代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称

    (和文)国際地質科学連合、第77回理事会および執行理事会
    (英文)International Union of Geological Sciences (IUGS), 77th Executive Committee and Bureau Meetings

  2. 会 期

    令和4年 3月16日~18日(3日間)

  3. 会議出席者名

    John Ludden (President), Stanley Finney(Secretary General), Hiroshi Kitazato (Treasurer), DaeKyo Cheoung (Vice President), Claudia Mora(Counciller), Silvia Peppoloni (Counciller), Ludwig Stroink (Counciler), *Qiuming Cheng (Past President), *Hassina Mouri (Vice President), *Jennifer McKinley (Counciller)、ほか35名 (* online 参加者)

  4. 会議開催地

    パリ(フランス)

  5. 参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者)

    参加国数20カ国、参加者数55名、日本人参加者3名

  6. 会議内容
    • 日程及び会議の主な議題
      3月14、15日: 会議場準備、議題整理(執行部のみ)
      3月16日~17日午前: 理事会オープンセッション)ウェルカムトーク(IUGS会長、フランス地質学会会長、ユネスコ地球科学部長)、会務報告(執行部(会長、事務局長、財務)、各委員会・共同プロジェクト報告、関連学協会活動報告、International Geological Congress(IGC) 報告、IUGS 重点活動(Gender Equality, Public Outreach, IUGS における表彰)、IUGS の将来に関する意見交換
      3月17日午後~18日: (理事会クローズドセッション)委員会活動に関する議論、会則・附則の改訂などIUGS 活動、ウクライナ戦争に関する声明と関連組織への周知、2022予算案の策定、その他
    • 会議における審議内容・成果
      1) IUGS活動の世界への効果的周知について議論した。Social Media を使った周知とともに委員会活動を通じて学術的内容を伝えることが必要であることを確認。
      2) 財務報告を北里が行い、承認された。加盟国分担金で運営していることを認識し、偏らない、透明性の高い運営と運用を進めることを確認。
      3) 国際数学連合のジェンダー委員長を招き、数学コミュニティーにおけるジェンダー問題を話していただき、IUGSではどうかを議論。Task Force in Diversity and Inclusion を立ち上げることにした。
      4) ロシアによるウクライナ侵攻をうけて、各学問分野の態度が問われている。IUGSは重要な加盟国としてロシア、ウクライナ双方がいるが、一早くロシア政府による他国への軍事侵略を非難し、組織レベルでの連携を凍結することを表明した。もちろん、個人レベルでの連絡は継続すべきであるという立場である。2028年の万国地質学会議(IGC)にロシア・サンクトペテルブルグが内定しているが、開催地の見直しを含めて議論することを確認した。
      5) 日本と韓国の間には、竹島(韓国名、独島)の問題、日本海の呼称問題がある。2024年のIGCは韓国釜山で開催されるが、地質巡検地の一つに竹島が含まれていること、日本海の代わりに東海を呼称しているなど、国家間で解決していない問題が含まれている。IUGS国内委員会委員長は、理事会(オープンセッション)において本件について発言し、「韓国の組織委員会はこのことに最大限の注意を払いつつ準備をすすめることを要望する」という文言を議事録に記載する案を作成した。(まだ、議事録は未承認)
      6) IUGSには、ICS(層序学)、TGIG(放射壊変定数)などの科学の基礎を構成する分野のほか、IFG(法地質学)、DDE(地質情報科学)、ICG(世界地質遺産)など、その成果が社会と直結するプロジェクトも多い。この流れは、学問間を結ぶ分野融合(Interdisciplinary Science)から、市民を含むさまざまなステークホルダーをも巻き込んだTransdisciplinary Sciences に広がるきっかけを作っている。地質科学は基礎科学の一つであるが、社会とのつながりをもった科学でもあることを認識した。
    • 会議において日本が果たした役割
      1) 財務担当理事として、国際組織の財務の公平性、透明性、持続的安定性を維持することに努めている。「日本に財務事務所を永久に起きたいね」と冗談が出るほど、信頼されていることを改めて認識した。
      2) IUGSの活動に国際委員として参加し、推進している。中期更新世基底のGSSPである「チバニアン」の模式地である千葉県市原市にプレートが打たれるセレモニーを本年5月に実施することが会議中に公表されたことは、好例である。
    • その他特筆すべき事項

会議の模様

IUGS は地質科学を振興し、社会実装を促している。また、学術組織として大きな問題となっている性差、人種、人権に関わる話題に立ち向かっている。ジェンダーに関する問題には先進的に取り組んでおり、現理事会メンバー10名中4名が女性である。また、ユネスコとの共同プロジェクトであるIGCPは、リーダーの6割が女性である。一方で、委員会の中では1割を超える程度の女性しかいないものもあり、注意深く性差を乗り越える取り組みを行なっている。これは、地域差別、人種差別などについても同じである。理事会の議論を進める中でも、注意喚起がしばしばされるなど、ともすると男性主体となりがちな組織運営に竿をさす発言がされた。
国際地質科学連合(IUGS) は、地質科学分野の研究を振興するとともに、全球に影響を与える環境問題、資源・エネルギー問題、防災減災などの人間生活に関わる課題に関わっている。科学では、本来、地球規模課題は国境を超えたシームレスな対応をしなければならない。しかし、昨今の覇権主義国家の拡大に伴って、国境を意識せざるおえない事態が発生するようになってきた。このことについては、対岸の火事ではない。評論家として綺麗事をならべるのではなく、我がこととして捉え、真剣に議論し、答えを出し、行動に移す必要がある。今回の理事会での議論は、まさに、自分ごととして地球課題問題に取り組もうとする姿勢にあふれていた。国際組織の一員であるIUGSの活動に関わることは重要であることを認識した。これらの活動がほかの国際組織にも波及し、ひいてはISC活動にも影響を与えることになる。
日本が、Category 8 という最も高い分担金を支払ってまで参加していることは、日本から理事を送り込みやすくなり、理事会での発言を通じて国際組織の運営に積極的に関わることができる。一方で、各委員会活動などで活躍することも強く求められている。また、期待されている。日本が世界で果たす責任は重大である。こういった活動を通じて、地質科学関連分野の世界の動向を把握でき、また日本の意見や見識を反映させることを通じて、日本の存在感を高めることにつながっていくのである。地球規模課題への対応にとどまらず、コロナ禍によって人流・物流が滞り、またロシアによるウクライナ侵攻にともなう経済制裁が世界経済に影響を与える中、レアーアース、石油・天然ガス、また再生可能エネルギーなどの資源エネルギー課題、環境課題、防災減災などから派生する経済安全保障にかかる問題にコミットし続ける立場を維持する重要さを感じている。 何よりも、世界を俯瞰する目を持ちつつも、個々の地域で具体的に起こっている問題を議論することが大切である。
次回理事会開催地は、当初は、会長の出身国であるイギリスで開催することを考えていた。多くの加盟国がありながら議論の俎上に乗りにくいラテンアメリカでの開催を求める意見が複数出され、問題なく決定された。西欧を中心とした運営に偏りやすい国際組織が多い中で、IUGSのグローバルな視点を示す好例である。

次回開催予定  次回開催予定、令和4年2月末 ラテンアメリカ(コロンビア、ボゴタ市での開催を想定しているが、チリ、グアテマラなどを推す声もあり、事務局長が調整することになっている)

フランス地質学会会議室にて、Harrison Medal を贈呈しているところ。右から、Claudia Mora(理事), John Ludden(会長), Peter Boblowsky(受賞者), Stanley Finney(事務局長)