代表派遣会議出席報告

会議概要

  1. 名 称

    (和文)国際人類学民族科学連合2020年会議
    (英文)IUAES2020 Congress Sibenik (2020 Congress of the International Union of Anthropological and Ethnological Sciences, Sibenik)

  2. 会 期

    令和3年3月9日から3月14日まで6日間(令和2年10月7日~11日の開催予定から延期された)
    [IUAES会議は3月9日~3月14日に開催、3月19日にIUAES・WCAA合同役員会を開催]

  3. 会議出席者名

    小泉潤二

  4. 会議開催地

    クロアチア共和国シベニク市(コロナ感染症拡大による規制のため全面的にオンライン開催)

  5. 参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者)

    54か国、470名(発表者数のみ)、25名

  6. 会議内容
    • 日程及び会議の主な議題
      (以下のように略す)
      IUAES=国際人類学民族科学連合 International Union of Anthropological and Ethnological Sciences [小泉は会長]
      WAU=世界人類学連合 World Anthropological Union [小泉は共同議長]
      WCAA=人類学会世界協議会 World Council of Anthropological Associations [小泉は元議長]
      IUAESとWCAAは2017年に統合して二院制の新組織(WAU)となった。以下の[ ]内には当該会議での小泉の役割を示す。

      • 3月9日火曜
        開会式[開会挨拶]。
        Senka Bozic-Vrbancicによる基調講演。
        平行パネル、ほか。
      • 3月10日水曜
        WCAA会議[IUAES会長として参加、投票] (WCAA副議長と3名の新役員を、WCAA加盟学会代表による投票で選出)。
        Thomas Hylland Eriksenによる基調講演。
        国際学術会議(ISC)役員Rene van Kesselによる、国際学術会議についての講演。
        平行パネル、ほか。
      • 3月11日木曜
        全体セッションWAUラウンドテーブル[WCAAのCarmen Rial議長とともに共催、共同議長](アメリカ人類学会会長Akhil Gupta、ヨーロッパ社会人類学会元会長Michal Buchowski、WCAA元議長Vesna Vucinic Neskovicらがパネリストとして参加)。
        平行パネル、ほか。
      • 3月12日金曜
        IUAESコミッション協議会(IUAES Council of Commissions Meeting)。
        平行パネル、ほか。
      • 3月13日土曜
        IUAES役員会(IUAES Executive Committee Meeting)[議長]。
        IUAES総会(IUAES General Assembly Meeting)[議長]。
        WAU総会(WAU Constituency Meeting)[共同議長]。
        平行パネル、ほか。
      • 3月14日日曜
        パネル「東アジアの人類学を歴史的展望の中で再考する(’Rethinking East Asian Anthropologies in Historical Perspective’)」 [韓国学中央研究院名誉教授・山東大学(中国)講席教授・元韓国文化人類学会会長のOkpyo Moon (文玉杓)と共催。ディスカッサントも担当]。
        IUAES各コミッション会議。
        平行パネル、ほか。
      • 3月19日金曜
        IUAES全役員とWCAA全役員の合同役員会[共同議長]
        (IUAES2020 Sibenikはオンライン開催のため、IUAES会議開催期間中に総会やパネル等との重複を避けながら全世界の時差を調整することが不可能となり、この合同役員会は会期後の3月19日に開催することとなった。)
    • 会議における審議内容・成果
      本会議のテーマは「地球の成熟――受け継ぐ遺産と次世代の人類学 (Coming of Age on Earth: Legacies and Next Generation Anthropology)」であった。パンデミック、気候変動、各種の災害、人種差別、ジェンダー、経済格差、各国政権とポピュリズム、各地域での紛争、先住民と開発、移民と難民、大学と科学・学術の困難さなど、現代世界が直面する課題に対する関心が強くみられた。こうした状況に人類学的視点から、そしてグローバルな相互関係に基づいて何ができるか、何をすべきかについての議論が進んでいる。

