報告「人文・社会科学の研究による社会的インパクト ~事例調査に基づく評価のあり方の検討~」のポイント
1.現状及び問題点
- 論文数や引用数を偏重した研究評価方法を見直す改革が国際的に展開している。欧州では608機関が改革協定に署名する状況となっている。
- 研究を多面的に評価する視点の一つが、研究による社会・経済・文化等へのインパクトの評価である。自然科学と比して、人文・社会科学の研究による社会的インパクトとはどのようなものであるか、明確に整理されておらず、評価のあり方を検討することも必要となっている。
2.報告の内容
(1) 人文・社会科学の研究による社会的インパクト
- 日本学術会議の人文・社会科学の各分野別委員会にヒアリング調査を行い、各学問分野の社会的意義を検討した。
- 人文・社会科学の研究が生む社会的インパクトは多様であり、少なくとも13種類が挙げられる。たとえば、社会課題の認識喚起や新たな社会像の提示、政策立案への寄与、法制度整備、行政府や産業の調査手法の深化、国際関係強化、教育改善、文化資料保全、地域コミュニティのアイデンティティの形成などである。このような多様な種類はこれまで十分に認識されてこなかった。
- 人文・社会科学のインパクトは、自然科学と比して、複数の研究による集合的で長期的な知識蓄積から生まれ、インパクトの範囲は広く、根源的な影響を持つといった特徴を強く有する。
(2) 人文・社会科学の社会的インパクト評価のあり方
- 現行の評価制度では社会的インパクトが十分に評価対象となっていない。一方で、「社会的インパクトとは何か」の定義を社会の変化に即して検討すること自体が人文・社会科学の役割である。評価は定性的記述を重視し、社会的インパクトと個別研究との複雑な関係や、長期間を要するインパクト創出までのプロセスを評価するように設計することが求められる。
- 若手研究者育成との関係の検討が必要であり、学術面と社会的インパクト面のバランスをとった評価が必要である。一方で、学術面のトレーニングが疎かになることやインパクトがノルマとすることは避ける必要がある。
- 「レレバンス(社会的関連性)」、「エンゲージメント(学術界と非学術界の連携・協力)」、「価値化(学術的成果の社会的価値への転換)」、「インパクト(研究活動や成果による影響・効果)」といった概念を区分して用いることが必要である。
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