提言「博物館法改正へ向けての更なる提言~2017年提言を踏まえて~」のポイント
1 作成の背景
昭和27(1952)年施行の博物館法に規定される登録博物館制度や学芸員資格等の運用の実状及び同法に内在する構造的な不備等はかねてから認識されていたにもかかわらず、平成20(2008)年の博物館法改正においても登録博物館制度や学芸員資格の在り方等については抜本的な改正に向けた検討には至らず、課題が残された。そうした中で、本分科会は、平成29(2017)年7月に(提言)「21世紀の博物館・美術館のあるべき姿―博物館法の改正へ向けて」を発出し、次の2点について提言するとともに、そのフォローアップに努めてきた。
(1) 博物館法の改正による新たな登録制度への一本化
(2) 博物館の水準を向上させる新登録制度設計と研究機能の充実
2 現状及び問題点
提言の発出以後に、諸法律の改正や省庁の組織改編が行なわれた。平成30(2018)年の文化財保護法の改正は、文化財の保存と活用の在り方を再整理した。また、平成30(2018)年から文部科学省と文化庁の組織改編が行なわれ、博物館及び芸術教育関連業務が文化庁に移管され、同庁内で文化財保護法と博物館法の整合を図り、両法の一元化の実現に向けて議論ができる素地が生まれた。海外では文化財保護法に博物館に関する規定を盛り込んだ法律を制定している国がある。将来的に文化財保護法と博物館法を一体化した新法律の制定が望ましい。他方、「地方独立行政法人施行令」の改訂(平成25(2013)年)により公立博物館の地方独立行政法人化が加速されることが予想される。こうした現状を考慮し、博物館の基本的な在り方を規定する博物館法の改正を進め、多様化が進む博物館の現状との乖離を解消することが望まれる。また、大学が設置する学芸員養成課程により支えられている現在の学芸員資格制度は、資格保有者だけを増加させている。さらに、公立博物館における人事・予算・運営の窮迫は顕著であり、改善の必要がある。
3 来るべき博物館法改正とその後の展望
- (1) 登録博物館制度から認証博物館制度への転換
文化財保護法と博物館法制定当初の不整合を継承し独立行政法人国立科学博物館法、独立行政法人国立美術館法、独立行政法人国立文化財機構法で設置される国立館が博物館法による博物館の定義から除外されてきている現状は、実態に合わず、登録施設と非登録施設の格差も顕在化している。これまでの法律・政令等の改正は登録博物館制度の抜本的な見直しになっていない。また、小規模博物館の運営改善と学芸員の水準向上のための支援を含むためには、イギリスの事例を参照しつつ、博物館の制度や運営の実態に精通した第三者的な協会等を実施主体とした、一級認証博物館と二級認証博物館から成る認証制度への転換が望まれる。 - (2) 学芸員資格制度の改革及び研究者としての学芸員の社会的認知の向上
学芸員の専門能力の養成・向上という課題の解決に向けて、学部学生向けの学芸員養成課程を維持しつつ、大学院生向けの養成課程・講座の設置及びリカレント教育等、学芸員のスキルアップを図る制度の拡充が望ましい。そのために、学部卒により取得できる「二種学芸員」と、修士課程修了等を要件とする「一種学芸員」の二種類からなる新たな学芸員制度を提案する。 - (3) 博物館の運営改善と機能強化
ICOM 京都大会(2019 年)において大会決議として採択された「文化的ハブ」としての博物館の機能強化の促進や「アジア地域のICOM コミュニティへの融合」の実現、さらには自然災害等からの文化財保護のための国際的ネットワーク構築、博物館が行政や地方社会と協働する仕組みの導入のために、文化庁が文化省(仮称)に拡充改編され、機能強化されることが望ましい。
4 提言等の内容
以下提言の(1)から(4)は、特に文化庁において国立博物館を所管している企画調整課を中心として、文化審議会博物館部会において検討されることを切に期待する。
- (1) 登録博物館制度から認証博物館制度への転換
現状との乖離が著しい登録博物館制度から、日本の博物館全体の機能強化とレベルアップのための新しい認証博物館制度への転換を提言する。 - (2) 認証博物館制度の認証基準策定、検証、評価等を担う第三者機関の設置
認証博物館を一級、二級に区分した新たな認証博物館制度を構築する。 - (3) 学芸員制度の改正による学芸員の区分の設定
「一種学芸員」と「二種学芸員」に区分した新たな学芸員資格の導入。 - (4) 学芸員による独創的な研究を可能とする新制度設計
学芸員による業務から離れた自由な研究活動の意義も認め、独創的な研究を可能にする研究環境の基盤整備を講ずるべきである。 - (5) 文化省(仮称)の創設による博物館の運営改善と機能強化の実現
博物館の運営改善と機能強化を支援する国家的な文化政策を立てるためには、文化庁が文化省(仮称)に拡充改編されることが望ましい。
提言全文はこちら(PDF形式:764KB)