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第23回国際霊長類学会大会
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文) 第23回国際霊長類学会大会
         (英文) International Primatological Society 23rd Congress (IPS2010)
(2)報 告 者 : 第23回国際霊長類学会大会運営委員長 山極 壽一
(3)主   催 : 日本霊長類学会、日本学術会議
(4)開催期間 : 2010年9月12日(日)~9月18日(土)
(5)開催場所 : 京都大学百周年時計台記念館、および周辺教室(京都府京都市)
(6)参加状況 : 55ヵ国/2地域・1,026人(国外778人、国内248人)

2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:
 第23回国際霊長類学会大会は、国際霊長類学会(International Primatological Society: IPS)が2年ごとに開催する会議であり、1966年の第1回から当会議で23回を迎える霊長類学分野で最も権威のある国際会議である。2006年6月に開催された第21回国際霊長類学会大会(IPS2006)の総会において、第23回国際霊長類学会大会を2010年9月に日本で開催することが決定された。これを受け、日本霊長類学会は、日本開催準備のために、第23回国際霊長類学会大会組織委員会を2007年に設置し、開催の準備を進めることとなった。日本での開催は、第13回以来、20年振り、3回目の開催である。
(2)会議開催の意義:
  霊長類学は、私たちヒトが含まれる分類群である霊長類を対象として、その社会、生態、認知、生理、遺伝、形態、保全などを多面的に研究する学問である。特に現在では、動物行動学や動物生態学などの関連する生物学分野のみならず、心理学、社会学、文化人類学、生態人類学、考古学などを包含した人文科学系の学問分野とも相互に関係しながら研究が遂行されている。近年は、比較認知科学、社会生態学、文化霊長類学、ゲノム科学といった新しい学問分野が著しい発展を遂げている。また、我が国では、世界最先端の共同利用研究施設として、京都大学霊長類研究所が設置されている。霊長類学は、人間についての生物学的理解における重要な分野であり、我が国の研究はその初期から常に先導的役割を果たしてきた。また、多くの霊長類は熱帯地方に生息しているため、急速に失われつつあるアフリカ、東南アジア、南米の熱帯雨林における生物多様性の保全についても密接な関連を持ち、霊長類学は周辺分野と協力してその保全にも力を入れてきた。この度の日本開催では、世界のトップレベルの研究者が一堂に会し、最新の研究成果について討論や発表が行われ、霊長類学の発展とその応用展開を図ることを目的として行われた。
(3)当会議における主な議題(テーマ):
 この度の第23回国際霊長類学会大会では、「霊長類とヒトの共存」をメインテーマに、社会性の進化、社会生態学、文化霊長類学、保全生態学、認知心理学、ゲノム進化学、形態学、生理学等を主要題目として、研究発表と活発な討論が展開された。
(4)当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
 この会議を日本の霊長類学者が企画運営して日本で開催することは、我が国がこれまでに霊長類学において先導的役割を果たしてきたことを全世界の研究者に改めて大きくアピールし、我が国のこの分野の科学者に世界の多くの科学者と直接交流する機会を与えることとなり、我が国の霊長類学に関する研究を一層発展させる契機となった。また、市民公開講座を行うことにより、日本人科学者のもたらした成果について、社会に還元し、科学に関する一般社会の興味を大いに高めることとなった。
(5)次回会議への動き:
  2008年に英国エジンバラで開催された第22回国際霊長類学会大会で、次回(2012年)の第24回大会はメキシコのヴェラクルスで開催されることが決定した。今回の京都大会でその準備状況がメキシコ霊長類学会実行委員会より報告されたが、「霊長類学の遺産と未来の挑戦」を共通テーマにすることになっている。これは、今回霊長類学発祥の地日本でこれまでの霊長類学の歴史を振り返り、霊長類とヒトの共存をテーマに多くの議論が交わされたことを踏まえ、その学問的蓄積を活用し今後の霊長類学の方向を定めることに主眼が置かれている。
(6)当会議開催中の模様:
 9月12日13時から登録受付が始まったが、レセプションが始まる17時が近づくに従って徐々に参加者が集まり、サプライズ企画として行われた雅楽の2度にわたる演奏でその盛り上がりはピークを迎えた。翌13日午前冒頭の開会式から17日夕刻のIPS総会までの間に、プレナリー・レクチャー7題、シンポジウム57件403題、ワークショップ12件、口頭発表302題、ポスター発表135題の研究発表に加えて、学生懇話会が行われた。学生懇話会とは、ふだん世界の最先端で活躍している霊長類学者と面識のない学生や若い研究たちとの交流の場を作り、将来の研究分野や研究対象を選び、共同研究や活動の場を得るために活用してもらうことを目的とした大学院生企画のワークショップで、5つの学問分野に分かれて円卓会議の形式で活発なグループ・ディスカッションが行われた。これは、当会議を大学内で開催した利点であり、国際会議場と違って生協など気安く低料金で利用出来る施設が構内にあることに加えて、多くの学生に霊長類学の最先端の成果をアピールでき、研究者になる上での具体的な道筋を示した上で大きな意義があったと考えている。17日夜に催された約400名が参加したバンケットは、外国人にとっては慣れない座敷にて会席料理が供されたが、予想に反して大きな混乱がなかっただけでなく、出し物の声明のおかげもあって大変好評のうちに幕を閉じた。また、18日午後に行われた一般市民向けの公開講座も盛況であった。

