提言「自動運転の社会的課題について新たなモビリティによる社会のデザイン-」のポイント

1 現状及び問題点

 自動車の自動運転の実現に向けた技術開発や法制度の整備は、国内外で取り組みが加速し、比較的容易な環境条件では自動で動かすことができつつあり、今後は社会受容性や事業性の観点での取り組みのフェーズになりつつある。完全自動運転の社会実装に向けては、様々な課題があるものの、マスコミ報道では早期に実現可能なように言われたり、国民が状況をきちんと理解しないまま一部自動化された車を使用すると、過信による誤使用などが懸念される。
 このような中、日本学術会議では、第三部が中心になって、提言「自動運転のあるべき将来に向けて-学術界から見た現状理解-」を2017年6月に公表し、自動運転についての正しい理解を促すようにした。その後、世の中の取り組みがさらに進み、社会実装のフェーズとなっていく中、社会の受容性の検討が十分でなく、そもそもの自動運転に目的にそった展開を考えるに、技術開発先行が目立ち、世の中の課題を解決し、どのような社会を目指そうとしているのかといった視点が欠如しているように思える部分がある。このような問題意識から、日本学術会議の課題別委員会として「自動車の自動運転の推進と社会的課題に関する委員会」が設けられ、課題解決に向けて多角的な視点からの議論がなされた。本提言は、これらの活動から得られたことをまとめたものである。

2 提言の内容

  • (1) 将来社会のグランドデザインにおける自動運転・モビリティの役割
     移動の自由と安全の確保が将来社会のグランドデザインの実空間での大事な課題であり、Society5.0で位置づけられるビッグデータやサイバー空間での検討と合わせて、自動運転は社会デザインの一部として設計されるべきものである。自動運転の社会実装は超高齢社会の課題解決としても期待され、中山間地域から地方都市、大都市といった地域特性に応じた取り組みが必要であり、特に、内閣官房と内閣府が主導し関係省庁が総合的に取り組む体制を整えるべきである。ひいてはSDGsに向けた貢献として、モビリティの発展段階の異なる世界各国に向けて、社会デザインの構築事例として、我が国から明確な発信が期待されている。

  • (2) 人文社会科学的な価値観・倫理観に配慮した人間中心のデザインと社会実装
     将来社会のグランドデザインにおける自動運転の開発及び社会実装においては、人間中心の設計概念が重要である。科学技術的な面での安全性や機能性の人間機械協調の設計視点だけでなく、自然環境保護や文化、社会的公正など、人文社会科学的な価値観や倫理観をも射程に入れた総合的検討が必要である。文化や倫理観によっては、合理的に普遍的な唯一解を見いだしにくいケースに遭遇することもあり得る。そのため国は横断的視点に立って省庁の垣根を超えた基盤的取り組み・法整備をすべきであり、産業界や大学も学際的かつ国際的な取り組みを重視すべきである。

  • (3) 実証データの整備とエビデンスに基づく持続的な開発
     自動運転のような新技術開発には多大な研究開発コストがかかるほか、社会受容性の検討も必須であることから、実証データをきちんと整備すべきである。車載のシステム作動記録装置の設置により、データを用いた効率的な技術開発ができる体制としつつ、社会的には交通安全の向上に向けた、個人情報の扱い方、セキュリティのあり方、保険制度、責任の所在などの検討をエビデンスベースで行うべきである。このため自動運転に関わる国、産業界、大学は、道路交通以外の他分野とのデータ共有も踏まえた横断的検討をすべきである。

  • (4) 産学官連携の国家的プロジェクトによる人材育成と研究開発
     上記の提言の達成のためには戦略的協調を掲げ、これまで実施されてきた産学官連携によるSIP等の国家的プロジェクトを今後も継続的に実施することにより、しかるべき人材の発掘と育成及び研究開発につなげていくことが必要である。特にソフトとハードを融合したフロンティア学術領域のみならず、経済、法律、倫理など人文社会科学系も含めた文理融合学際領域の人材育成が必要である。このため内閣府と文部科学省及び経済産業省は、日本学術会議での検討をベースに協調領域課題の発掘を行い、継続的な仕組みを創設し、人材育成を伴う研究開発及び上記グランドデザインの実現に向けた自動運転の実装化を推進していくべきである。

  •  自動運転の推進(研究開発、社会実装)に関わるすべての関係者(行政、学術界、産業界、事業者)は、上記提言を真摯に受け止め、将来社会のグランドデザインに資するべく尽力すべきである。特に、研究開発プロジェクトの推進や交通安全に関わる行政機関は、学術界や産業界や事業者がこれらの提言に従って自動運転を推進するよう、指導し監督すべきである。




     提言全文はこちら(PDF形式:875KB)PDF
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