      IUAESとWCAAの全役員の合同役員会では、各国数千人の個人会員によるIUAESと世界の56学会を擁するWCAAが二院制のWAU(世界人類学連合)を形成し、二院の機能的統合をさらに進めてWAUとしての一体的活動を活発化することの重要性について議論が進み、今後の方向性が確認された。
    • 会議において日本が果たした役割
      上記日程に示した通り、小泉はIUAES会長またWAU共同議長として、IUAES役員会、IUAES総会、WAU総会、IUAES/WCAA合同役員会など、すべての主要会議で議長・共同議長を務め、IUAESとWAUに関わる全決定の中心となった。日本学術会議会員の窪田幸子もIUAES副会長を務めている。

会議の模様

本会議は、当初令和2年(2020年)10月7日-11日にクロアチア共和国シベニク市で開催される予定で、発表申し込みや参加登録なども2019年末に完了していた。しかしその後の新型コロナウイルス感染症の世界的拡大により、2021年3月9日-3月14日に開催を延期することを2020年7月に決定し、さらにZoomによる全面的オンライン開催とすることを2021年1月に決定した。以上のような経緯のために、当初の参加登録者や発表予定者のキャンセルがきわめて多く、本会議の組織準備は大きな困難を伴った。またIUAESにとってオンライン開催は初めての経験であったが、ザグレブの人類学研究所所長サシャ・ミソニ(Sa?a Missoni)をはじめとするクロアチアの組織委員会の尽力により、オンライン会議によくみられる不具合や混乱もなく整然と組織され、会議は大きな成功を収めた。今回の会議でも、IUAES会長・事務総長、WCAA議長・前議長・元議長のほか、全世界の人類学会の会長や元会長が数多く集まり、今後の組織の発展について議論する重要な機会となった。

上記のように、「地球の成熟――受け継ぐ遺産と次世代の人類学」というテーマのもとに、54ヵ国から集まる研究者により約500件の発表が行われた。基調講演は以下の2件である。

  • センカ・ヴルバンチュッチ「歴史的現在における予測不可能性」(Senka Bozic Vrbancic, “Precarity in a Time of Historical Present”)
  • トマス・エリクセン「人新生の温暖化の進行と人類学」(Thomas Hylland Eriksen, “Anthropology in the Shadow of Anthropocene Overheating”)

このほか、IUAES会長(小泉)とWCAA議長(Carmen Rial)により、WAU全体としてのラウンドテーブル「危機に直面して人類学を強化する(‘Empowering Anthropology in the Face of Crises’)が開かれた。

近年IUAESの財政基盤は強化されている。これに基づいて、IUAES会議の全体パネルを組織するための競争的助成金の支給、人類学の実践的課題を扱うオンラインワークショップを開催する会員への支援、若い会員が人類学の本質を要約する1分間のビデオを制作するコンテストなど、組織を強化し人類学を振興するための新しい投資が始まっている。また、学生や若手研究者のインターンを全世界から募り、研究者の指導や相互の協力のもとに、ソーシャルメディアを使ってIUAESの組織としての活動を支援する試みも始まった。さらに20世紀はじめからの歴史があるIUAESのアーカイブを、日本の国立民族学博物館に構築するためのプロジェクトも開始した。これらの新事業は総会で発表された。


次回開催予定

  • 2021年 メキシコ ユカタン(オンライン開催)
  • 2021年11月9日-13日 「引き継ぐべき遺産――これからの世界のグローバルな相互関係 (Heritages, Global interconnections in a possible world )」
    メキシコ社会人類学高等研究所(CIESAS - Centro de Investigaciones y Estudios Superiores en Antropologia Social)、メキシコ国立自治大学(UNAM - Universidad Nacional Autonoma de Mexico)ほかの共催
    URL : https://www.iuaes2021yucatan.org/home/
  • 2022年 ロシア サンクトぺテルブルク市
  • 2021年11月9日-13日 「引き継ぐべき遺産――これからの世界のグローバルな相互関係 (Heritages, Global interconnections in a possible world )」
    2022年5月25日-31日 「変動する世界――移民とコミュニケーション(World on the Move: Migration and Communication)」
    ロシア人類学民族学会(AAER)、サンクトペテルブルク ピョートル大帝記念人類学民族学博物館(クンストカメラ MAE)、サンクトペテルブルク国立大学(SPbU)、ロシア科学アカデミー民族学人類学研究所(IEA RAS)の共催