見解「性差研究に基づく科学技術・イノベーションの推進」のポイント

1.現状及び問題点

  • ・性別をめぐる科学的議論は多種多様になっているにも拘わらず、日本ではこれに対応する構造変革ができず、社会に歪みを生じ、この解決が社会の課題となっている。
  • ・欧州を中心に世界では、科学技術・イノベーション推進のために性別を要因として特性を調べる科学研究があらゆる分野で進められるようになってきた。

2.見解の内容

  • (1) 性差を考慮した研究開発の推進
    •  科学研究において、人間や生物が関わるあらゆる分野で性差を重要因子と捉えて研究を進めることが必要である。特に、社会のさまざまな場面に活用され、深層学習を中核技術とする機械学習技術を応用する人工知能(AI)システムでは、性別だけでなく人種などに対する差別事例が発生しているため、性を含む人々の特性に配慮してシステム上で公平性を担保する開発を進めることが必要である。また、従来男性と女性に分けることが当然とされてきたスポーツ、生物学的及び社会的性の両面が影響する医学・医療、歴史的にジェンダー・バイアスを包含しているケア、男性主流が継続する工学などの分野においても、性差を考慮して研究を進め、人々のライフステージや特性に配慮することが必要である。また、性差を考慮した研究の公開にあたっては、その結果が多様な人々に誤解を与え、逆に公平性を阻害する可能性があるため、その解釈や公表には十分な配慮が必要とされる。

  • (2) 性別に関する科学的知見の周知
    •  性は男女だけでなく、生物学的にも社会的にも連続した分布を示すものであり、これを「性スペクトラム」と呼ぶ。よって、「男女」という二項分類は性別における少数派への配慮が欠けることになり、LGBTQ+などの存在が科学的には自然であることを広く周知する必要がある。また、さまざまな性差には生物学的性であるセックスと社会的・文化的性であるジェンダーの両面があり、これらを分けて調べることが可能な分野と不可能な分野がある。しかし、分けられない分野の性差を生物学的性による問題と誤って捉えると、その誤解が社会的差別を生み出す危険性があるため、これを周知し、共有することが必要である。

  • (3) 性別データの取得とジェンダー統計の充実
    •  個人の社会的に置かれている状況が性別によってどのように異なるかを客観的に把握するためには、性別ごとのデータを基本とするジェンダー統計が充実されることが必要であり、各国政府がこれに取り組む意義は世界女性会議で共有されている。それゆえ、ジェンダー統計の不十分さは、国際的な信用を失うことにつながり得る。しかし、例えば日本がUNESCOに提出したデータにおいては多くの項目で「n/a(not available, データが存在しない)」となっており、高等教育の在学者の男女比や分野別の性別データが十分に示されないなど、統計の不備を露呈する結果となっている。これらの状況を踏まえ、国際標準に合わせて性別によるさまざまなデータを一元管理できるようデータの収集と分析と公開を進め、ジェンダー統計を整備することが必要である。内閣府が2022年3月に「ジェンダー統計ニーズ調査」を実施したが、このような調査を継続し、発展させることが期待される。

  • (4) ジェンダー平等の推進
    •  上記(1)から(3)を進める上で、並行してジェンダー平等を従来以上に推進することが必要である。世界と比較して明らかな日本のジェンダー平等の遅れは、社会に歪みをもたらすだけでなく、性差を考慮した研究開発を進める上でも弊害が生じる。男女共同参画を推進するだけでなく、性スペクトラムを意識しさまざまな性の人々があらゆる分野の研究に携わり、あらゆる職種に参画することが、公平性を担保することになるため、より一層ジェンダー平等を推進することが必要である。





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