代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称

    (和文)国際宗教学宗教史学会 理事会
    (英文)International Association for the History of Religions (IAHR), Executive Committee Meeting

  2. 会 期

    令和3年8月31日(1日間)

  3. 会議出席者名

    藤原 聖子

  4. 会議開催地

    イタリア・ピサ市(報告者はオンラインで参加)

  5. 参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者)

    12カ国、12名、日本人1名

  6. 会議内容

    <日程>
    理事会 8月31日13~18時
     現地開催の予定がハイブリッド形式に変わったため、時差の問題もあり、当初の予定では1日半の会議を半日に短縮して実施した。各種報告を文書により事前に配布し、全員予め読了した上で議論に集中することにより、短縮しながらも充実した会議を実現できた。

    <議題と審議内容>

    • (1)諸報告
       昨年開催予定だった5年に1度の世界大会がCOVID-19の影響でキャンセルされて以来、本学会の活動はもっぱらオンラインで行っている。主な活動実績は、IAHRウェビナーの開催、各国宗教学会へのウェビナー提供の呼びかけ、若手・院生対象のオンラインセミナーの計画である。それらの進捗状況について報告した。
    • (2)2025年世界大会
       2025年大会の開催地について、複数の招致案について議論を行ったが、どれも十分ではないという結論に至った。これは、安全性・安定性、学術性、多様性、コストの全要件を満たすことがCOVID-19により非常に困難になったためである。引き続き検討を行うことになった。
    • (3)出版物のオープンアクセス問題
       ジャーナルの購読料高騰によりオープンアクセス化が推奨されているが、問題もまた発生していることが認識された。国策として、大学図書館などが料金を負担するオープンアクセス化が、オランダ、イギリス、スウェーデンといったヨーロッパの一部の国でのみ実施され、国家間の格差が広がっていることや、質が保証されていない新興のオープンアクセス・ジャーナルの問題である。これらについては単独の学会による対処は難しいため、他学会・学会連合やアカデミーなどの動向を逐次把握することがまず重要との認識が共有された。
       他方、本学会の国際性を高める一案として、途上国支援として、IAHR叢書内の一部を、本学会負担でオープンアクセス化することを検討することになった。
    • (4)その他
       前期からの重要課題である「本学会の目的の再定義と将来構想」については、来年の役員会で改めて検討することになった。
       人文学において国際学術会議(ISC)に対応する、国際哲学人文学会議(CIPSH)の役員(副事務局長・執行委員)を、現在本学会の会長・事務局長が務めており、対話・連携をより重視している。

    <会議において日本が果たした役割>

    •  2020年8月に役員改選が行われ、報告者が事務局長に選出された。本学会は1950年に設立されたが、日本人が事務局長に着任するのは初めてである。会議準備並びに当日の議事進行を行ったことはもちろんだが、前述の「安全性・安定性、学術性、多様性、コスト」をめぐる議論は役員間で意見が大きく分かれやすく、相互理解を促進し、調停を試みる役割を果たした。

会議の模様

 本学会の役員会は、本学会の地域学会である、ヨーロッパ宗教学会(EASR)の年次大会に合わせて開催された。その大会のテーマは“Resilient Religion”であった。レジリエンスは現在、文理様々な領域でキーワードとして用いられている。宗教学は、方法論として、歴史学、社会学、人類学などの人文・社会科学系の方法論も用いれば、認知科学、進化学などの自然科学系の方法論も用いる。このため、大会テーマも発表者によってさまざまに解釈され、宗教学の学際性を浮き彫りにした大会であった。すなわち、“Resilient Religion”というフレーズからは、COVID-19や気候変動による災害の中で、宗教集団(教団・信者)がどのように耐え忍んでいるかというイメージがまず浮かぶかもしれないが、本大会では、それら喫緊の社会課題に直接応答する臨床的研究も見られたが、またそれに尽きたわけでもなかった。たとえば、レジリエンスを進化心理学の用語としてとらえ、これを初期キリスト教史に適用することで、新たな知見を引き出そうとする研究もあれば、レジリエンスを社会心理学の観点からとらえ、災害の原因を超自然的存在に帰す傾向は、感染症に対する脅威の強い地域においてより高いという調査結果を踏まえ、キリスト教史の中の神義論の理解を更新しようとする研究もあった。全体として、レジリエンスというキーワードが、各研究者が自らの研究を新たな観点からとらえ、新たな研究ネットワークを形成することを触発し、実り多い大会であったと言える。
 COVID-19の影響による参加者の減少が危惧されたが、ハイブリッド化によりむしろ参加者総数は増加し、ヨーロッパ宗教学会としては最大参加者数を更新した(900名)。

  • 次回開催予定
    4年6月末