提言「被服学分野の資格教育の現状と展望」のポイント

1 はじめに

  •  被服分野における人材育成の重要性について社会的要求をもとに現状と問題点、今回の提言に至った経緯、特に、人材育成における被服分野での資格制度の重要性と制度改革の必要性を問題提起し、本提言をとりまとめるに至った。

2 現状及び問題点

  • (1) 衣料管理士養成制度の成り立ちと大学等の改組との関係
     1970年代に多発した洗濯排水による河川の汚染や繊維製品の樹脂加工による皮膚障害等衣生活関連の問題に対処するために、アメリカのヒーブ(Home Economists in Business(HEIB):「消費者が商品の選択能力を身につけ、また消費者のために、より優れた商品が生産、販売されるように努めるなど消費者と企業を結ぶ役割を目標としている。」)の考え方を模した、衣料管理士(TAと略す)養成制度が私立大学の被服学科に導入され、一般社団法人日本衣料管理協会(協会と略す)がこの取りまとめを行い、現在に至っている。TA課程を支える教員としては主として国立大被服学科及び工学部系大学繊維学部出身の研究者等が採用されてきたが、近年、これら大学の改組によって適任者が得にくく、養成課程継続上の課題が生じている。

  • (2) 衣料管理士課程の認定条件
     認定校が協会の定めた詳細な設置基準(認定定員・教育設備・教員組織・教員の資格審査・カリキュラム及び各科目の授業内容等)(付録2)に基づき、科目担当者が所定の授業・単位認定すると、課程履修生には卒業時に協会からTAの資格が与えられる。この資格が大学で取得できる他の資格と異なるところは、認定校及び課程履修生は協会の正会員として年会費を徴収される点である。

  • (3) 衣料管理士資格養成に関するアンケート調査の実施
     現状把握のために、1級TAの認定校である4年制の13大学及び各認定校出身の任意の5名以上の1級TA取得卒業生に対して2018年(平成30年)7月から9月にアンケート調査を実施した。認定校及び卒業生双方の回答から現状が把握されるとともに多くの問題点が明確になった。

3 提言

  • (1) 1級衣料管理士課程の認定条件の見直し
     現行制度では衣料管理士の必要性は高まらず、認定校の継続も困難になる。協会は現状に対応できる実力のある1級衣料管理士を責任を持って養成すべく取り組むべきである。TA認定校と協会は被服学分野におけるTA教育の果たす役割の大きさを再確認し、両者が実現可能な将来構想を協議し、1級衣料管理士の認定課程や関連規定等の制度改革が必要である。例えば、以下のような改革案が考えられる。1級TAは製品の性能表示や成分表示規格等を試験して評価する専門職、2級TAは主に消費者に素材特性及び取り扱い方法等の製品情報を正しく伝える販売職とする等、1級と2級の職務分担を明確にして両者の資格の専門性を強化する。1級TAは1973年(表3参照)のカリキュラムに、近年発達した領域を加え深く学び、実験・実習を重視する。テキスタイルアドバイザー実習は、事前に協会が実施する学科試験の合格者のみを対象にして協会の賛助会員になっている試験機関のみで実施し、予め定めた実習内容と水準に基づいて試験機関が採点を行い、その結果により協会が実習単位を認定する。この過程を経た後に、協会は1級TA資格の筆記による最終試験を、協会が定めた試験内容・期日・会場等で実施し、合格者に対して1級TA資格を認定する。

  • (2) 生活財関連の消費者対応専門官等への1級衣料管理士の任用
     この50年近い間に数え切れないほど多種多様の加工が施された繊維製品や洗剤、化粧品、染毛剤等の多くの生活財が生産されてきたが、製品の性能・原料・環境中での生物分解性・人体に対する影響等々の多くの事項が非表示で、しかも製造業者に表示が義務づけられていないために、消費者はその詳細は殆ど知るすべがない。このような状況に対してこそ、1級TAが生活者の視点に立って、生活財に対する性能評価法・性能の持続性・性能の等級・製品に対する表示方法の開発等に対応するべきである。この資格の開設当時は百貨店やアパレルメーカーに多くの商品試験室等が開室され生活者の視点も重視されたヒーブとしての活躍の場があったが、近年ではこれらの多くは規模が縮小または閉室され、多くの1級TAの職場は、企業の試験を代行している試験機関等か販売職に偏っている。監督官庁である経済産業省指導のもとに、関連法規を見直し1級TAがヒーブとして活動できる公的なポジションを消費者庁・独立行政法人国民生活センター・都道府県の消費生活センター等に新設することを提案したい。

  • (3) 「専修衣料管理士」及び「国家資格衣料管理士(仮称)」の新設
     1級TAの認定校となっている私立大学では認定科目担当員には、主として国立大学の被服学科や繊維学部等の出身者を採用して1級TA養成のための教育が行われてきたが、これらの国立大学の関連学部改組に伴い、特に材料、加工・整理分野において適任者が得にくくなったため、認定校自身での後継者養成が急務となった。幸いなことに現在の1級TA養成大学は殆どが大学院博士課程を開設しているので、これらの大学院を生かした後継者育成と共に、TA資格の見直し案を提案する。学部卒の1級TA資格の上位に、専修衣料管理士(仮称)資格の新設を提案する。具体的には、現行の1級TA認定校の大学院研究科の既存の専攻(例えば被服学専攻)のカリキュラムの中に、専修TA資格取得のための科目として4分野の各特論及び家庭用品品質表示法等の生活関連法規特論演習等を開設し、専修TA資格(仮称)を出す。さらに大学院博士課程において学位を取得させ、1級TA認定校の講師以上に推薦できる後継者を育成する。将来的には、業界にも生活者にも偏しない、地球環境を見据えた衣料管理士を育て、関連分野の専門家の層を厚くするために、国家試験によって認定する国家資格TA(仮称)を新設する。監督官庁としての経済産業省はこの国家資格主管団体を任命する。この団体が、国家試験の実施案を検討し、試験を実施する。合格者に国家資格衣料管理士(仮称)の資格を付与する。





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