代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称

    (和文)第25回国際結晶学連合会議及び総会
    (英文)The 25th Congress & General Assembly of the International Union of Crystallography 2022

  2. 会 期

    令和3年8月14日~22日(9日間)

  3. 会議出席者名

    河野正規、栗栖源嗣、菅原洋子、藤間祥子

  4. 会議開催地

    プラハ(チェコ共和国)

  5. 参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者)

    参加国数:主要参加国(参加者数10名以上) 22か国 他
    参加者数:1,697名、日本人参加者134名

  6. 会議内容
    • 日程及び会議の主な議題
       本会合は、国際結晶学連合(IUCr)の最大規模の会議で3年ごとに開催され、総会と結晶学全領域にわたる学術発表が行われる。COVID-19パンデミックの影響を受け、1年延期し、本年ハイブリッド開催となった。8月14日夕刻の開会式とこれに続くエヴァルト賞受賞講演に始まり、8月21日夕刻の閉会式まで8日間にわたり、学術プログラムとして全体講演3件、基調講演33件、マイクロシンポジウム104件およびポスター発表が行われた。最終日は現地参加者を対象としたエクスカーションが行われた。
       総会は、3日間(8月15日、16日、19日)にわたって、学術発表終了後の20時(現地時間)から開催された。新規加入国の承認、活動報告、第26回会議(IUCr2023)の開催日程、第27回会議(IUCr2026)の開催国の決定、各種委員会次期委員の承認等が行われ、最終日は、会長をはじめとする次期理事会メンバーの選出が行われた。
    • 会議における審議内容・成果
       学術発表は、3件の全体講演と、各日3-6件の基調講演(KN)、16件のマイクロシンポジウム(MS)およびポスター発表が行われた。すべてハイブリッド方式を採用し、10の講演会場が用意され、現地と世界各地からの講演者、参加者が回線でつながれた。ポスター発表については、発表ごとにRoomが用意された。一部回線の不具合なども生じたが、おおむね順調に進行した。
       総会では、新規加盟国(2か国)の承認、前回総会(IUCr2017)から本総会までの期間の活動報告、新規委員会の設立の承認(1件)などが行われ、各委員会の次期委員が承認された。また、次回のIUCr会議(IUCr2023)はメルボルン(オーストラリア)で開催されることが既に決まっているが、次々回(IUCr2026)はカルガリー(カナダ)で開催することが承認された。次期理事会メンバー(会長、副会長、総務・財務担当理事、新任理事3名)が決定した。
    • 会議において日本が果たした役割
       国際結晶学連合は1948年に発足したが、日本はこれまでも1957年~1984年(9期27年間)および1990年~2011年(7期21年間)、2014年~現在まで(2期7年間)に会長、副会長または理事として運営活動に貢献してきた。 現理事会においても高田氏(東北大学;IUCr分科会委員長)が理事を務めている。任期はあと3年間(2021年~2023年)残っており、引き続き、日本が国際結晶学連合の運営に貢献することになる。また、21科学分科会(新規発足分科会を含む)の次期委員として、日本より17分科会に重任も含めて延べ19名が選出され、中性子散乱分科会(Commission on Neutron Scattering)の委員長には石垣徹氏(茨城大学)が重任した。
       国際結晶学連合会議・総会は、COVID-19パンデミックにより、初めてのハイブリッド開催となった。日本からは、日本国外務省の各国に対する感染症危険情報の発出においてチェコが危険レベル3(渡航中止勧告)であったことから、バーチャル参加となった。会議への参加数はリアル参加とバーチャル参加を併せて1697人で、ドイツ191人、米国173人、英国171人に続き日本からの参加者数は134人(第4位)であった。チェコと日本の時差が7時間あり、開催国チェコが121人(第5位)であったことを考えると、今回も、本会議への日本の寄与は大きかったといえる。日本人により2件の基調講演と、招待講演を含むマイクロシンポジウムにおける口頭発表、ポスター発表が行われた。企業展示においても、日本の世界的なX線回折等の分析機器の製造メーカーである株式会社リガクがプラチナスポンサーを務めた。

