th IGCの閉会式が挙行された。IUGS新会長のHassina Mouri教授の挨拶、大会委員長DAekyo Choung教授の挨拶とBusan Decralationの読み上げが行われ、大会は閉会した。
- 提出論文:
本会議は、万国地質学会議、IUGS理事会および事務局会議というビジネスミーティングが数多く持たれたが、学会として3,000を超える講演が持たれた。
日本に直接関わる議論、広く世界の関心を踏まえた重要な話題について、下記にて報告する。1)2023年から立ち上がったタスクグループとして、「海底地質災害に関するTask Group」の報告が委員長である山口大学・川村喜一郎教授からあった。研究計画の紹介があり、海底地滑りの実態の把握とその防災に向けた活動が世界に広がりを持つ内容であると認められた。理事会ではすでに認められているが、IUGS-IGC 総会でも追認されたことになり、5年間のプロジェクトとして活動することになる。世界の当該分野のプラットフォームとして機能することを期待している。
2)Chibanianに引き続く話題として、Anthropocene (人新世)が話題となった。特に社会では、地球課題を解決するキーワードとして一般化している。IUGSのICS(層序学)委員会の第四紀分科会で議論されたが、2月の理事会の折にICSとしては認めないという結論になった。主に、Anthropoceneを主導するリーダーたちの勇み足が目立ち、科学に基づいた議論を十分にすることなく、地質科学コミュニティに受入れられなかったことは残念である。ただ、既に社会では広く使われている用語である「人新世」であるので、「ルネサンス」のような使い方で用いることで、地球課題に人類がどう立ち向うかを考える際のLeading Flagになるであろう。今後も議論は続くが、IGCの会期中にAnthropocene のリーダーたちの連名でNature に意見論文を発表したのは、マスコミを利用したデモンストレーションであるという批判もあり、逆効果になった。冷静な科学的議論の場に戻って欲しい。
3)Deep-time Digital Earth というビッグプロジェクトが中国出身の前会長Qiuming Cheng氏によって立ち上げられた。IUGSの各委員会のデータ、および各国が所管するデータをも中国のスパコンに収納しようというプロジェクトであり、どこが版権を持つのかを含めて、問題が大きい。しかし、最近のAIブームに乗って瞬く間に開発途上国を含めてデータを集めている。しかし、今年初頭に資源・エネルギーに関する欧米系諸学会の反発があり、データの現住所がどこにあるべきかなど、議論が続いている。版権は各国に残した上で二次的な情報を処理する方向になることで決着しそうではあるが、中国政府がどう出るかは注視したい。
4)37回IGCは当初日本地質学会が運営に関わることで近隣国として支援することにしていた。しかし、準備の過程で、韓国側が、竹島を独島、日本海を東海と表記した会議サーキュラーを発行したことを契機にして日本地質学会の不信感が募り、公式ルートとしては議論できない状態になったことは残念であった。科学としての地質科学はシームレスであり国境はない。そういう意味を踏まえて、参加してくださる方もいらしたようである。バーチャルでの日本からの参加者が100名を超えたのは、IGCが国境を超えた地質科学の交流の場として機能したことを表している数字でもあり、できるところから学術交流を深めていきたいと願っている。IUGSとしては、それぞれの国の事情があるにせよ、科学的交流の場が政治的プロパガンダの場になってしまったことを反省し、IGCに関わる定款を変えている。そのような難しい状況にある中で、北海道大学の圦本忠義先生には基調講演を引き受けていただいた。日本の科学的なプレゼンスを示すことができたことに感謝したい。多くの分野で、日本人の研究発表があればもっと議論が活発になっただろうと思う場面に直面するだけに、反省が残る難しい会議であった。
- その他の特記事項:
国際地質科学連合(IUGS)は、地質科学分野の研究を振興するとともに、全球に影響を与える環境問題、資源・エネルギー問題、自然災害などの人間生活に関わる課題に関わっている。本来、地球規模課題は国境を超えたシームレスな対応をしなければならない。しかし、覇権主義国家の拡大に伴って、国境を意識せざるを得ない事態が発生するようになってきた昨今、国連型組織であるIUGSの活動に関わることは重要である。日本が、現在、Category8という最も高い分担金を支払って加盟国として参加していることは、日本から理事を送り込みやすくしている。北里は今期までの8年間にわたって財務担当理事として執行部に所属してきた。その間、地質科学関連分野の世界の動向を把握でき、また、新しい流れを作ることに貢献するメリットがあった。執行部のみならず、委員会活動に積極的に関わることで、引き続き日本の存在感を高めることが重要である。現在、地球規模課題への対応にとどまらず、レアアース、石油・天然ガスなどの資源エネルギー、そしてデータサイエンスに関わるなど経済安全保障にかかる問題へコミットすることで、世界の安定した発展に寄与することが求められている。日本学術会議には、これからも引き続き、国際的な科学組織であるIUGSへコミットし続けることを支えていただきたい。
- 日程と主な議題:
所見
IGCとしては、会期前、会期中、会期後の巡検旅行が企画されたが、韓国内に限定され、当初計画された日本、中国、台湾への見学旅行が取りやめになったことは残念である。また、ロシアによるウクライナ侵攻により、ロシアの科学者が国を背負って参加することを許さず、個人参加のみを許したために、そう思わない国の不満は残った。科学には国境があってはならないとはいうものの、理想とはかなりかけ離れた現実を見るにつけ、寂しく思う。いつまでも理想を掲げて活動したいと思う。それが、第二次世界大戦後に発足した日本学術会議の使命でもあるに違いない。
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IUGS-IGC 総会 会長総括講演に対する承認風景 |
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新旧財務担当理事の交代風景 |
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Conference Dinner役員たち 真ん中のStanley Finney (事務局長)と北里(財務担当理事)は8年間理事会の中核にいた盟友 |