提言「「人口縮小社会」という未来-持続可能な幸福社会をつくる-」のポイント
1 現状及び問題点
わが国では今後21世紀を通して恒常的な減少が見込まれ、国内経済の縮小、人口オーナスの増大、格差の拡大、少子高齢化トラップの発生などが懸念される一方、すでに社会理念の揺らぎや不平等・不公正感の増大など、本質的で深刻な変化が進行している。
この人口縮小社会について、我々は本来求めるべき「幸福な社会」の場として設定し、社会システムのイノベーションを多面的に検討しつつ、必要な政策を喫緊に実施すべきである。「幸福な社会」とは、国連「持続可能な開発のための2030アジェンダ」において達成すべき17の目標(SDGs)が想定するような望ましい未来社会の姿である。
2 提言の内容
(1) 多様な社会関係をひらく
未来のための「再生産」と「幸福」への注目:日本の現状は、物質的な豊かさの次に来るべき人間性や人生の豊かさを求める方向転換をいまだ果たせず、その方向すら見失っている。「幸福な社会」の実現、「持続可能な発展」に対して、日本で欠如が指摘される主体性をもった個人間の関係性や将来世代へのまなざしなど「再生産」の基本に立脚し、すべての社会構成員の意思が社会的決定に活かされる制度や教育を第一義とすべきである。
互いに手をさしのべ合う社会へ:社会的弱者は孤立し、より弱くなるリスクに曝される。格差拡大による社会への信頼感喪失や秩序の不安定化を防ぎ止めるため、多様な人々を「誰一人取り残さず」包摂する社会設計を実現すべきである。(2) 生きることの安全保障―いのちの再生産
生まれる前から大切にする:子どもが生まれてくる環境や条件を改善する必要がある。妊婦の医療費・健康診査費の公費負担、勤務時間短縮や就労条件の改善措置などを直ちに導入すべきである。
大事に育てる:子どもの貧困解消のために、生活扶助費相当額の児童手当を親の収入に関わらずすべての子どもに支給し、子どもの教育と医療を無償化し、給付型の奨学金を拡充しつつ、リカレント教育の機会を保障するべきである。
最後まで幸福に生きる―人生100年に向けて:介護福祉における「家族による負担と専門施設での集約的支援」という幻想を捨て、多様な公的支援の充実が不可欠である。一方で、雇用機会の創出と持続可能な社会実現のため、医療福祉分野に大胆に投資するべきである。
将来世代の社会保障:いかなる世代も、後の世代の「幸福」を代償として自己世代の幸福を追求することは許されない。「全世代型社会保障」の対象には、将来世代が含まれるべきである。(3) 持続可能な社会の働き方
働くことが報われる:誰しも働くことが幸福につながるよう、フルタイムで働けば少なくとも生活保護基準を超えるように最低賃金を設定すべきである。一方、所得税における各種の所得控除を税額控除に転換するなどしてその累進度と税収を同時に改善すべきである。
男女がともに、働き、生きる:男女がともに働き、生活することを前提にした社会構築のために、働き方、職場慣行を見直し、「キャリア継続」を図る必要がある。介護について、ケア役割を担う労働者が男女ともに増加することが見込まれることに対し、ICT革新技術等による介護インフラの整備と働き方の変革を推進すべきである。
働く人を育て、活かす:企業主導の人材開発から、個人が自律的にキャリア開発を行えるよう、人的資源開発のあり方を社会的に検討すべきである。
多様な人とともに働く:すべての人を包摂し、すべての人が主体的に関わる社会づくりには、属性による格差や不平等の解決、支援制度の確立が急務である。外国人労働者をどのように受け入れていくのか、法整備、社会保障・教育について丁寧な議論が必要である。(4) 「幸福な社会」を支える知の探究
優秀な人材を確保する:高度な教育を受けた人材が長期にわたって安定して働き続けられるような柔軟な雇用制度設計が必要である。国立大学間の教員移籍制度などが求められる。
時間を取り戻す:研究者が研究に従事できる時間を取り戻すために、規制や手続を簡素化し、マイナンバーや研究者IDを活用して申請書などの作成の自動化を進めるべきである。
AI等、イノベーションのインパクト:人々の生活を本質的に変える可能性のある技術革新が進みつつあり、これらを超高齢化社会におけるすべての人々の潜在的生産性発揮のために活用すべきである。そのためには広範な分野の研究者による連携研究が促進されるような基盤の整備が必要である。
「幸福な社会」構築への研究力を深化させる:技術革新や社会制度設計は、「幸福な社会」システムの構築を目指すという、確固とした価値観やビジョンにより支えられるべきである。技術を享受する人々と置き去りにされる人々という格差を作ってはならない。
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