(開会式での挨拶 左:山極大会運営委員会委員長、右:唐木日本学術会議副会長)

(7)その他特筆すべき事項:
 当会議は、多くの国で開催をめぐる競争があり、2006年に多くの国との競争の末に京都に開催が決まった経緯がある。その際に発展途上国の研究者が多く参加できるように参加費をなるべく安くし、会場を多くの学生が参加できる大学の施設にするということをキャッチフレーズとした。また、従来はヒト以外の霊長類が生息している国と生息していない国が2年おきに交代で開催する決まりになっていた。しかし、霊長類学が発展している欧米諸国には霊長類が生息せず、結果として発展途上国と先進国に分かれるという事態になっていた。日本は先進国中唯一生息国に分類されており、今回日本で開催されることをきっかけにしてこの基準を見直すことになった。その結果、次回はメキシコ、次々回はベトナムで開催されることが決定された。日本の主張が通った結果であり、多くの霊長類が絶滅の危機に瀕している生息国で会議を開催する意義が認められたものと考えている。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:2010年9月18日(土)13:30~17:30
(2)開催場所:京都大学百周年時計台記念館百周年記念ホール
(3)主なテーマと講演演題:暴力の起源とその解決法
(4)参加者数、参加者の構成:約200名(一般市民120名、学生50名、学会員30名)
(5)開催の意義:
 暴力という現代社会の直面する困難な課題を、その起源にさかのぼって霊長類学と文化人類学の立場からとらえ、キリスト教と仏教の宗教の立場ともあわせてその解決法を探るという、世界でも京都でしかできない内容のシンポジウムであり、その国際的、学際的意義は大きいと考えている。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
 日本霊長類学会はこのような分野横断型の公開シンポジウムをこれまでも企画し、人間の攻撃性や平和への希求を人間以前の段階から進化史的に読み解こうと試みてきた。今回の公開講座ではこれらの成果を踏まえ、当会議に合わせて国際的な討論を企画することとなった。まず長年人間の暴力性の起源について研究してきたアメリカの霊長類研究者に基調講演していただき、続いて現代の人間社会において生じている暴力について、人類学者や宗教学者の方にパネリストとして意見を聞いた。さらに、人間のみに留まらず人間以外の霊長類も含んだより広い立場から、暴力の起源について考察するとともに、現代の人間が抱えている暴力に関わる問題の有効な解決法について議論した。幸い新聞各紙に取り上げられ、他の多くのイベントが開催されている時期にしては多くの市民や学生の方々にご参加いただき、こうした議論の過程そのものとその成果を、広く一般の方々に知っていただこうという当初の目的は達成できた。また同時通訳を用意したことで、総合討論の内容も含め、一般の方々のこの分野に対する理解がより一層進んだと考えられる。

(基調講演するランガム・ハーバード大学教授)

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
 開会式において、日本学術会議唐木英明副会長よりご挨拶を賜るとともに、内閣総理大臣のメッセージを頂くことができた。このことにより、日本政府および日本の科学者が、霊長類研究に大きな関心を寄せているということが、参加者に強く印象付けられた。また、会議運営においても、日本学術会議との共同主催であることはあらゆる面において有利に働き、多くの団体、個人からの援助を得ることができた。


       

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