特集 提言「未来の学術振興構想(2023年版)」
日本学術会議では、今後20~30年頃まで先を見通した学術振興の「グランドビジョン」を示すために、新たに提言「未来の学術振興構想(2023年版)」を策定しました。
本提言は、専門的な知見に根差した今後20~30年まで先を見据えた学術振興の「ビジョン」と、その実現のために今後10年程度で実現することが必要な「学術研究構想」から成る「学術の中長期研究戦略」の提案に立脚しています。「学術の中長期研究戦略」の公募に当たっては、科学者コミュニティから自由な発想に基づくボトムアップを重視し、研究・教育機関、学協会、日本学術会議会員・連携会員及び若手研究者から広く提案をいただきました。
本提言において示した19の「グランドビジョン」の策定に当たっては、科学者コミュニティから提案された各「ビジョン」を、単純に束ねるだけではなく、さらに一段階高い分野横断的な視点から検討を加えて、「グランドビジョン」として策定しています。
本ページでは、「未来の学術振興構想」として提言する19の「グランドビジョン」の概要を紹介します。
本提言が、我が国の多様な学術振興の指針となるとともに、学術政策、さらに、関係省庁、大学を始めとする研究教育機関等における具体的施策や予算措置に活かされること期待します。
(科学者委員会学術研究振興分科会委員長 光石 衛)
「未来の学術振興構想(2023年版)」のグランドビジョン一覧
各グランドビジョンの概要
図 現代社会問題解決策提示のメカニズム (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:共同体の疲弊やコミュニケーション障害等に伴い生じている現代社会の諸問題に対して、言語・コミュニケーションに関する人文科学の研究を充実させ、それらの成果を踏まえつつ、社会科学の方法によってデータを因果的に解析することで、原因と結果との関係を明確化し、包括的かつ実効性のある解決策を提示する。人々の共生の必要性を再確認しつつ、「誰一人置き去りにしない」世界の実現を目指す。 キーワード:言語、コミュニケーション、共同体、データ・因果解析 |
グランドビジョン①の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
No. | 学術の中長期研究戦略の名称 |
1 | 先端的言語理論研究拠点 (PDF:487KB) |
2 | 共同体メカニズムの研究 (PDF:262KB) |
3 | 現代日本社会におけるコミュニケーション問題の解消を目指すウェルフェア言語学の構築 (PDF:554KB) |
グランドビジョン②:長い時間軸・大きな空間軸・多様な視点からのヒトと社会の科学
図 融合的・総合的な学術の新たな形 (出典)本小委員会にて作成 |
概要:長い時間軸、大きな空間軸、多様な視点で自然環境、人類、文化、社会を捉える。新たな技術、データ処理基盤、ネットワーク体制を構築・活用し、学術の多分野が連携し、広く社会に開かれた融合的・総合的な学術の新たな形を目指す。 キーワード:人類史、グローバル、共生、共創、デジタル・トランスフォーメーション(DX)、ネットワーク、総合知、持続可能性 |
グランドビジョン②の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン③:日本史学を含めた非西洋史学の再構築と国際協働
図 文系諸学の今後の発展 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:歴史学と日本文化に着目しつつ、グローバルな位置付けを明らかにし、特定国の文化を理解し相対化することで価値・理念の普遍性を見出していく。歴史を語るデータの偏りを意識し、英語・日本語以外の多言語史料も参照し、グローバルな視点からの相対的位置付けを明確化することで、日本の文系諸学をボトムアップする。 キーワード:グローバルヒストリー、歴史学史、日本文化、多言語史料 |
グランドビジョン③の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
No. | 学術の中長期研究戦略の名称 |
16 | 日本文化研究国際化推進構想 (PDF:436KB) |
17 | グローバル・ヒストリーのための非英語史料編纂所の設立 (PDF:509KB) |
グランドビジョン④:地球の生命環境と食料供給を持続させるための学術創生
図 地球の生命環境と食料供給を持続させるための総合的研究とストラテジー構築 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:植物の頑健な成長力や環境可変能力の基盤を集中的に研究し、未利用植物の遺伝的能力にも着目する。微生物、動物、人間活動等も含めて、生命や生態系が持つ潜在能力を総合的に分析する。これらにより、持続可能な地球環境と環境変容に適応した持続可能な食料供給システムのストラテジー構築を目指す。 キーワード:気候変動、サステナビリティ、植物の能力、生命系の統合理解、データサイエンス、脱炭素社会 |
グランドビジョン④の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑤:生命現象の包括的理解による真のWell-beingの創出
図 生命現象の包括的理解による真のWell-beingの創出 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:ヒトと動物のボーダレスな健康維持に向けて、それらの生命現象を網羅的、かつ、包括的に解明し、その成果を保健・医療へと展開する。さらには、ヒトを含めて生物全体が本来の生を営んでいるかを探求するための知の統合により、すべての生物が幸福に生き得る、真のWell-beingの創出を目指す。 キーワード:生命科学、健康、医療、創薬、ワンヘルス、マルチオミクス、デジタルツイン、オープンサイエンス |
