提言「災害が激化する時代に地域社会の脆弱化をどう防ぐか」のポイント
1 現状及び問題点
極端気象の頻発や、災害の激甚化はほぼ予測どおり進んでいるが、答申が求めたパラダイム変換や社会変革は実現していない。いつ起こるかわからない自然災害に対して、行政も納税者も災害リスク回避や社会変革のための意識・意欲が高くないことにも原因がある。シンポジウム「繰り返される災害」(平成31年)では災害が激化する時代、地域社会の脆弱化をどう防ぐかという視点から防災・減災の課題を整理し直した。様々な防災施設対策と、防災情報システム、ハザードマップや避難計画などのソフト対策の両方を活かすには、地域住民、地域社会が有効に機能しなければならない。低平地への都市の無秩序な拡大、人口集中が進む沿岸地域の産業構造と土地利用変化、少子高齢化・過疎・過密などは地域社会の脆弱性を高めており、地域で進行する自然的・社会的現象を理解する必要がある。近年の風水害や地震災害からは、災害予測の現状、地域社会の防災活動の実態や情報伝達での課題が浮き彫りとなり、その解決は急務である。少子高齢化が進む地域社会での脆弱化を防ぐ方策を検討し、災害後のより良い復興の方向性、事前復興、事業継続方策の整備などを構想し、これらを意識した防災教育の実現が望まれるが、具体的な対策を実行するにあたり何が妨げになるか、その実現に向けてどのようなブレークスルーがソフト対策として提案し得るかに関しては、従来の検討では十分であったとは言いがたい。本提言は、地域特有の課題解決に向け、防災をいかにデザインすべきか、学校教育・生涯教育において防災教育を充実させる方策について公表し、災害に対する「地域社会の脆弱化」の防止に貢献しようとするものである。
2 提言の内容
- (1) 激甚災害・複合災害を前提とした「想定外」を回避できる対策の実現
- 行政・事業者等、防災施策の立案者は地域の災害ハザードや脆弱性を十分念頭におくとともに、災害に関する科学的予測の不確実性を考慮した対策を立案すべきである。巨大地震や極端気象などの科学的な研究成果に基づき「不都合な事実」を直視して予測の不確実性を適切に考慮すべきである。国や地方自治体及び地域社会は、災害対応における「想定外」を回避するための取り組みを強化して、災害予測情報に対する対応者側のリテラシー(知識・知恵とそれを活用する能力)の向上を継続的に図る必要がある。
- (2) 災害・防災情報に対する市民の防災リテラシー向上
- 市民(住民、通勤・通学者、訪問者も含む)が災害の地域特性を理解し、災害予測情報を適切に受け取り活用できるよう、総合的な情報提供および理解支援システムを構築することが急務である。地方自治体はハザードマップを作成・配布し、様々な災害のリアルタイムの情報が防災関係機関やマスメディアにより提供されているが、避難行動に移らない市民も多い。政府や地方自治体は、地域社会とともに災害・防災情報に関する市民の理解・活用能力を高め、ハザード情報や災害時情報の効果的提供を進める必要がある。
- (3) 少子高齢化を踏まえたレジリエントな減災社会の形成
- 国と地方行政及び地域社会は、少子高齢化を踏まえレジリエントな社会創造に向け対策を急ぎ、自助の限界を考慮し、共助・公助の充実、防災と福祉の両方の観点から市民を守るため、より安全な場所への居住、建物の耐震・耐水・耐風性能の強化に努めるべきである。人口減に対応したコンパクトシティ化で防災と社会福祉を同時に充実させ、脆弱な場所を避ける土地利用、避難や緊急物資輸送に対応する交通・運送計画、災害時情報の周知システム、ライフライン強化を推進すべきである。
- (4) 地域ぐるみの安全目標設定と事業継続方策
- 地域住民が主体的に地域社会の将来像をデザインし、産業界や地域コミュニティーと連携して、安全目標の設定と総合的な事業継続計画・管理の立案に参画することが必要である。平時からの企業と地域社会の連携、立地条件に応じた防災計画、被災時のライフラインや水・食料・医薬品供給確保、医療従事者の生活確保、災害種ごとの業務継続計画の策定を検討し、国と地方行政及び地域社会の連携で安全目標の設定と業務継続方策の策定を支援すべきである。
- (5) 防災教育の充実
- 将来の減災社会づくりの担い手育成に向け、防災・減災が様々な局面に無理なく埋め込まれるような防災教育の実現が、学校教育及び生涯教育の両方において必要である。小中学校における防災教育を充実させるとともに、令和4(2022)年度から高等学校で誰もが学ぶ「地理総合」において、災害のメカニズムのみでなく、災害の大きさはハザードと地域の脆弱性により決まることを学び、被害に対する想像力を働かせ、被害軽減のためにはこれから何が必要かを主体的に考えられるようにすることが重要である。
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