提言「「地理総合」で変わる新しい地理教育の充実に向けて―持続可能な社会づくりに貢献する地理的資質能力の育成―」のポイント

1 作成の背景

 日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会では、平成19年(2007年)以降、地理教育に関して様々な提言を公表してきた。これらの提言は学習指導要領改訂に反映され、小学校・中学校の社会科、高等学校地理歴史科の新学習指導要領・解説が平成29~30年(2017~18年)にかけて公表され、令和4年(2022年)度から地理歴史科で新しい必履修科目「地理総合」が設置されることとなった。本地理教育分科会は、前回の提言「持続可能な社会づくりに向けた地理教育の充実」(平成29年(2017年))において掲げられた内容の進捗状況を確認するとともに、公開シンポジウム等を開催した。その過程で、特に、地理歴史科の現職教員には歴史系教員が多いことから、必履修科目の「地理総合」、選択科目の「地理探究」を、専門的知識とスキルを持って担当できる教員の不足が危惧されること等が明らかになった。そこで、必履修科目の「地理総合」をスタートさせるにあたり、大学や学術機関及び関係省庁等が取り組むべき様々な課題を再度整理する。そして、自然と人間活動の関わりの視点で考察し、地球規模の環境問題から身近な地域課題まで、様々な課題をグローカルに思考・行動でき、未来を担う国際人を育成する新しい地理教育が実現されることを目的に本提言を公表する。

2 現状及び問題点

 前述の日本学術会議地域研究委員会・地球惑星科学委員会の平成29年(2017年)提言で掲げられた5つの骨子と、その後より顕在化した新たな課題は以下のように整理される。(1)「持続可能な社会づくり」に向けた解決すべき課題の明確化:SDGs(持続可能な開発目標)や深刻化する地球環境変化や防災・減災の学びの基礎である「地理総合」としての教材開発の課題、(2)「持続可能な社会づくり」に資する地理教育の内容の充実:GIS(地理情報システム)の活用、タブレットやPCといったICT環境整備、指導できる教員が足りない等の課題、(3)「持続可能な社会づくり」に向けた地理教育を支えるための体制の整備:大学の教職課程において「地理総合」の内容を意識した授業の必要性、(4)学校教育・教員養成を支える大学教育の充実:「地理総合」の内容を意識した大学の授業の充実とともに、大学入試における「地理総合」の扱いに関する課題、(5)「持続可能な社会づくり」を支える地理教育の社会実装:小学校・中学校・高等学校・大学における地理教育において、関連省庁、地方自治体、NPO/NGO等との連携の必要性。

3 提言の内容

  • (1) 「地理総合」による地理教育の改革
     文部科学省、各教育委員会、各高等学校それぞれは、現職教員が研修等に容易に参加できるよう働きかけるべきである。「地理総合」は、ESD(持続可能な開発のための教育)やSDGsにつながる汎用性の高い基礎的科目であることから、高等学校における教育課程の構成において原則として第1学年で履修させることが望ましい。また、カリキュラム・マネジメントを行うことにより、「地理総合」の重点項目の1つであるGISや防災を通学路確認等の入学時指導とリンクさせる等、実践的能力を向上させる機会を作ることが重要である。また、「地理総合」で重要となる、地図・GISの活用、国際理解と国際協力、自然環境と防災、生活圏の課題と持続可能な社会づくりに関する内容等に関して、現職教員に対する研修制度を早急に確立するとともに、「働き方改革」を推進し、教員の負担を減らしつつも、教員の資質向上となる研修の機会は十分に確保すべきである。

  • (2) 地理的な見方・考え方を問う大学入試のあり方
     文部科学省(入試センター)及び各大学においては、新設の大学入学共通テスト、国公立大学の二次試験、或いは私立大学の一般入試において、「地理」科目を課す場合には、「地理総合」の内容を必ず含めるべきである。例えば,「地理総合・地理探究」、「地理総合・歴史総合」、「地理総合」のような科目設定とし、「地理探究」は単独の入試科目として扱うべきではない。さらに、「地理総合」の学習成果を十分確認し、単に知識・技能を問うものではなく、地理的な見方・考え方やアクティブ・ラーニングの成果を踏まえた「思考力・判断力・表現力」を問う出題が望まれる。

  • (3) 「地理総合」を支えるための大学地理教育の変革
     各大学及び文部科学省は、以下のことに配慮する。高等学校において「地理総合」・「地理探究」を履修した生徒が、大学においても地理的な見方・考え方を働かせて、国際理解や国際協力、防災、持続可能な社会づくり等の学びが深められるよう、基礎科目や共通科目においても適切な科目を配置すべきである。
     地理歴史科の教員免許状取得が可能な大学では、新学習指導要領に十分対応する力を育成することができる大学教員を積極的に採用し、地理学関連の講義を充実させるべきである。教職大学院では、教科専門性を有する中等教育教員の育成をより一層考慮し、教員養成における教科専門性の十分な修得を保証する教育課程の設計をすべきである。

  • (4) 小学校・中学校・高等学校間及び諸教科間の関連性を活かした地理教育改革
     文部科学省、各教育委員会、小学校、中学校、高等学校においては、「地理総合」の効果的な実践実現のために、小・中・高における接続と一貫性に配慮すべきである。特にフィールドワーク(野外調査)は、アクティブ・ラーニングと防災教育の視点からも重要で、「生活科」「理科」「総合的な学習の時間」「総合的な探究の時間」と連携を図る等、各校種でカリキュラム・マネンジメントを働かせ、各学校の実態に応じて確実に行われるよう工夫が求められる。また、中・高間では、「地理総合」の設置で一層の連携が求められ、高等学校教員が中学校での学習を理解するとともに、中学校教員も高等学校の内容を理解し、中学校の内容と高等学校の内容との関連性を教員が理解する必要がある。

  • (5) 「地理総合」を支えるための社会的環境整備の充実
     文部科学省が中核となり関係省庁は、高等学校でのICT環境の整備を進めるとともに、地理教育で活用できる公的データをオープンデータとして整備・維持管理することが必須である。「地理総合」の学習内容である国際理解・国際協力、防災や持続可能な地域づくりについては、地理学や関連する他の学問分野の学協会、そして、関連省庁、地方自治体、NPO/NGO等がそれぞれの役割を明確に意識し、地理学連携機構等を中心として協力関係を築くべきである。





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