提言「大学・研究機関における男女共同参画推進と研究環境改善に向けた提言 ―日本学術会議アンケート調査結果を踏まえて―」のポイント
1 現状及び問題点
(現状)21世紀日本における男女共同参画(ジェンダー平等)の取り組みは停滞している。「2020年までに指導的地位の女性を30%にする」との方針(2003年)を受け、2011年以降、科学技術基本計画は、女性研究者の新規採用割合に係る目標値を「自然科学系25%(早期)、更に30%を目指す」としてきた。しかし、2020年までに目標は達成されず、第6期科学技術・イノベーション基本計画(2021年)に同じ数値目標が再掲されるという結果となった。
(問題点)上記のような停滞状況の背景を解明し、改善策を検討するためには、研究者のニーズを実態に即して解き明かし、具体的な課題を析出しなければならない。このため、大規模アンケート調査を実施し、課題を分析した。
2 提言等の内容
- 提言1 国、大学・研究機関は、採用・昇進・役職者選任などのあらゆるレベルにおいて実効性の高いポジティブ・アクションを活用して男女の不均衡を早期に是正すべきであり、女性研究者及び次世代女性のエンパワーメントをはかることが求められる。
- 【調査結果】国立大学に比べて公立・私立大学で男女共同参画の取り組みが遅れている。すべての分野において学生・大学院生と教員の女性比率は均衡していない。数値目標設定には女性は肯定的であるが、若手男性に不満が見られる。
- 【提案】女性の学術への参加が立ち遅れている現状では、教員と大学院生の女性比率を同等またはそれ以上にするためのポジティブ・アクションは、次世代女性研究者育成のためにも必要であり、国、大学・研究機関は今後とも適正な数値目標を設定し、男女格差の是正に努めるべきである。現状では取り組みが少ない昇進や教授採用におけるポジティブ・アクションは、女性教授が次世代女性のロールモデルや意思決定機関への参加メンバーになりうることなどから、積極的な導入が望まれる。そのために定員外の特別枠等を設けるなど公平感を担保しながら女性採用を加速する取り組み等に対する国の積極的な支援が期待される。人事の公平化・透明化を図るためにも、国及び大学・研究機関は、積極的に研究者に関するジェンダー統計情報を収集・公開し、改善努力や様々な施策の効果を国際社会と国内に向けて公表する必要がある。
- 提言2 大学・研究機関における研究環境では性別や年齢に基づく権力関係が強いほどハラスメントが生じやすくなることをすべての関係者が共通認識とし、ハラスメント防止体制の充実をはかり、学術の世界におけるあらゆる暴力の根絶に努めるべきである。
- 【調査結果】すべての大学等がハラスメント防止体制を整えているにもかかわらず、被害経験を持つ者が特に女性に多く、大学等のハラスメント相談が十分利用されていない。
- 【提案】大学・研究機関は、第三者機関の活用などを含めて被害者が二次被害の心配なく利用できるハラスメント相談体制を速やかに整える必要がある。被害者の心情に寄り添ったケア対応を提供し、加害者の反省を促し厳正な処分と見守りを行う防止体制を整えることが望まれる。役職者を含む全教職員に対してハラスメント研修を受けることを義務化し、ハラスメント防止教育を学生向けカリキュラムに組み込み、プライバシーに配慮しながらハラスメント事例を全学で共有して問題解決の実効性をあげることが望まれる。
- 提言3 国、大学・研究機関は、研究・人事評価制度が育児・介護などのケアワークを適正に組み込んだものとなっているかについて検証し、すべての研究者がワーク・ライフ・バランスを実現できるよう速やかに必要な改善を行うべきである。
- 【調査結果】子育て世代の男女研究者の多くが育児期の処遇に不満をもっている。
- 【提案】国、大学・研究機関、学協会は、子育て世代の男女研究者のニーズを汲み取りながら必要な支援を提供するとともに、女性研究者が研究機会を断念・中断することがないよう十分な配慮が必要である。固定的な性別役割分担意識を是正するための啓発活動、メンター制度等の整備、保育サービスのいっそうの充実のみならず、介護についても理解と制度の拡充をはかり、すべての研究者が負い目を感じることなく研究とケアワークの両立をはかれるような研究環境整備が望まれる。
- 提言4 国、大学・研究機関は、21世紀のグローバル社会にふさわしい多様性に富む研究環境を早期に実現すべきである。特に、SOGIに配慮した教育・研究環境の改善、若手研究者の雇用の安定化、次世代女性研究者の育成支援は急務である。
- 【調査結果】大学等のダイバーシティ施策は不十分である。SOGI施策には不備な点が多く、若手研究者は任期制ポストに強い不安を持っており、女性研究者は次世代女性に研究者になることを勧めにくいと思っている。
- 【提案】研究交流のグローバル化にあわせて、大学・研究機関におけるダイバーシティの実現は喫緊の課題である。大学・研究機関は、一定数の性的少数者が大学等に必ず存在することを前提にSOGI(性的指向・性自認)差別解消を含むダイバーシティ推進に努める必要がある。また、国、大学・研究機関、学協会は、若手研究者の研究を長期的視点で支援し、雇用の安定化をはかることが望まれる。次世代女性研究者育成のためには初等中等教育にまで射程を広げて保護者や教員のアンコンシャス・バイアスを解消し、社会や教育におけるジェンダー・バイアス(ジェンダーに基づく偏見や偏り)を払拭する必要がある。
- 提言5 大学・研究機関、学協会は、不公平感の原因となっている組織内のバイアスを可視化するとともに、意思決定者を含む全構成員の意識改革をはかる必要がある。すべての研究者は自己のアンコンシャス・バイアスに気づき、その解消に努めるべきである。
- 【調査結果】研究環境に根強いアンコンシャス・バイアスが認められ、特に女性が差別や不平等感を強く感じている。
- 【提案】大学・研究機関は、人事や研究評価に関わる委員会組織のジェンダー・バランスの是正や、アンコンシャス・バイアスを解消するための教育や研修を工夫し、公正かつ透明な人事選考を行う必要がある。学協会も役員構成のジェンダー・バイアスを是正し、性別・年齢等にかかわらず、多様な研究者に等しく機会を提供するよう努めるべきである。すべての研究者はジェンダー・バイアスやアンコンシャス・バイアスの弊害について認識を高めねばならない。
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