提言「長寿社会における脱炭素健康住宅への道筋」のポイント

1 現状及び問題点

 脱炭素社会の実現は喫緊の課題である。その中でも、日常生活をおくる住宅のあり方は脱炭素社会への道筋に大きな影響を与える。一方、我が国には長寿化、人口減少、世帯構成などの急激な社会環境の変化が訪れる。このような社会ではこれまでの成長を仮定した対策とは異なる脱炭素シナリオが必要になる。

2 提言の内容

  • (1) 高齢者住宅のエネルギー消費量の把握

     住宅におけるエネルギー消費に関する統計データを継続的に取得することが必要である。そのための継続的な予算確保を提言する。一人当たりの温室効果ガス排出量について家庭部門のCO2排出実態統計調査(家庭CO2統計)で評価すべきである。家電製品のリアルタイム情報や居住者の行動情報を得ることによって待機電力などのさらなる削減が可能である。

  • (2) エネルギー需要・情報・サービスに関する動向把握

     世帯人数、年齢構成などにより生活行動が異なるため、それに合わせた対策と優先順位を決めていく必要がある。エネルギー需要科学という学問、研究分野が必要とされている。高齢者世帯に関しては、エネルギー消費の特徴は在宅時間が長いこと、古い機器の使用割合が高いことなどがある。高齢化社会の生活とAI、IoTを踏まえてエネルギー需給、住まいの在り方を考える必要がある。技術のみならず、生活空間や居住者行動を包括したアプローチも必要になる。

  • (3) 寒い住宅からの脱却、断熱による死亡率の低減並びに、豪雪被害への対応

     世界保健機関(WHO)が2018年11月に発行した、住宅と健康に関するガイドラインでは寒い季節の住宅の最低室温を守るべきであるとの勧告を行っているが、それを適用すべきである。我が国においても住宅と健康に関するエビデンスが充実しつつあり、これらを政策に反映すべきである。また、寒冷地のみならず温暖な地域であっても、住宅の高断熱・高気密化による熱性能の向上を図るべきである。加えて、高齢化の進む豪雪地帯における住宅の雪対策が重要な問題であることを再認識すべきである。

  • (4) 人口減少社会における脱炭素戦略

     我が国において熱中症で救急搬送される人数が増加している。我が国の熱中症の約 4割が住宅内で発生しており、このうち7割が65歳以上の高齢者である。住宅における日射遮蔽や通風の確保、適切な冷房の使用に関して科学的データを示して危険性を知らせるべきである。また、高齢者には特に暑い季節に睡眠障害、睡眠不足による健康被害が生じる可能性があるため、良好な住宅環境を提供すべきである。

  • (5) エネルギー需要・情報・サービスに関する動向把握

     ZEH(ネット・ゼロエネルギーハウス)の太陽光発電設備設置の経済的メリットが薄れつつあるため、自家消費率を向上させる技術開発を行うことが大切である。さらなる普及のためには、健康・快適性、レジリエンスなどのエネルギー以外の便益に関して示していく必要がある。ZEHの不動産価値に関しても中古市場で高く評価されていくような取り組みが必要である。住宅の環境性能に関する分かりやすい表示、例えば標準光熱費などの表示が住宅流通時に必要である。建物保有税は質の高い建物ほど高いことから、環境負荷を小さくするための投資を阻害しており、廃止・軽減を含め抜本的な見直しが必要である。

  • (6) アジア蒸暑地域の冷房・国際協力

     アジア蒸暑地域の発展途上国における冷房エネルギー消費が急増している。冷房負荷の小さい住宅や高効率エアコンの開発と普及を進めるべきである。高齢化に対応した課題は、アジア蒸暑地域においても我が国に遅れて発生する。アジア学術会議を基盤として脱炭素に取り組む必要がある。地球規模課題対応国際科学技術協力プログラム(SATREPS)やBuilding Energy structure and Lifestyle Database of Asia(BELDA)の活動などをさらに支援していく必要がある。
     なお、提言に関しては関係省庁のみではなく、関連する産業界と連携して行うことが重要である。





     提言全文はこちら(PDF形式:823KB)PDF
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