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日本学術会議会長コメント

平成17年3月23日
 日本学術会議は、平成17年3月23日に『老朽・遺棄化学兵器のリスク評価と安全な高度廃棄処理技術の開発』と題する対外報告を公表した。これは、中国に存在する旧日本軍が製造し、貯蔵し、敗戦の際に中国に遺棄した化学兵器(毒ガス弾)を化学兵器禁止条約に基づいて廃棄処理する際の作業者、周囲の環境などに対する安全性に配慮すべきことを具体的に記述し提言したものである。それと同時に、日本国内の地中、湖や海域に投棄された老朽化学兵器による最近の被害についても調査し、問題の重要性を指摘した。  
 老朽化学兵器や遺棄化学兵器の廃棄処理に当たっては、安全性に配慮した高度な技術開発が求められる。また、被害の予防的措置や神奈川県寒川町における住民被害の救済のような緊急的措置に対しても基礎医学や救急医療の知見が必要である。このため、化学兵器の廃棄には最新の学術的知見を活用すべきである。  
 日本学術会議では過去2回、遺棄化学兵器の廃棄処理事業について対外報告書を公表し、提言を行ってきた。その結果、化学兵器の処理技術を開発するための研究環境が改善され、研究課題の提案や成果の公表がし易くなった。また、化学兵器の探索・発掘の無人化・自動化などについての専門の学会における議論に基づいた提言がなされ、処理事業計画に先端的な技術も取り入れられるようになってきた。しかし、最近、中国や日本国内において化学兵器によるとみられるヒトへの災害が生じたことに鑑み、緊急医療やヒ素の慢性中毒に対する医学と理工学の協調的な対策、技術交流が望まれている。さらに、このような背景から、廃棄の実際においてのリスクの評価と管理を行うことも大切である。また、処理事業の推進においては、歴史学、社会学、地理学などの人文・社会科学の寄与も重要であり、あらゆる分野の科学技術の成果を活用して廃棄処理に当たるべきである。遺棄化学兵器に限らず、世界には天然に存在するヒ素による潜在的中毒患者が 5000万人に達するといわれるが、日本が開発し実施するヒ素の処理技術を広く地球規模の汚染された環境の回復に利用することが可能であり、また望ましいことである。化学兵器の廃棄技術を、単に負の遺産の解消にとどまらず、日本の積極的な国際貢献へ発展して応用するならば、それは世界から高く評価されることであると考える。
日本学術会議会長 黒川 清
【参考】
・日本学術会議ホームページ http://www.scj.go.jp
         
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