報告「品質保証に係るモノからの健康・医療へのアプローチのポイント

1.作成の背景と目的

驚異的なスピードで進む高齢化の中で、すべての人たちが医療機関や医薬品のみに頼らない健康自己管理を強く求められるようになっている。また、健康サポート薬局制度の始まりとともに、薬局薬剤師も、食品分野も含めて総合的な健康・医療の相談相手としての立ち位置が明確になりつつある。さらに、2020年3月に日本薬学会との合同で行ったシンポジウム「健康食品・保健機能食品・医薬品の品質保証に関する薬学的アプローチ」において、医薬品や、保健機能食品といったモノからの健康・医療へのアプローチでは、モノの品質保証を確実に行っていくことが重要で、品質保証は、薬学の根幹にある考えであることが確認された。また、全国の薬学部を設置する75大学に事前に行ったアンケート調査より、この分野の薬学教育の主な担い手は、医療系薬学分野であることが明らかとなった。一方、日本学術会議薬学委員会医療系薬学分科会では、2017年に報告「社会に貢献する医療系薬学教育研究の推進」を発出した。この報告では、特に狭義の医療薬学系及び臨床分析科学系、臨床開発薬学系の教育研究の推進について多くを取り扱ったが、この報告の「医療系薬学の研究領域と目的」の中で述べているように、広義の医療系薬学には、健康科学系(漢方・生薬学、伝統医薬学、機能性食品科学等)、薬理学系(基礎薬理学、薬物治療学、毒性学等)、薬剤学系(薬剤学、製剤学、薬物動態学等)、衛生化学系(環境薬学、食品衛生学、予防医薬学等)も含まれる。このような背景の下、医療系薬学分科会では、2017年の報告で扱わなかった、薬学における品質保証の重要性に触れるとともに、アンケート調査結果に基づき、広義の医療系薬学に含まれる健康科学系、薬理学系、薬剤学系、衛生化学系での、教育研究について現状を分析し、これら分野で社会貢献を一層促進するための必要な考え方についてとりまとめた。

2.現状及び問題点

歴史的に見て、薬学が始まった要因の一つは生薬の品質保証である。現代でも、医薬品の品質管理及び安全管理業務を総括する総括製造販売責任は、薬学出身者のみが取得できる国家資格、薬剤師である必要があり、また薬剤師に付与される資格を考えると、薬剤師は、医療の現場での医薬品の専門家という立ち位置であるだけでなく、広く人の健康全般に関わるモノの品質保証に関与する立ち位置も持つ。一方、前述したアンケート調査によれば、現在の薬学教育では、薬学の根幹をなすと考えられる「品質の定義」と「品質保証」が十分ではない傾向にあった。また、薬学出身者が社会で担うべき職種で必要とされる重要項目「レギュラトリーサイエンス」「食薬区分」「食品の品質保証」「医薬品の区分」「CMC(医薬品の原薬・製剤の化学、製造及びその品質管理の略)」等について、講義を行っていない大学が多く見られた。

3.報告の内容

本報告では、上記アンケート調査結果を踏まえ、広義の医療系薬学に含まれる健康科学系、薬理学系、薬剤学系、衛生化学系での今後の教育研究の考え方について以下の項目に整理して公表する。
・ 健康サポートを見据えた健康科学系における教育研究の考え方
(1) 健康に対する日本人の意識変化に応じた薬学的アプローチ
(2) 健康自己管理と薬局等に期待される機能
(3) セルフメディケーションの推進と品質保証
・ 社会・環境を豊かにする薬理学系・薬剤学系・衛生化学系の教育研究の考え方
(1) 品質評価・品質保証に係る教育研究の現状と課題
(2) 品質評価・品質保証に係る教育研究の波及効果
・ 医療系薬学に期待される人材育成





      報告全文はこちら(PDF形式:2,366KB)PDF
このページのトップへ

日本学術会議 Science Council of Japan

〒106-8555 東京都港区六本木7-22-34 電話番号 03-3403-3793(代表) © Science Council of Japan