提言「わが国の経営学大学院における教育研究の国際通用性のある質保証に向けて」のポイント
1 作成の背景
平成20年(2008年)の中央教育審議会答申「学士課程教育の構築に向けて」、平成26年(2014年)の日本学術会議大学教育の分野別質保証推進委員会報告「学士の学位に付記する専攻分野の名称の在り方について」、平成26年(2014年)の日本学術会議経営学委員会記録「経営専門職大学院の認証評価の在り方について」などを通して、大学における教育研究の分野別質保証と授与する学位の国際通用性に関心が集まるようになった。
経営学大学院の教育の質を保証し、社会が求める人材を輩出するため、本分科会では、有識者へのヒアリングを通して、わが国の認証制度と海外の分野別質保証制度との整合を図りつつ、わが国の質保証や学位の国際通用性を確保する方策を検討し、提言にまとめた。
2 現状及び問題点
(1) わが国の大学院制度、専門職大学院制度に起因する課題
わが国の大学院制度の中でプロフェッショナル教育の位置付けが曖昧で、専門職大学院と既存の学術大学院の違いが分かりにくく、教育の質保証と学位の国際通用性を図る上で支障をきたす。また、専門職大学院における研究活動や学部・学術大学院との連携を妨げる制度が、逆に専門職大学院の教育の充実と修了生の能力向上の妨げになっている。(2) わが国の認証評価制度に起因する課題
ビジネス教育分野では、学術大学院が授与する修士レベルの学位名称も英文ではMBA (Master of Business Administration)となっており、海外から見たときに専門職大学院制度の存在を見えにくくしている。
専門職大学院は分野別認証評価も受ける必要があるが、機関別と分野別の二つの認証評価制度は、重複面も多く、大学や評価機関に過度の負担を負わせている。また、わが国の認証評価は設置基準への適合性検証という形式面に力点が置かれ、海外のように第三者評価を通して教育研究の質向上と質保証を図るという視点が相対的に脆弱で、評価結果や学位の国際通用性に支障をきたしている。
ビジネス教育分野では、教育の質を評価する国際標準や国際的な枠組みが定まっていないことや、わが国では複数の評価機関の間で評価基準や評価方法にバラツキがある。(3) 社会、産業界に起因する課題
わが国の産業界は、企業等を取り巻く経済環境がグローバル化しているにもかかわらず、雇用制度など組織内の各種制度・システムは独自性・個別性が強く、人材の流動性に対応できていない。このため、わが国の産業界は欧米の企業とは異なり、経営学大学院の修了者の能力を適切に評価し、有効に活用する機会を失っている。
また、経営学大学院における学術成果、ビジネス教育の効果、教育の質保証への取組みに無関心な企業が多く、経営学大学院を活用する機会を見出せず、企業は自ら人材育成の幅を狭め、競争力を失おうとしている。(4) わが国の大学院に起因する課題
学術大学院では特定の指導教員の下で研鑽を積むことが一般的で、教育カリキュラムを開発するという意識を徹底して来なかった。課程における教育を重視している経営学大学院においても学生に身に付けさせるべきコンピテンスを明文化し、それを付与する適切な教育プログラムや教育方法の開発の仕組みの整備が十分ではない。適切な教育プログラムよって教育の質を保証し、学位の国際通用性を担保する取組みが不足している。
その原因の一つには、わが国の経営学大学院は欧米に比べて規模が小さく、人的側面・財務的側面を含め、大学内での存立基盤が脆弱であることが挙げられる。
3 提言の内容
- わが国の経営学大学院における教育の質保証と学位の国際通用性確保を図る上で、大学院制度、認証評価制度、企業慣行の見直しや大学院教育の強化が、その重要な基盤となる。
(1) 大学院制度の見直し
文部科学省をはじめ関係する省庁は、グローバルに活躍できる高度経営人材の育成と質保証の国際通用性を図る観点から、わが国の大学院制度を見直すべきである。ビジネス教育の分野においては専門職大学院でも実務上の課題に根ざしたテーマの研究指導や学位論文執筆を重視するなどして、将来的には学術と実務の融合・統合を目指す方向で学術大学院と専門職大学院の垣根を取り払い、学術と実務の両面性を持つ一つの大学院に発展的に統合することを検討すべきである。(2) 認証評価制度の見直し
文部科学省をはじめ関係する省庁は、わが国の質保証システムの国際通用性を担保するため、認証評価を基準適合性から「学びの質保証(AoL: Assurance of Learning)」の重視へ移行すべきである。また重複感が強い機関別と分野別の評価を整理統合するべきである。認証評価機関に対して、評価基準改定や海外の評価機関との相互承認協定締結を求め、それを支援すべきである。(3) 高度経営人材が活躍できる企業社会への移行
経営学大学院や担当官庁の努力だけで改善が難しい課題も多い。これら大学院や官庁の努力に呼応して、わが国の産業界も優秀な人材の活用を妨げている雇用慣行を改め、グローバルなビジネス環境に合わせて、経営学大学院が輩出する高度経営人材の能力を適切に評価し、その能力を発揮し活躍できる機会が与えられるように処遇すべきである。また、大学における学術研究が、将来の企業社会に必要な知を紡ぎ、有為な人材を養成していることを認識して、学術や高等教育の成果を企業活動に活かすためにも、経営学大学院の有効活用を検討すべきである。(4) 経営学大学院教育の強化
わが国の経営学大学院は、将来の企業社会において必要とされるコンピテンスの明確化、その能力を涵養する教育プログラムの開発、当該教育を担える教員の確保に努めるべきである。
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