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クォークマター2015:第25回相対論的原子核衝突国際会議 開催結果報告
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文)クォークマター2015: 第25回相対論的原子核衝突国際会議
         (英文)Quark Matter 2015: 25th International Conference on Ultra-relativistic Nucleus-Nucleus Collisions (略称:QM2015)
(2)報 告 者 :第25回相対論的原子核衝突国際会議組織委員会委員長 浜垣秀樹二
(3)主   催 :日本物理学会、日本学術会議
(4)開催期間 :平成27年9月27日(日)~ 10月3日(土)
(5)開催場所 :神戸ファッションマート(兵庫県神戸市)
(6)参加状況 :33ヵ国/1地域,699人(国外590人、国内109人)

2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:
クォークマター国際会議は、当該物理研究分野において最も権威のある国際会議である。1980年の第1回会議からこれまで、大凡一年半ごとに世界各地で開催されてきたおり、神戸市で開催された本会議で25回目となる。当該分野における日本人研究者の寄与は、理論・実験両面において非常に大きなものがあり、国際的に高い評価を得て来た。日本は、1997年に当会議を主催した経験を持つが、二回目を考える時期であるという気運が国内外から高まって来たことを受け、2010年頃から具体化に向けての活動を開始した。その結果、2012年夏に米国ワシントンDCで開催された第23回会議中に行われた国際諮問委員会において、2015年秋の日本開催が決まった。
(2) 会議開催の意義・成果:
当初の予想(30カ国)を上回る、世界33カ国/1地域から700名近くの研究者が一堂に会し、当該分野における最新の話題を披露し合い、忌憚なく意見を述べ合う場として、参加者から高い評判を得た。我が国及び世界の原子核物理学の発展、特に高温・高密度極限条件下における強い相互作用物質系の研究、原始宇宙における物質存在形態についての知見を深めることに多大な寄与があった。また、本国際会議の日本開催は、国際交流の促進、国内における本研究分野の更なる発展、若手研究者育成をはじめとして、近年当該研究分野において急速な発展を遂げているアジア諸国との研究者交流を一層進める契機となった。
(3) 当会議における主な議題(テーマ):
「クォーク・グルーオン・プラズマの微視的性質とその強結合性の解明」を主な議題とし、以下のテーマに関する研究討論が行われた:有限温度と有限密度におけるQCD、QCD相図、前平衡状態と衝突初期の物理、巨視的集団的な動的振る舞い、ハドロンの熱力学、化学、粒子相関と揺らぎ、ジェット、重いクォークとその結合状態の生成過程、電弱相互作用するプローブ、新しい理論的な発展、将来計画・装置の更新。
(4) 当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
クォーク・グルーオン・プラズマの微視的性質とその強結合性の解明をめざす最新の研究成果が報告された。とりわけ、原子核衝突によるクォーク・グルーオン・プラズマ状態生成の条件の中で、系の大きさが果たす役割について集中的な議論が行われた。日本人研究者は、CERNの大型国際共同研究ALICE実験の総括的報告、電磁プローブを用いた実験のレビュー、中性子星の物理の理論的レビュー等を担当し、本会議の主要テーマの深化に大きく貢献した。
(5) 次回会議への動き:
次回のクォークマター国際会議は、2017年2月米国シカゴで開催される予定である。シカゴでは、当会議の流れを引き継いで、同様な主要題目が取り上げられており、それぞれのテーマについての最新の研究成果が報告され、強い相互作用物質系の性質、原始宇宙における物質存在形態についての総合的な理解がより深まるものと期待される。また、今後の研究の方向性と絡んで、新しい研究施設や測定器の計画についても議論される予定である。
(6) 当会議開催中の模様:

