会長室(24期)

山極 壽一 会長

日本学術会議会長 山極壽一

第24期会長就任のご挨拶

この度、第24期日本学術会議会長に選出された山極壽一です。これから3年間の任期を始めるにあたって、新会長としての所信を述べさせていただきます。

日本学術会議は、わが国の科学者の内外に対する代表機関として、科学の向上発達を図り、行政、産業及び国民生活に科学を反映、浸透させることを目的としています。1949年に設立されて以来、総理府や総務省の所轄として出発し、現在は内閣府の特別の機関として置かれています。教育、文化、学術、スポーツ、科学技術の振興を図る文部科学省ではなく、国の行政の根幹である内閣府の所轄にあることが大きな特徴です。つまり、わが国の約85万人の科学者を代表して、政府や社会と直接対話し、科学的な観点からさまざまな勧告、要望、声明、提言、報告をすることが期待されているのです。また、わが国が直面する多くの課題に科学の立場から取り組み、政府や社会からの要請に応えていかねばなりません。今、その責務の重さをひしひしと感じております。

さて、第23期に日本学術会議が発出した提言は71もあり、そのうち6割の提言がこの半年間に集中しています。これはこの3年間の各分科会や委員会の議論を提言としてまとめようという、会員や連携会員の皆さんの熱意の表れであると同時に、日本学術会議の役割、とりわけ政府や社会へ向けて科学者として責任を果たそうという強い意志の反映であると思います。まずは、これらの提言がどのような効果を生み出し、国の政策や社会の発展に貢献したか、する見込みがあるか、を検証し、現状を踏まえてさらなる議論を継続しなければなりません。なかでも、声明「軍事的安全保障研究に関する声明」と提言「我が国の医学・医療領域におけるゲノム編集技術のあり方」は喫緊の課題と考えています。

戦後70年、世界の情勢は驚くほど変貌を遂げました。第二次世界大戦に至る数々の戦争を経て、日本は新しい憲法によって生れ変わり、政治体制も国際関係も一新しました。その後、急速な高度成長期を経て経済大国となり、バブル期を体験して安定した成熟期が到来しました。しかし、東西冷戦の終結後の世界情勢は、それまでの予想に反して、複雑で解決の難しい数々の問題を抱えるようになりました。地球環境の悪化、民族間や宗教間の対立の激化と難民の増加、軍拡競争と保護主義による国際的緊張の高まり、地球規模の大災害や治癒のめどが立たない疾病の増加、国を超えた企業の活動と資源獲得競争の増加、金融危機と経済の破たんによる社会的格差の増大。こういった劇的で急激な変化の中で、多くの人々は将来の目標を失い、現在の生活に多くの不安を抱えています。急速に機械化、情報化する社会の中で、これまで頼ってきた社会関係が崩壊し、孤独感を抱えて生きる人々が急増しています。理想的な社会とは何か、人間の幸福とは何かを、根本的に考え直す時代にさしかかっているのではないでしょうか。

この激動期のなかで、日本学術会議が果たすべき役割とは何か、時代の趨勢を見極めつつ正しい道を選択していかねばなりません。それにはまず、社会の人々との対話に加え、国内の科学者コミュニティとこれまで以上に活発な対話を通じて、密接な連携を構築していかねばなりません。その上で、数々の国際会議を通じて世界の科学者との連携を図り、国を超えて人々の調和ある共存と社会の発展を目指すべく科学の役割を強化していかねばなりません。日本学術会議は3部構成ですべての学問領域を網羅し、世界のどの学術団体とも対話できる体制を保持していると同時に、学際的、総合的な討論を推進していける立場にあります。しかし、これまで発出された声明や提言はほとんどが国内向けであり、外国語に翻訳されて発信されていない状況にあります。人手や資金の不足、会員が非常勤であるという問題もありますが、われわれの活動を多様な言語で世界に発信し、日本が世界の学術をリードするという気概を持って臨みたいと思います。

世界や社会の情勢が急速に動く中、山積する課題に迅速に対応しつつ、しかし科学の持つ普遍性と高潔な理想を揺るがすことなく、日本の科学の推進と貢献に努めていく所存です。会員と連携会員のみなさまの積極的なご参加とご活躍を切望いたしますとともに、社会から大きな期待と関心をお寄せいただきますようお願いして、私のあいさつといたします。

2017年10月 第24期日本学術会議会長 山極 壽一

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