グランドビジョン⑤の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑥:ビッグデータ駆動による生命科学の新たな発展
図 ビッグデータ駆動による生命科学リテラシーの促進 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:生命科学に関するビッグデータの収集・保全・分析を推進し、また、新たな知見の創出プロセスを広く公開することで自然や環境の変化に関する教育を促進し、次世代の研究人材を育成していく。そのための研究拠点群形成とそのネットワーク構築に注力し、ビッグデータ駆動による生命科学を発展させる。 キーワード:デジタル保全、AI、統計、生命科学教育、リテラシー |
グランドビジョン⑥の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑦:ヒトの知性を知る、創る、活かすための学術の創生
図 提案されているプロジェクトの俯瞰的構想 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:ヒト及び種々のモデル動物において脳の情報処理の過程を多層的に計測し、データ公開することにより、省エネルギーで高性能の演算性能を発揮する脳の普遍原理を理解する。ヒト特有の知性、精神神経疾患の発現機構、ヒトのこころや文化、言語の本質に迫るため、霊長類やヒト脳における研究を推進する。また、異分野融合により、こころの病等の社会問題の解決につながる研究体制を構築し、さらには脳型人工知能の開発を見据える。 キーワード:脳の動作原理、言語、こころ、精神神経疾患、脳型人工知能 |
グランドビジョン⑦の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑧:超スマート社会における人の能力拡張とAIとの共生
図 超スマート社会における人の能力拡張とAIとの共生 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:加速的な情報技術の進展により、汎用で自律的なAIが社会に浸透し、AIと人が共生する超スマート社会が生まれる。非言語情報を含めた人とAIの相互作用が進み、サイバー・フィジカルが融合し、人の能力拡張が行われ、多様で分野総合的な取組が進行する。 キーワード:多様性、ヒューマンインターフェイス、サイバー・フィジカル、言語資源、非言語情報、コンテンツ、アート、ELSI、アクセシビリティ |
グランドビジョン⑧の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑨:サイバー空間の構築・活用による価値創造
図 サイバー空間の利活用について提案されているプロジェクト構想 (出典)Society5.0科学技術政策(内閣府)を基に本小委員会で作成 |
概要:サイバー空間上に現実の世界を再現することや、仮想世界を構築することで、高度なシミュレーションの実現や人々の生活をより豊かにする新たな技術やシステムの創造を目指す。 キーワード:デジタルツイン、メタバース、シミュレーション、予測モデル、AI、バーチャルリアリティ、セキュリティ |
グランドビジョン⑨の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑩:データ基盤と利活用による学術界の再構築
図 データ基盤とその利活用による学術の発展 (出典)学術の中長期研究戦略「データ基盤から知識基盤へ」を基に本小委員会で作成 |
概要:あらゆる分野のデータを集約するデータ基盤、さらに進化させた知識基盤の整備を進め、同時に利活用し得る人材を育成することでデジタル変革を推し進め、学術界を再構築していく。 キーワード:学術情報基盤、知識基盤、資料保全、データ駆動型研究、オープンサイエンス |
グランドビジョン⑩の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑪:数学・数理科学・量子情報科学が切り拓く未来社会
図 数学・数理科学・量子情報科学が切り拓く未来社会 (出典)内閣府資料を基に本小委員会で作成 |
概要:数学・数理科学、量子情報科学等を基盤とした拠点形成と連携ネットワーク構築により、高い研究レベルを維持し、未来の産業構造と社会変革の基となる研究展開と人材育成の継続的推進を目指す。 キーワード:ネットワーク形成、連携プラットフォーム、国民教育、知の循環、基盤構築 |
グランドビジョン⑪の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑫:観測技術革新による地球システムの理解と地球変動予測への展開
図 観測技術革新による地球システムの理解と地球変動予測への展開概念図 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:革新的な観測技術を駆使し、地球の内部から大気・海洋・磁気圏まで、現在の地球の状態と生起する諸現象や活動を、地球を一つのシステムとして捉えて解明することを目指す。宇宙から海底まで、赤道から極域まで先端的観測を幅広く展開するとともに、数値モデルや地球のデジタルツインを構築し、将来の地球変動予測へとつなげる。 キーワード:地球観測、地球システム変動、気候変動予測 |
