提言「工学システムの社会安全目標の新体系」のポイント
1 現状及び問題点
安全に関しては、これまでその在り方に対して多くの検討がなされ、安全確保のための対策も実施されてきた。しかし、工学システムの複雑化、機能の高度化や活用範囲の拡大につれて、安全の対象も労働安全から社会安全へと拡大し、その影響も多様かつ大きなものになり、一度の事故で社会に大きな影響を与える可能性が高くなってきた。
これまで社会の安全は、主に行政の管轄分野に対する細やかな安全規制と事業者の真摯な努力により積み上げられてきたが、規制の改善は、大きな事故や災害を受けて行われることも多かった。このために、必ずしも規制を満足していれば事故を防ぐことができるわけではないことが、広く認識されるようになり、これまでの事故に学び規制により安全を確保するという仕組みも改善が必要であることが明らかになった。
2 提言の内容
本提言は、工学システムにおける安全目標を設定し社会の安全を確保するという新たな仕組みを提示し、その実現を目指すものである。
安全な社会を構築するためには、規制による安全に加えて、社会として共有できる具体的な目標を設定し、安全対応の進捗状況を確認して目標の達成を検証していく必要がある。
本提言では、これまでの工学システムの安全に関する活動を調査し、それぞれの考え方を整理した。そして、社会安全の対象とする工学システムを特徴に応じて5つに分類し、各々の特徴に対応した安全目標の在り方を検討した。
また、本提言では、多様な安全の課題に対して、安全目標の指標としてリスク指標を用いることを推奨している。このリスク指標を用いた基準の設定に関しては、規制等の様に達成できないことが許容されない基準としての設定する考え方や社会要求を勘案してそれ以上の改善を求めない基準として設定する考え方がある。さらに、この二つの基準を設定して、社会状況に応じて目標とするレベルを決定する方法も提言している。
そして、その安全目標の構築と活用の仕組みとして、行政、学協会、事業者、市民の視点を取り入れた仕組みを検討し、安全目標を検討する組織により安全目標を設定するステップを整理した。
さらに、構築した安全目標の仕組みの活用に関する検討を行い、以下の6つの活用方法として整理を行った。
- 1) 行政が社会自体の目標として我が国が目指す安全レベルを示す
- 2) 行政が事業者に対して満足するべき安全に関する要件として示す
- 3) 特定の工学システムの安全を検証するための指標として示す
- 4) 技術開発目標としての指標として示す
- 5) 長期的な社会の挑戦目標としての指標として示す
- 6) 国際的な目標としての位置づけとして示す
本分科会では、工学システムの社会安全の在り方に関する検討結果を踏まえ、以下の5つの提言を行うものである。国は、以下の提言を実現する活動を推進するべきである。
- 提言1
- 工学システムの開発や運用に関わる行政や事業者は、活力があり豊かな社会を構築するために、社会安全の明確な目標を定めてその達成を目指す仕組みを構築するべきである。
- 提言2
- 学協会、事業者は、その業界・専門分野を超えて、経験した事故・災害の再発防止に加えて、経験していない事象に対してもリスク概念を用いて安全の向上を目指すべきである。
- 提言3
- 工学システムの開発や運用に関わる行政、事業者は、最新の情報・検討に基づいた安全目標を市民に提示し、市民はその安全目標に対いて積極的に責任のある意見を発信していくというそれぞれの役割を果たすことにより、市民も納得できる社会安全の仕組みを構築するべきである。
- 提言4
- 事業者や学協会は、工学システムの特徴に応じて安全目標を構築し、工学システムの開発や運用に関わる行政はその運用を行う仕組みを構築するべきである。
- 提言5
- 工学システムの開発や運用に関わる行政、学協会、事業者は、安全目標を社会の状況変化に応じて改定し、市民は社会状況に応じて安全目標が変化することを理解するべきである。
本提言では、工学システムの安全に関する行政・学協会・事業者に対し、安全目標を設定し、安全な社会構築に努められることを求めるものである。
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