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第25回ニュートリノ・宇宙物理国際会議開催結果報告
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文)第25回ニュートリノ・宇宙物理国際会議
         (英文)The ⅩⅩⅤ International Conference on Neutrino Physics and Astrophysics (Neutrino2012)
(2)報告者 : 第25回ニュートリノ・宇宙物理国際会議 組織員会委員長 中家 剛
(2)主   催 : 日本物理学会、日本学術会議
(3)開催期間 : 平成24年6月3日(日)~ 6月9日(土)
(4)開催場所 : 京都府民総合交流プラザ 京都テルサ (京都府京都市)
(5)参加状況 : 32ヵ国/地域・612人(国外422人、国内190人)


2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:ニュートリノ・宇宙物理国際会議は、国際ニュートリノ委員会(Internation Neutrino Commission: INC)が2年ごとに開催する会議であり、1972年の第1回から当会議で25回を迎える、素粒子ニュートリノに関連する研究の分野で最も権威のある国際会議である。我が国のニュートリノ研究は、2002年にノーベル物理学賞を受賞された小柴昌俊先生が開拓したニュートリノ天文学、2007年ベンジャミン・フランクリンメダルおよび2004年文化勲章を受けた故戸塚洋二先生が発見したニュートリノ質量、日本学士院賞を受賞された鈴木厚人先生の反ニュートリノ研究と、世界最高レベルにある。また、今後のニュートリノ研究は、2008年に小林誠先生・益川敏英先生がクォークで予言した粒子反粒子対称性の破れを、ニュートリノで探求することが大きな目標となっている。このように、ニュートリノ物理学においては日本が世界最高水準の研究レベルをもっており、今後も日本が世界における素粒子物理学を含む基礎物理学の発展に大きく寄与することが期待されている。このような情勢を受け、2008年5月に開催されたINC会議において、第25回ニュートリノ・宇宙物理国際会議を2012年6月に京都で開催されることが決定された。日本での開催は、スーパーカミオカンデ実験グループによってニュートリノ質量の証拠が発表された第18回会議以来14年ぶり3回目である。
(2) 会議開催の意義・成果:ニュートリノ物理学は、素粒子物理学の最重要分野の一つであり、ニュートリノを通して物質の根源とそこに働く力を探求する学問である。またニュートリノは宇宙物理とも密接に関係しており、なぜ我々の宇宙が創生されたかを調べる上でも重要な研究対象となる。世界のトップレベルの研究者が一堂に会し、最新の研究成果について討論や発表が行われ、ニュートリノ物理学の発展とその応用展開を図ることが本会議の意義である。 また、会期中を通じて、新聞やテレビ等のマスコミにおいて本会議の内容が多数報道されたことにより、国民の自然科学、基礎科学に対する関心と興味を広く喚起し、基礎科学にかかわる知識の普及に貢献することができた。
(3) 当会議における主な議題(テーマ):第25回ニュートリノ・宇宙物理国際会議では、「ニュートリノ振動の究明、ニュートリノ質量の研究、ニュートリノと宇宙物理の新たな展開」をメインテーマに、ニュートリノ振動と質量の研究を中心としたニュートリノの性質の探求、およびニュートリノを利用した宇宙物理の最新の結果について発表および討論が行われた。
(4) 当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:ニュートリノ研究の分野では、過去10年余りにわたってニュートリノ振動の研究が最大のテーマの一つとなっている。当会議では、最後まで未測定で残っていた第1世代と第3世代の間の混合角の測定結果が報告され、比較的大きな値であるということが確実となった。これにより、将来のニュートリノ振動実験においてニュートリノの粒子反粒子の対称性の破れを探索できる可能性が拓けたことは、今後のニュートリノ研究の道筋を定めるものとして、当会議の最も重要な成果である。この結果には、日本で行われている大強度陽子加速器J-PARCとスーパーカミオカンデ測定器を使った長基線ニュートリノ振動実験T2Kによる電子ニュートリノ出現の発見や、日本人研究者グループが海外で活躍しているフランスCHOOZ原子炉でのDouble-Chooz実験による原子炉反ニュートリノ消失の兆候が大きな役割を果たした。特に、東日本大震災による被害を乗り越えてJ-PARC加速器とT2K実験が復旧を果たしたことが報告されると、満員の会場から惜しみない拍手が送られた。また、スーパーカミオカンデによる大気ニュートリノや太陽ニュートリノの観測および超新星ニュートリノの探索、東北大学を中心とするカムランド実験からのニュートリノを伴わない2重β崩壊の探索、神岡実験施設での宇宙暗黒物質の探索など、その他の日本で行われている実験からの結果や、CERN(欧州素粒子原子核研究所)でのOPERA実験からのタウニュートリノへの振動の直接探索、南極IceCube実験による超高エネルギーニュートリノ事象の発見など、日本人研究者が海外で行っている実験からの成果も発表され、ニュートリノ研究を日本がリードしている現状を印象づけた。
