提言「災害レジリエンスの強化による持続可能な国際社会実現のための学術からの提言-知の統合を実践するためのオンライン・システムの構築とファシリテータの育成-」のポイント

1 現状及び問題点

 持続可能な開発の実現を目指すには、災害の影響を極力抑え、被害を乗り越え復活する力、すなわち災害レジリエンスの強化が前提であるとの認識が、近年国連等の協議の場で広がっている。災害レジリエンスと持続可能な開発の2つの課題は密接に絡み合っており、それらの内容を総合的な視野で正しく捉え、発生の原因を深く究明し、解決のための計画・実行・評価に反映され(この一連の過程をシンセシスと呼ぶ)、その上で実践されなければならない。
 防災・減災と環境・開発におけるにおける「知の統合」は、関連する様々な問題が発生している「現場」において、総合的な視野で進められなければならない。そのためには、現場の関係当事者と、災害レジリエンス及び持続可能な開発に関連する国内外の大学、学協会などの科学者コミュニティ(以下、科学者コミュニティ)との間で真摯に対話を重ねて、関連するデータや情報、他の取り組み事例や課題を母国語で俯瞰し、災害レジリエンスの向上と持続可能な開発の推進に関して、あるべき姿を描き、取るべき対応方策を企画することを通して科学的知見を踏まえた統合的な対応シナリオを提示し、実践へとつなげる必要がある。
 ただし、現場の関係当事者が、自らが暮らす地域を離れ、また専門分野以外の情報に精通することは難しく、多様な情報をもとに現場での問題の解決に向けて意思決定し、実行することには困難がある。

2 提言の内容

  • (1) 防災・減災と持続可能な開発推進のための知の統合オンライン・システム(OSS:Online Synthesis System)の構築
     災害レジリエンスの向上と持続可能な開発の推進に関するシンセシスの実施を支援するためには、国際的な学術団体、様々な現場の関係当事者や国連・国際機関と協力して、学術情報に加え、世界の各所から発信される優良事例や成功・失敗を含む経験情報、制度・政策に関する基礎情報等が必要となる。これらを各国の母国語で探索・収集・アーカイブ・検索する機能、さらには、データ統合・情報融合を実現し、予測・シミュレーションする機能、可視化等を含む効果的なリスクコミュニケーション機能、関係当事者間の情報交換・対話機能を有するOSSを、学際的な科学技術協力のもとで構築すべき。

  • (2) ファシリテータの育成
     現場の関係当事者が、OSSを効果的に用いて、統合された科学の知に基づき、災害レジリエンスの向上と持続可能な開発に包摂的に取り組むには、その地域に適した知識や経験、手法が紹介され、また外部の経験や資源が効果的に導入を支援するファシリテータが必要。
     科学者コミュニティは、地域の大学、災害研究の拠点組織、学協会等と連携し、社会と相互に協力してファシリテータを育成すべき。

  • (3) 防災・減災、環境・開発の統合シナリオづくりと具体的な行動の推進
     現場の関係当事者と科学者コミュニティは、OSSの効果的利用とファシリテータの支援を通じて、対話の積み重ねによって災害リスクの認識を共有・明確化し、防災・減災と環境・開発の因果関係を科学的に解明し、SDGs達成に向けて、防災・減災の影響と役割について、定量的な理解を進めて、連携した行動を推進すべき。

  • (4) OSS開発、ファシリテータ育成、各国各地域の連携シナリオ策定と行動の支援
     世界的、地域的な学術団体は、科学・技術の知見の共有と情報基盤の設計の面から科学者コミュニティの活動を促進すべきである。
     国連・国際機関や国際援助機関は、防災・減災と環境・開発分野での援助の質や効率性の向上を図る観点から、各国での啓発や情報基盤の構築・運用を支援する体制を確立すべき。





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