会議日程午 前午 後
 9月27日(日) 若手スクール 若手スクール、市民公開講座(夕方)参加登録開始 レセプション
 9月28日(月) 開会式(開会宣言)、プレナリー,パラレル パラレル
 9月29日(火) パラレル パラレル、ポスター 余興(雅楽公演)
 9月30日(水) パラレル エクスカーション、国際諮問委員会
 10月1日(木) プレナリー プレナリー
 10月2日(金) プレナリー プレナリー バンケット
 10月3日(土) プレナリー、ポスター賞講演、Zimanyi賞授賞式、エルゼビア若手賞授与式、閉会式
9月27日(日)は終日若手スクールが行われ、6名の講師が、学生及び若手研究者向けの講義を行い、約300名が参加した。夕方には、参加登録が開始され、夜はレセプションが行われた。
9月28日からの本会議の主構成として、会議前半にパラレルセッションを置き、先ず個別の研究成果を報告し、後半にプレナリーセッションを配置して総合的な理解を深めることを企画した。この方式は、前回のクォークマター2014(ダルムシュタット)において初めて試みられたものであるが、比較的好評であったため、当会議においても採用した。
28日(月)は、神戸ファッションマート・アトリウムプラザにおいて、9時からオープニングセッションが行われた。浜垣(会議議長)の開会の辞に続き、藤井保彦氏(日本物理学会会長)、井野瀬久美恵氏(日本学術会議副会長;代読)、久元喜造氏(神戸市長)、大塚孝治氏(東大・原子核科学センター長)、延與秀人氏(理研・仁科センター長)から挨拶があり、最後に安倍晋三総理大臣からの祝辞が披露された。このあと、Goldon Baym氏の総合講演で、本会議の物理セッションがスタートした。続いて、5つの主要実験グループからの最新結果のまとめの後、コーヒーブレイクに入った。その後は、会場を9Fに移して、4会場を用いたパラレルセッションが開始された。クォークマター国際会議の慣わしの一つに、昼食は(出来るだけ)皆が集うというものがある。本会議では、会議場に隣接する神戸ベイシェラトンホテルで昼食を準備し、そこでも個別の討論が引き続き行われた。
29日(火)は、夕方までパラレルセッションの後、2会場でポスターセッションが行われた。ポスターセッション時には、軽食などを用意し、和気藹々とした雰囲気で物理の議論が出来るように配慮した。夜7時からは、ソーシャルイベントとして雅楽公演が多数の参加者のもとで好評裡に行われた。
30日(水)の午前中はパラレルセッションが行われた。午後のエクスカーションは、主催者側が、ハイキング、京都ツアー、姫路ツアー、奈良ツアーを準備し、いずれも好評であった。
10月1日(木)、2日(金)は、終日プレナリーセッションが行われた。2日の最終セッションでは、当該分野の中心課題の一つである「小さな系」についての集中的な議論がなされた。セッション終了後は、ANAクラウンプラザホテル神戸でバンケットがおこなわれた。
3日(土)は、プレナリーセッションの後、優良ポスターに選ばれた8編に関する講演、Zimanyi賞の授賞式、エルゼビア若手賞の授与式、が行われた。最後に、閉会式がおこなわれ、次回の会議開催地(シカゴ、2017年2月)が紹介され、彼の地での再会を約して、閉会が宣言された。
(7) その他特筆すべき事項:
クォークマター国際会議の開催地は、通常、前々回の会議中に開催される国際諮問委員会において議論され、決定される。本会議は、当該分野の主要会議であるため、毎回、複数の国が開催地に立候補し、それぞれのプレゼンテーションと質疑応答の後、投票により決定される。日本は2011年のアネシー(仏)と2014年のダルムシュタット(ドイツ)で開催された国際諮問委員会で日本での開催を表明し、アネシーでの立候補で多くの国際諮問委員が好意的に受け止めてくれたことが幸いし、その後の招致活動がスムースに進行し、ダルムシュタットで開催が認められた。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:平成27年9月27日(日)13時30分~16時30分
(2)開催場所:神戸ファッションマート・アトリウムプラザ(兵庫県神戸市)
(3)主なテーマ:主テーマ「素粒子原子核の極微の世界から宇宙と社会へ」、副題:「重力とは何か」(講師:大栗博司氏 カリフォルニア工科大学教授)、「「知ろうとすること。」を続ける」(講師:早野龍五氏 東京大学教授)
(4)参加者数、参加者の構成:総数は約300名。そのうち、中高生が約半数、大学生・院生が50名ほどであった。
(5)開催の意義:素粒子原子核研究において世界的に活躍している大栗博司氏と早野龍五氏の二人を講師に迎え、宇宙を理解する上で基本的な力である重力について、および、研究者の専門性を活かした社会との関わりについて講演頂いた。宇宙の仕組みの研究から現実社会における課題まで、研究者がどのように関わっていこうとしているかの好例を市民の皆さんに紹介する機会となった。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
テーマ設定に工夫を凝らした成果として、幅広い年齢層から多くの人たちの参加を得た。直接的な利益や即効性は期待できない理学研究であるが、それが持つ人間の本性に基づく本来的な楽しさとともに、理学の方法論が持つ実社会における有効性について理解を深める機会となったと思われる。準備段階では、理学に興味を持つ関西地区の中高生の多くに公開講座開催の情報を伝えるべく配慮した。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
日本学術会議との共同主催の最も大きな意義は、原子核科学において近年最も大きな成果を生み出してきた当該分野の主要な国際会議を、それに相応しい立ち位置を確保出来たことである。このことは、一つには、国内外の当該分野の研究者の、日本国と会議主催者への信頼感を増すことに大いに寄与した。さらに、当該研究を支えてきた国内外の多くの研究機関からの信頼感となり、結果として、多くの有形無形の補助が得られることになった。
クォークマター2015国際会議は、内容・運営ともに高いレベルの会議に出来たと自負しているが、幸い、会議参加者の多くからも非常に高い評価を得ている。これは、何につけ批判精神旺盛な物理学の研究者にしては稀有な事と言える。今回、初めて日本を訪れた外国人研究者もあったが、その多くが日本に好印象を持つことになったのも嬉しい限りである。当該分野は、本来的に国際的な研究分野であるが、本国際会議の成功は、日本人研究者にとって、主体的に研究を推進していく上での大きな自信ともなった。

クォークマター2015写真




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