さらに、2011年9月の発表以来世界中で大きな話題となっていたニュートリノ速度の測定に関して、2012年5月にCERNとイタリア・グランサッソ研究所の間で行われた追試験の結果が本会議において世界で初めて明らかにされ、当初の測定には測定装置の不具合が含まれていたこと、不具合を修正した測定ではニュートリノの速度は光速と一致することが最終的な結果として報告された。これにより、ニュートリノの速度についての一連の騒動は本会議において決着を見た。
(5) 次回会議への動き:2008年のINC会議において、次回(2014年)の第26回大会はアメリカ合衆国ボストンで開催されることが決定している。当会議の成果をふまえて、ニュートリノ振動研究の新たな展開や、ニュートリノを伴わない2重β崩壊のさらなる探求、ニュートリノによる宇宙物理研究の進展などが報告・議論される見込みである。
(6) 当会議開催中の模様:当会議の成果への期待を反映して、過去の記録(2004年パリ開催の540名)を大きく上回る600人超の事前登録者があった。9月3日午後には会議に先がけて小柴昌俊東京大学特別栄誉教授による市民公開講座が行われ、盛況であった。その夕刻から続々と会議の参加者が集まり、会議受付に伴って行われたウェルカムドリンクでは会場が満杯となり外で歓談しながら京都の空気を楽しむ参加者の様子が見られた。翌4日の午前冒頭の開会式では会場が満員となり、コーヒーブレークの間に急遽座席を増設する措置をとらざるをえないほどであった。開会式に続いては、ニュートリノが2種類以上あることをちょうど50年前に実験的に発見し、ノーベル物理学賞を受賞したCERNのJack Steinberger博士によるニュートリノ物理草創期からの歴史的な発展に関する講演と、同じくノーベル物理学賞受賞者の小林誠KEK名誉教授により、これもちょうど50年前にニュートリノ振動に関する理論的な論文を発表しニュートリノ混合行列に名を残す、名古屋大(当時)の牧二郎、中川昌美、坂田昌一博士らの業績に関する講演があった。その後、ニュートリノ振動に関する原子炉実験や加速器実験からの最新結果が公表され、会議は大きな盛り上がりを見せた。当会議は伝統的にプレナリーセッションが基本であるが、若手の参加と活躍を促すために近年はポスターセッションを行っており、今回の会議ではこれも過去最高となる262件のポスター発表があり、連日ポスターを前に熱い議論を交わす参加者の姿が見られた。6日に行われたバンケットは、太秦映画村を貸し切りにして行うというスタイルで行われ、アトラクションも多彩で、日本流の「おもてなし」の心を感じたと国外からの参加者にたいへん好評であった。9日の閉会までに64の講演があり、会期中を通じて活発な発表や討論や行われ、非常に成功した会議となった。
(7) その他特筆すべき事項:当会議は、米国との招致競争に打ち勝って開催が認められた経緯がある。日本での開催にあたっては、まず日本人が行っている研究が世界をリードしているという内容面での牽引力に加えて、日本流の「おもてなし」の心を持って、国内の研究者がほぼ総力を挙げて準備にあたった。また、学生や発展途上国の研究者には旅費のサポートを支給し、なるべく参加しやすくなるよう配慮を行った。結果として、海外の研究者を多数引きつけることに成功し、史上最多の参加者を集めることができた。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:2012年6月3日(日) 14:30-16:00
(2)開催場所:京都府民総合交流プラザ 京都テルサ テルサホール
(3)主なテーマ、サブテーマ:「ニュートリノと宇宙」(講演タイトル「宇宙、人間、素粒子」)
(4)参加者数、参加者の構成:261名(一般市民140名、学生80名、学会員41名)
(5)開催の意義: ニュートリノ・素粒子研究の分野で世界の第一人者である小柴先生自ら、ニュートリノ研究の歴史とその意義について一般向けにわかりやすく講演していただくことで、一般の方々のこの分野に対する理解を高める。
(6)社会に対する還元効果とその成果:ニュートリノ研究の世界的な権威であり、ノーベル物理学賞受賞者の小柴先生自らに講演してもらうことで、日本人科学者のもたらした成果について、社会に還元し、科学に関する一般社会の興味を大いに高める効果があったと考えられる。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
 市民公開講座においては園田内閣府大臣政務官のご挨拶を賜り、さらに開会式において、日本学術会議春日文子副会長よりご挨拶を賜るとともに内閣総理大臣のメッセージを頂くことができた。このことにより、日本政府および日本の科学者が、ニュートリノ研究をはじめとする基礎科学研究に大きな関心を寄せているということが、参加者に強く印象付けられた。また、会議運営においても、日本学術会議との共同主催であることはあらゆる面において有利に働き、多くの団体、個人からの援助を得ることができた。

(市民公開講座冒頭、主催者挨拶を行う中家剛組織委員長) (市民公開講座冒頭、挨拶を行う園田内閣府大臣政務官)
※参考 市民公開講座において、小柴昌俊東京大学特別栄誉教授が「宇宙、人間、素粒子」をテーマに御講演

(開会式で主催者挨拶をする春日文子日本学術会議副会長) (開会式での様子)
(会場の様子) (Jack Steinberger博士(1988年ノーベル物理学賞受賞)によるオープニングトーク) (一般セッション風景) (ポスターセッション風景)

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