提言「学術の振興に寄与する研究評価を目指して~望ましい研究評価に向けた課題と展望~」のポイント

1 本提言の目的と背景

 研究評価の主な目的は、学術の振興と研究者の育成である。このため、研究評価は科学者コミュニティ内部で同じ専門分野の研究者(ピア)によって行われてきた。現在では、大学・研究機関等に対する機関評価、研究プロジェクトの評価、部局等の組織評価、機関内での研究者個人評価など、目的に応じて研究評価制度が多様化している。
 日本で研究評価制度が多様かつ複層的になったのは1990年代以降である。今日では、研究評価制度は、大学経営や組織・人事管理という全く新たな文脈でも活用されるようになっている。特に国立大学法人の機関評価を中心に、個人の研究活動の評価を大学・研究機関等の評価及び予算配分の決定に反映させるとともに、研究者の勤務評定に直結させる方向が顕著になっている。このような状況の中でとりわけ懸念されるのは、新たな研究評価制度において定量的評価への依存度が過度に強まっていることである。研究評価の蓄積がある諸外国では、既に定量的評価の見直しの議論が成熟しつつある。研究成果がもたらす社会課題解決などの効果(インパクト)などについて新しい評価手法も提案されている。これらの取組から学ぶべきことは多い。
 本提言の目的は二つである。研究評価において定量的評価手法を過度に偏重しないよう求めること、国際的動向を紹介して望ましい研究評価の方向性を示すことである。本提言が、関係省庁及び大学・研究機関を含む全ての関係者に共有され、学術の振興に寄与すべき研究評価の在り方に向けて、改めて検討する契機となるよう期待する。

2 提言等の内容

  • 提言1(研究評価の目的に即した評価設計の必要性)
     研究評価の目的は、学術の振興と研究者の育成である。大学・研究機関等への予算配分や研究者個人の勤務評定等に研究評価を用いる場合であっても、研究活動の活性化につながるよう評価制度を設計すべきである。評価設計は、評価の対象となる組織や研究者のミッションを踏まえて慎重に検討されるべきであり、評価疲れや萎縮、過度の方向づけが生じないよう十分な配慮が求められる。

  • 提言2(研究評価における研究の多様性の尊重)
     研究評価に当たっては、研究の多様性が最大限尊重されるべきである。多角的な見地から学術的貢献を評価するとともに、学術界を超える効果・影響(インパクト)など、既存の評価基準に当てはまらない新しい取組などにも柔軟に対応できる評価項目の設定や評価体制の工夫が求められる。

  • 提言3(研究評価手法の基本原則)
     研究の多様性を踏まえつつ研究の質やインパクトを適正に評価するためには、評価対象分野の研究者(ピア)や研究成果のユーザーなどによる定性的な研究評価を原則とし、定量的評価指標を補助的に活用することが望まれる。

  • 提言4(研究評価と資源配分)
     限られた公的資源を有効に活用し、各機関の目的に即した研究環境を構築し改善するために研究評価を活用することには一定の合理性がある。しかしそのさい、研究成果に関する定量的指標を一律に用いて機関運営の基盤を支える資金を大きく増減することについては、学術振興の観点から慎重な配慮が求められる。

  • 提言5(定性的評価の信頼性の確保)
     定性的評価を基本とする研究評価の信頼性を確保するには、資金提供者や被評価者が評価結果を検証できるように評価の透明性と公平性を確保し、データ管理やメタ評価システムの構築を含めた制度設計上の熟慮が必須である。

  • 提言6(科学者コミュニティの責務)
     研究活動は、機関の基盤的経費や公的補助金、各種助成金に支えられている。科学者コミュニティ及び研究者は、資金提供者や社会に対して研究の意義や特性をわかりやすく示し、定性的評価の信頼性を高める責務を負う。





     提言全文はこちら(PDF形式:3,562KB)PDF
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