提言「感染症対策と社会変革に向けたICT基盤強化とデジタル変革の推進」のポイント

1 背景

 日本学術会議は、提言「感染症の予防と制御を目指した常置組織の創設について」を7月3日に公表した。その後、第二部大規模感染症予防・制圧体制検討分科会と情報学委員会ユビキタス状況認識社会基盤分科会が共同で、この提言で検討した感染症対策におけるICT基盤整備に関し、さらに詳細な検討を行ってきた。ここに公表する新たな提言は、その検討結果に基づき、感染症対策と社会変革にむけたICT基盤強化とデジタル変革の推進について提案するものである。

2 現状と問題点

 新型コロナウイルス感染症の流行とその対策過程で露呈した様々なICT基盤やデジタル変革に関する課題を「医療システムのデジタル変革」、「社会生活のデジタル変革」、「サイバーセキュリティとプライバシー保護」の3つの観点で整理し、現状と問題点を検討した。医療システムのデジタル変革は感染拡大や医療崩壊の防止に直接的効果をもち、社会生活のデジタル変革は人々の生活をコロナ禍の状況に適応させ、社会経済活動の沈滞を低減し大規模感染症に対するレジリエンスを強化する意味を持つが、人々が接する機会との調和をはかりつつ、デジタル変革を推進する必要がある。サイバーセキュリティとプライバシー保護はこの両者のデジタル変革を推進する上で検討すべき重要な事項である。

3 提言

  • (1) 医療システムのデジタル変革
     政府は感染症の予防・制御のための統合調査システムを作成し、運用すべきである。また、 平時から感染拡大のシミュレーションなどの研究を行い、緊急時においても正確な感染リスクに関する情報提供を行えるようにすべきである。 (厚生労働省、文部科学省)
     各地方公共団体は感染情報の公開内容、項目とその定義を統一し、地方公共団体間のデータ内容の一貫性、正確性、妥当性を保証すべきである。(厚生労働省、各地方公共団体) 個人情報の秘匿と本人合意の手続きを経た上で、オープンサイエンスや情報ボランティアによるデータ可視化を可能にする方法を早急に開発導入すべきである。(総務省、経済産業省、厚生労働省、内閣府)
     過去の研究プロジェクトの成果を即効性のある感染症対策として投入することを検討すべきである。また、緊急時には感染症制圧に役立つ新規医療技術導入などに関し柔軟な対応を検討すべきである。(内閣府)
     遠隔医療・デジタル治療の拡充のため、法体制と基盤の整備を行うべきである。(厚生労働省、総務省、経済産業省、地方公共団体)
     感染症対策に関する公的記録を後世の検証に耐えるアーカイブとして保存するために、どのような手段が良いのか内閣府が主導して議論を行うべきである。(内閣府)
     単一患者個人同定情報IDの採用を推進し、医療情報・臨床経過を一元管理するとともにアーカイブ化し、蓄積データを地域医療システムで利用するとともに、臨床試験に供することの可能性を検討すべきである。(厚生労働省、個人情報保護委員会)
     Society 5.0のコアとなるビッグデータ構築で重要となる、情報のデジタル化やデータの連携・活用に向けた分野間の共通データフォーマット化などを「医療分野」においても加速させる必要がある。(内閣府、厚生労働省)

  • (2) 社会生活のデジタル変革
     感染症対策として3密(密閉、密集、密接)を避けた新しい行動様式が進み、テレワーク、遠隔診療、遠隔授業などが急激に進展した。このデジタル変革をさらに推進し、社会システムを適切に構築・運用できる高度IT人材を育成する環境を整備するとともに、安全でレジリエントな社会を構築するための制度整備を早急に行うべきである。(内閣官房、総務省、経済産業省、文部科学省)
     緊急に立案された施策を迅速かつ正確に実施するために、マイナポータルやマイナンバーカードなど行政システムを支えるデジタル環境を再整備し、行政システムのデータ連携を進めるべきである。(総務省、経済産業省、個人情報保護委員会、地方公共団体)
     政府全体として、医療、交通、運輸、防犯等に携わるエッセンシャルワーカーの感染リスクを軽減するため、喫緊にこの問題に対する包括的な検討をすべきである。(内閣府、厚生労働省、経済産業省)
     感染症対策で休校の影響を受けた学校教育においては、全ての児童・生徒・学生が遠隔授業を有効活用できるよう、一人一台の端末と安定したネットワーク環境の確保と、遠隔授業のためのツール、人的リソース、教材等の共有を推進するとともに、キャンパス内の学生の安全・安心確保のためのシステムの導入などを検討すべきである。(文部科学省)
     AIやICTの有効な研究成果を感染症制圧に活用するため、専門家組織の強化を検討し、不足する技術に対して集中投資で研究開発を推進すべきである。(内閣官房及び関連府省)

  • (3) サイバーセキュリティとプライバシー保護
     感染者の個人情報を用いる必要が生じる事態に備えたICTの利活用のあり方や個人情報の利用状況がその本人に見える仕組みを、緊急事態発生前にあらかじめ検討しておくべきである。(総務省、個人情報保護委員会その他関係府省)
     社会のデジタル変革を支えるために、トラストサービスの拡充や、社会全体でのサイバーセキュリティへの取り組み強化・体制整備が必要である。(内閣官房、法務省、総務省、経済産業省、地方公共団体)
     十分なプライバシー保護の仕組みを構築し、社会的な認知を高めることで、接触確認アプリ(COCOA)などを用いた感染可能性情報を広く国民が共有し、安心できる社会を構築できるようにすべきである。(内閣府、厚生労働省、総務省、個人情報保護委員会)





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