学術フォーラム「国際基礎科学年~持続可能な世界のために」登壇者プロフィール

田中 啓二 氏 「基礎研究余話:「役に立たない研究」と「役に立つ研究」」
田中 啓二(日本学術会議連携会員 公益財団法人東京都医学総合研究所理事長)

[経歴] 徳島大学大学院博士課程中退後(1976年)、徳島大学助手、助教授を経て、1996年、東京都医学総合研究所(旧臨床研)部長。2002年からは同研究所の副所長、所長代行、所長を経て、2018年から理事長。
[メッセージ] 私はプロテアソーム(蛋白質分解酵素複合体)の解明を企図した生命科学領域の基礎研究者である。近年、蛋白質恒常性の破綻が癌や神経変性疾患の発症に深く関与していることが判明、本酵素は次世代創薬の象徴になっている。「役に立たない研究」を標榜してきた研究が「役に立つ研究」に変貌しつつあり、戸惑いを禁じ得ない。

藤田 誠 氏 「持続的社会と科学リテラシー」
藤田 誠(東京大学大学院工学系研究科 卓越教授)

[経歴] 1987年工学博士。2002年より現職(教授)、2019年より現職・卓越教授(称号授与)。ウルフ賞化学部門(2018年)、恩賜賞・日本学士院賞(2019年)。
[メッセージ] 原子や分子の世界における「自己組織化」という現象を長年研究してきました。この現象は、宇宙、経済、人間社会、ビジネスの世界にもみられ、無数の事象が複雑に影響を及ぼし合うことで、そこには秩序が生まれ、やがて恒常性や持続性の獲得につながります。地球という生命体は46億年の年月をかけ、恒常性と持続性を獲得した奇跡の星です。長年の自己組織化研究をもとに、(ポピュリズムではなく)科学リテラシーにもとづいた「持続的社会」の再考察を議論します。

長我部信行 氏 「基礎科学とイノベーション」
長我部 信行(株式会社日立製作所 コネクティブインダストリーズ事業統括本部)

[経歴] 1980年から21年間、企業研究所にて電子波干渉の基礎物理と材料・デバイス計測研究に従事。その後2つの企業内研究所にて11年間所長を経験、2014年から事業部門で事業経営、事業戦略を担当、現在に至る。
[メッセージ] 国連が本年を国際基礎科学年と宣言した事は、大変時宜を得ていると思います。持続的発展のために私たちが達成しなければならないハードルは高く、画期的なブレークスルーとそれを社会実装する知恵が必要となります。基礎科学の振興はその鍵を握っています。

長井 志江 氏 「人工知能が拓くインクルーシブ社会」
長井 志江(東京大学ニューロインテリジェンス国際研究機構)

[経歴] 2004年大阪大学より博士(工学)取得。ビーレフェルト大学ポスドク研究員、大阪大学特任准教授、情報通信研究機構主任研究員などを経て、2019年より現職。計算論的アプローチから人の知能の原理を探る、認知発達ロボティクス研究に従事。
[メッセージ] 人の知能はいかにして獲得されるのでしょうか。人工知能は人の知能を真似るだけではなく、知能の発達原理を解き明かし、さらにそれを支援する可能性を秘めています。本講演では、発達障害などの神経多様性を個性として生かす、インクルーシブな社会の実現に向けた取り組みを紹介します。

一ノ瀬 正樹 氏 「科学技術をめぐる事実と規範-推進と抑制のゆらぎ-」
一ノ瀬 正樹(日本学術会議連携会員・東京大学名誉教授・武蔵野大学教授)

[経歴] 東京大学名誉教授、武蔵野大学教授。英国オックスフォード大学名誉フェロウ。日本哲学会会長。東京大学大学院博士課程修了。博士(文学)。哲学専攻。著書として『死の所有』(東大出版会)、論文として'Normativity, probability, and meta-vagueness' (Synthese 194:10)などがある。
[メッセージ] 科学技術は錯綜した受けとめられ方をする。私たちは一方で、科学の発展を喜び、その恩恵を受け、利便性や健康長寿を享受する。しかし他方で、「自然」を高く位置づけ、科学技術の危険性に注目し、技術の発展を抑制したりもする。このゆらぎの実相を解明し、基礎科学や科学技術の意義を確認してみたい。