会議の模様

 国際結晶学連合会議・総会は3年ごとに開催されているが、COVID-19パンデミックのため、第25回にあたる今回、初めてハイブリッド開催となった。現地参加が可能な国は欧州大陸の各国を中心とした国に限られ、日本からも、バーチャルの参加となった。会議への参加数がどれだけのものになるかが危惧されたが、最終的にはリアル参加とバーチャル参加を併せて1697人の参加があった。2014年にスペインで開催されたIUCr2014では2768名の参加があったことと比べると、参加者が限られたことは否めないが、時差がアメリカ大陸のワシントンに対して+6時間、アジア地区の東京に対して-7時間であることを考えると、成功と言えよう。
 総会は15日、16日、19日に学術講演終了後の20時(現地時間)から開催された。日本は4票の代表権を持ち、河野正規(東工大;IUCr2021国際プログラム委員会委員)・栗栖源嗣(阪大;アジア結晶学会副会長)・藤間祥子(奈良先端大)・菅原洋子(豊田理研;結晶学分科会委員長・IUCr分科会幹事)の4名が代議員として出席した。また、井上豪(阪大;IUCr分科会副委員長)がオブザーバーとして参加した。総会の第1日目は、新規加盟国(アラブ首長国連邦、ガテマラ)の承認、ECの活動報告、会計報告などが行われた。第2日目は、国際結晶学連合(IUCr)で出版している学会誌に係わる報告、委員会報告などがなされた。また、新規委員会としてCommission on Diffraction Microstructure Imagingの設立が承認された。次回のIUCr会議(IUCr2023)はオーストラリアのメルボルンで開催されるが、会期を8日間とすることが決定された。2026年のIUCr会議(IUCr2026)の開催地に立候補しているカルガリー(カナダ)から開催計画の説明が行われ、のちに承認された。また、IUCr2029誘致を予定しているベルリン(ドイツ)の紹介が行われた。第3日目は、IUCr2023(メルボルン)の招待ビデオ、および、IUCr2032の誘致を検討している西安(中華人民共和国)の紹介ビデオが上映された。各委員会次期委員の承認の後、最終議題として、次期理事会メンバーの選出が行われた。会長、総務・財務担当理事は、推薦候補者が各1名で、会長にH. A. Dabkowska氏(カナダ)、総務・財務担当理事にB. Brummerstedt-Iversen(デンマーク)の就任が承認された。副会長は2名の推薦候補がおり、電子投票が行われS. Garcia-Granda 氏(スペイン)が選出された。理事は任期は6年で6名おり、内3名は3年の任期を残している。交代となる理事3名(任期6年)の選出が行われた。10名の推薦候補がおり、規程に従って電子投票が行われ、A. Altomare氏(イタリー)、T. Proffen氏(アメリカ合衆国)、M. S. Weiss(ドイツ)の3名が選出された。なお、ハイブリッド開催であることに配慮して、電子投票は投票時間を12時間として実施された。規程に従って5回の投票が行われ、3名の理事選出が終了したのは閉会式終了後の8月22日となった。
 学術講演については、新型コロナパンデミック下において新型コロナウイルス治療薬の開発を目指した構造解析が積極的に進められている構造生物学分野の他、電池材料など材料分野にかかわるKN、MSが複数企画された。また、キーワードとして「量子結晶学」が目立ったが、これは近年の目覚ましい構造解析精度の向上を反映している。
 方法論の開発もIUCrにおける重要なテーマで、今回のトピックスとしては電子線回折法の展開が挙げられる。電子線回折による構造解析の歴史は長いが、昨今の技術革新と結びつき、電子線単結晶構造解析(Micro-ED)の有機物質への展開が注目されており、電子線回折と他の測定法と組み合わせた研究例や技術的問題点と改善法などが活発に議論された。また、構造生物学分野において顕著な発展を遂げつつある低温電子顕微鏡法(Cryo-EM)を用いた単粒子構造解析法による生体超分子の構造解析の現状と課題について、装置、解析方法、試料調製方法など多角的な視点からの発表があり、より高分解能、高精度の構造決定の実現に向けた技術開発の現状について情報交換がなされた。
 Ewald賞はケンブリッジ結晶構造データデータベース(Cambridge Structure Data: CSD)の創始者であるO.Kennardに授与された。本年はタンパク質を中心とした生体高分子の3次元構造データベースであるProtein Data Bankの設立50周年にあたることもあり、機械学習を利用した実験データの評価や構造予測も含め、ビッグデータをどう生かすかについての情報交換が行われた。ビッグデータの活用による創薬研究の加速が期待されている。
 優秀な若手研究者(博士号取得後10年以内)を表彰するW. H. and W. L. Bragg Prizeを設けることがIUCr2017で決定され、今回、第1回目の受賞者としてJ.-P. Julien氏とJ. Fraser氏が選ばれた。 ともに構造生物学分野からの受賞となった。
 なお、IUCrはジェンダーバランスについて留意する声明を表出しており、今回、全体講演3件のうち2件は講演者が女性であり、KNの講演者も約4割が女性研究者であった。
  • 次回開催予定 2023年8月22日-29日 開催予定地 オーストラリア メルボルン