提言「サステナブルで個人が主体的に活躍できる社会を構築するサービス学」のポイント

1 現状及び問題点

 サービスとは提供者と受容者が価値を共創する行為である。近年の情報通信技術の進展や社会のデジタル化によって、市民は多様な新しいサービスを得られるようになった。すでに始まっているシェアリングやクラウドファンディング等の新しいサービスでは、市民は車、家、資金といった資源の提供者となり、提供者である市民同士あるいはサービスの受容者と共創して、より望ましいサービスの質や設計そのものに積極的に関わることになる。たとえば、個人の住宅の空き部屋をゲストハウス(宿泊施設)として提供している市民は、宿泊施設そのものの価値の改善や向上に務めるだけでなく、宿泊予約サービスの事業者と共同して、あるいは、他の宿泊を提供している市民と共同で宿泊予約サイトの利用価値そのものを上げるための運営にも携わることになる。
 このように、サービス事業者のみならず、市民にとってもサービス学の知識や思考を修得する重要性が増えている。しかし従来の教育は、サービス提供者(生産者)としての能力を高めるため、専門性の追求に大きな努力を割いてきた。特に、医療、看護、教育などの資格取得が必要な領域においては、未だに技能教育と職種を結びつけた教育に留まっているところが少なくない。本提言では、サービスを中心とした社会(サービス化社会)の中で、市民も含めた個人が主体的に活躍するために涵養すべきサービス学の鍵概念や考え方を整理すると共に、サービス学を体系的に教育するための実装方法を示している。そして、サービス化社会の実現に向けて、市民、産業界、教育組織、国・政府の役割と必要な体制について以下の提言を行っている。

2 提言の内容:「サステナブルで個人が主体的に活躍できる社会の構築に向けて」

  • (1) 市民の役割
     サービス化社会では、市民は多様な提供者からカスタマイズされたサービスを得るようになると共に、さまざまなサービスの提供者にもなる。サービスの受容者としての市民は、良いサービスとは自分のニーズを充足するか否かだけではなく、地域コミュニティ、社会、地球環境等との共益の観点からも評価し、地球市民としてより望ましいサービスを選択することが求められる。一方、サービスの提供者である市民は、上述のようにサービスの質や設計そのものに関与する。すなわち、市民の振舞いが、社会のサステナビリティを規定する割合がますます大きくなる。市民はより適切に振舞うために、市民自らがサービス学の知識や思考を学ぶことが必要であり、そのために、サービス学を生涯にわたって学習する機会を文部科学省や教育機関は提供することが求められる。

  • (2) 産業界の役割
     日常生活のさまざまな主体がインターネットで繋がるIoH(Internet of Human)の実現により、人を中心とするサービス化社会は高度化する一方で、産業界と市民、及び、市民間の知識面での格差が進み、プライバシーの侵害やセキュリティリスクも高くなる。産業界はこれらの格差の解消に努め、自らも市民社会の一員としてルールを遵守し、イノベーションの成果を広く市民社会と共有することが求められる。一方で、より良いサービスを市民や組織間と共創できるような人材育成を自ら行い、実行すべきである。

  • (3) 高等教育機関の役割
     高等教育機関は、サービス思考を身につけるための基礎、サービス化社会での職種別の応用、学術とサービス化社会との持続的連携を図る実践といった体系的な科目の設置が不可欠である。一方で、限られた資源の中でこれらの体系的なサービス学教育を各組織で個別に整備することは困難であろう。そこで、サービス学に関わる高等教育機関は、複数の高等教育機関、学協会、産業界と協働でサービス学教育を補強・増強する組織(センター)を創ることを検討すべきである。

  • (4) 国・政府の役割
     サービス化社会の実現のためには、国や政府は、市民間の取引ルールの制定、個人情報の利用に関するルールの改訂などの社会基盤の整備が急務である。また、高等教育機関がサービス学教育の実装に必要な体制を整備し推進する施策(たとえば、基盤整備や拠点整備に関する補助金事業など)を、文部科学省は講じるべきである。さらに、市民が生涯にわたってサービス学を学習できる機会についても、文部科学省を中心に早急に整備すべきである。





     提言全文はこちら(PDF形式:691KB)PDF
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