渋澤 健 氏 「基礎科学と新しい資本主義」
渋澤 健(シブサワ・アンド・カンパニー 代表取締役):総合討論コメンテーター

[経歴] 父の仕事の関係で1969年に渡米、1983年テキサス大学化学工学卒。1987年UCLA大学大学院でMBAを獲得。複数の外資系金融機関に勤め、2001年にシブサワ・アンド・カンパニー株式会社を創業、2008年にコモンズ投信株式会社を創業。経済同友会幹事、「新しい資本主義実現会議」など政府委員会の委員、東京大学総長室アドバイザー、成蹊大学客員教授、等。
[メッセージ] 学術会議のフォーラムでコメンテーターを務める等、数か月前には夢にも思っていない展開が色々と相次いでいますが、還暦後のリセット気分で非連続性を楽しみたいです。

青木 玲子 氏 コメント 「経済学の視点から」
青木 玲子(公正取引委員会、オークランド大学、学術会議連携会員)

[経歴] 東京大学理学部数学科卒業、スタンフォード大学, Ph.D.(経済)、アメリカ、ニュージーランド、日本の大学で教員を務め、九州大学理事・副学長を経て、2016年から現職。総合科学技術会議非常勤議員(2009~2014)。 専門は産業組織論(イノベーション、知財)。
[メッセージ] 社会・経済は基礎知識や財の蓄積と蓄積の活用(消費)のサイクルです。経済学は有限資源の最適な使いかたを考えるフレームワークです。最適な蓄積と消費は?誰が何を消費するのが最適?考える時間や空間によって最適の定義が変わってきます。最適とは?地球人が全員、いつまでも満足できる最適は存在するのでしょうか?パネリストの示唆に期待しています。

駒井 章治 氏 「自省と対話--相互理解のために--」
駒井 章治(東京国際工科専門職大学工科学部、国際高等研究所)

[経歴] 日本学術会議若手アカデミー委員会委員長やGlobal Young AcademyのExecutive Committee委員を歴任。科学者全員が活躍できるチャンスのある社会を目指す。専門は認知行動神経科学。
[メッセージ] 基礎科学を行う傍ら、社会の様々なコミュニティーの中で興味の対象である「人」とる行動に参加、介入を行ってきた。自らの「無知」をお互いにどのように補い、振舞うことで互恵的、利他的に振舞うことができるのかについての実践から得られたいくつかの知見について紹介し、お話しできればと思う。

原 有穂 氏 「COP26で気付いた気候危機の根本的な問題点」
原 有穂(Friday for future Japan)

[経歴] 2004年生まれ。山手学院高校3年生。気候危機の深刻さを知り、昨年6月にFFFYokosukaに参加。建設中の横須賀石炭火力発電所の撤退と、責任ある気候変動対策を求めている。昨年11月、FFFJapanとしてCOP26に参加。
[メッセージ] 気候危機にはタイムリミットがあります。今後数世紀をも左右し得る選択を今の世代が背負っているのです。昨年COP26に日本のFFFとして参加した私は世界中の同世代と出会い、気候変動問題の新たな一面に気が付きました。そして私はそれがこの問題の本質だと思うのです。

北島 薫 氏 「生物多様性と人:里山、奥山、そして地球」
北島 薫(日本学術会議第二部会員・京都大学農学研究科教授)

[経歴] 東京大学理学部生物学科卒業後、中南米を中心に熱帯林の生態学を研究し、イリノイ大学にてPhD取得したのち、フロリダ大学助教・准教授・教授、京都大学教授として研究教育に従事する。熱帯林を中心に、森林の持続性や生態系機能を研究する。
[メッセージ] ヒトという生物種は、様々な生物のもたらす自然の恵みなしでは存続できません。生物多様性に富む熱帯林の生物種の共存の仕組みも、里山や奥山の両者を地球規模で持続させないといけない、ということの基礎科学的な裏付けになると考えます。

小林 佳世子 氏 「共感からみたヒトという生き物の謎と社会の仕組み」
小林 佳世子(南山大学経済学部)

[経歴] 東京大学大学院経済学研究科理論経済学専攻博士課程単位取得満期退学。南山大学経済学部専任講師を経て、准教授(現在に至る)。著書に『最後通牒ゲームの謎:進化心理学からみた行動ゲーム理論入門』(日本評論社:単著)(第64回(2021年度)日経・経済図書文化賞受賞)。
[メッセージ] ヒトの意思決定の特徴と、それを前提とした制度設計に興味を持っています。「社会的動物」として、進化の視点からみた意思決定の性質を深く理解する必要性を強く感じるようになりました。そのためには、文理の枠を超えた学問の協力が必要だと考えています。