提言「壊滅的災害を乗り越えるためのレジリエンス確保のあり方」のポイント

1 現状及び問題点

 7世紀以来、ほぼ毎世紀発生してきた南海トラフ地震が、21世紀前半に発生する確率は高いと要されている。また、震源域が隣接する首都直下地震が、時間的に近接して発生する場合も無視できない。日本政府による被害想定では、推定被害額の最大が、南海トラフ地震で220兆円、首都直下地震で95兆円であり、単純に推定被害額を足し合わせると300兆円を超える。被害規模が100兆円を超える自然災害は、“Trillion-Dollar Disaster”規模の災害と呼ばれる。わが国と同様、毎年多くの自然災害を経験する米国では、大規模災害を“Billion-Dollar Disaster”と呼ぶが、これまで単独はもちろん年間合計でも“Trillion-Dollar Disaster”は経験していない。来るべき南海トラフ地震と首都直下地震は、産業革命以降人類が初めて経験する“Trillion-Dollar Disaster”規模の自然災害となる可能性がある。こうした未曽有の被害規模である「壊滅的災害」の発生は、わが国の持続的な発展にとって顕在化した脅威であり、国際社会にとっても大きな脅威である。
 発災までの残された時間で、想定される被害を完全に抑止することは不可能であり、本提言では災害発生後の応急対応や復旧・復興過程の合理化・効率化も含めて総合的に災害を乗り越える力である「レジリエンス」に着目する。これまでの科学技術の蓄積を活かし、被害抑止力のさらなる向上を図ること。また、災害発生後の苦しみを最小化し、迅速な立ち直りを可能にするためには、事前の備えを充実させ、災害を乗り越える力としての、レジリエンスの向上を可能にするため、自然現象としての災害に関連する分野の知見と社会現象としての災害に関連する分野の知見を統合する「知の統合」を目指した科学技術の推進が必須である。

2 提言等の内容

 壊滅的災害を乗り越えるだけのレジリエンスを獲得するためには、国が想定する甚大な被害が生まれることを前提として、あらゆる主体が被害抑止力を高める努力を継続することに加えて、どのように災害対応、復旧復興を進めるかについての科学的検討と実践に注力すべきである。こうした観点から、「仙台防災枠組2015-2030」の4つの優先行動に即して、今後とるべき対策を提案する。

  • (1)災害リスクについての理解の深化と展開  
       
    • 個人の心身両面でのウェルビーイング(Well-being)の維持・向上、コミュニティにおける相互扶助力、そして災害リスク低減・気候変動適応・持続可能な開発の統合的な実現を究極の目的として、社会の災害レジリエンス向上と持続可能性向上に関わる科学技術を展開すべき。
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    • オールハザードアプローチに基づいて予測力・予防力、応急対応力、復旧・復興力のすべてを対象とした総合知を構築し、その実践・継承を図るべき。
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    • 日本学術会議第24期で提言された「知の統合を実践するためのオンライン・システムの構築とファシリテータの育成」を社会に普及させる仕掛けを構築すべき。
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  • (2)災害に対処する新しいガバナンスの確立  
       
    • 新型コロナ感染症パンデミックが生み出した不可逆的な変化を踏まえて、自律分散協調社会への移行に資するガバナンスを確立すべき。
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    • 国土、国家、国民のレジリエンスの向上に加え、複数の国が協力し合う国を超えたレジリエンス(Transnational resilience)を確立すべき。
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    • 壊滅的災害に関するリスクコミュニケーションの活性化を、日本学術会議での議論も含めて国民的議論として喚起すべき。
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  • (3)災害に対する財政支出・人材育成・技術開発投資の確実な実行  
       
    • 「災害に曝露される危険性を持つ人間活動・資産蓄積=Exposure」を減少させる投資の役割(中長期的な空間再編計画、重要社会基盤の機能維持等)を確立すべき。
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    • ①自助能力の向上を図るための市場サービスの質的・量的充実につながる投資、②制度に基づく相互扶助としての保険・共済プログラムの充実・多様化、について集中的に投資すべき。
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    • 個人のレジリエンス能力を高めるとともに、デジタルトランスフォーメーション(DX)を活用しながら、少数精鋭でより効率的・効果的に災害を乗り越えられるような戦略的な人材育成をすべき。
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  • (4)より良い復興(Build Back Better)を可能にするための事前方策の確立  
       
    • 「いざという時、普段やっていることしかできない」という意識をもって、DXを活用した事前対策を進めて、災害後に新しい社会を構築していく能力(Transformative capacity)の確保体制と向上方策について確立すべき。
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    • 壊滅的災害後の社会像(持続可能性、グリーンエネルギー・ゼロカーボン、国土計画、財政・経済、産業、国際協力などでの自律分散協調社会への移行等)を提示し、それに沿った復興ビジョンを事前に構築・明確化するよう努力すべき。
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