グランドビジョン⑫の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑬:地球規模の環境危機にレジリエントな持続的社会の構築
図 持続的社会構築に向けた学術構想の概念図 (出典)Stockholm Resilience Centreの図を基に本小委員会で作成 |
概要:共同体の疲弊やコミュニケーション障害等に伴い生じている現代社会の諸問題に対して、言語・コミュニケーションに関する人文科学の研究を充実させ、それらの成果を踏まえつつ、社会科学の方法によってデータを因果的に解析することで、原因と結果との関係を明確化し、包括的かつ実効性のある解決策を提示する。人々の共生の必要性を再確認しつつ、「誰一人置き去りにしない」世界の実現を目指す。 キーワード:言語、コミュニケーション、共同体、データ・因果解析 |
グランドビジョン⑬の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑭:エネルギーと環境の両立的課題解決
図 エネルギーと環境問題について提案されているプロジェクト構想 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:持続可能で安全・安心な社会を構築するために、エネルギーと環境の喫緊の問題に対して、多様な観点から連携しつつ研究推進することで、両立的課題解決を模索する。 キーワード:エネルギー源、核物理、プラズマ物理、物性科学、再生可能エネルギー、地球環境保全 |
グランドビジョン⑭の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑮:持続可能社会に資する革新的な物質・材料の開拓
図 本学術構想と提案されているプロジェクトの俯瞰図 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:日本が高い競争力を有する物質・材料の研究・開発において、特に、(A)資源の量的・空間的偏在による利用限界、(B)利用後の廃棄による環境汚染、(C)エネルギー利用による温暖化ガス排出の三つの課題に着目して、人材を育成しつつ、革新的物質と材料生産プロセスにおける革新を目指し、持続可能な社会の構築に貢献する。 キーワード:物質創成・合成、評価法、機能物質、生産プロセス革新、エネルギー転換、環境負荷低減、資源循環 |
グランドビジョン⑮の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑯:量子ビームを用いた極限世界の解明と人類社会への貢献
図 量子ビームを用いた極限世界の解明と人類社会への貢献の概要 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:加速器による高エネルギー粒子の強度増強、放射光・レーザー光施設の増強を進め、物質の究極構造や機能の解明を目指す。量子ビームは、科学研究の最先端を切り拓くとともに、共通ツールとして分野間の融合研究を促進し得る。基礎科学の推進とともに、工学研究や文理融合研究の促進によって、産業・文化的な貢献も果たしていく。 キーワード:加速器科学、大強度ビーム、レーザー科学、時空間イメージング、物質の構造・機能とダイナミクスの解明 |
グランドビジョン⑯の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑰:太陽系探査の推進と人類のフロンティア拡大
図 太陽系探査の中長期的な学術振興構想 (出典)日本学術会議地球惑星科学委員会、地球惑星科学委員会地球惑星科学企画分科会及び地球惑星科学委員会地球・惑星圏分科会、 報告「地球惑星科学分野における科学・夢ロードマップ(改訂)2020」より |
概要:探査機を用いた太陽系天体(太陽・月・惑星・小天体等)の科学探査によって、太陽系の起源と進化の解明を目指す。日本の強みであるサンプルリターンや宇宙輸送技術等をさらに発展させ、月・火星を対象とした国際宇宙探査にも参画することで、科学的成果の創出に加えて重力天体探査及び有人宇宙活動関連技術を獲得し、人類のフロンティア開拓・拡大に貢献していく。 キーワード:太陽系探査、サンプルリターン、宇宙輸送、有人宇宙活動 |
グランドビジョン⑰の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑱:宇宙における天体と生命の誕生・共進化の解明
図 本グランドビジョンに関係する観測施設・プロジェクトの俯瞰 (出典)本小委員会にて作成 |
概要:宇宙における天体の誕生と進化を探究し、天体諸階層の多様性の起源を探ると同時に、その帰結としての生命の普遍性の解明を目指す。物理学、天文学、地球惑星科学、化学、生命科学等にわたる学際的研究課題として、国際競争と国際協力に基づく多様で相補的な観測プロジェクトを基盤とする研究領域であり、自然科学における最も根源的な問いへの探究であるといえる。 キーワード:宇宙史、銀河進化、太陽系外惑星、マルチメッセンジャー天文学、アストロバイオロジー |
グランドビジョン⑱の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
グランドビジョン⑲:自然界の基本法則と宇宙・物質の起源の探求
図 本グランドビジョンに関係する実験・観測プロジェクトの俯瞰 (出典)本提言にて、独自に作成 |
概要:加速器や地下実験室等による素粒子・ハドロン・原子核実験の成果を総合し、理論物理学と最新の計算科学を駆使することで、既知の物理法則を超えた自然界の新たな基本原理を発見するとともに、宇宙と物質の起源の解明を目指す。 キーワード:素粒子物理、原子核・ハドロン物理、ダークマター、重力波、初期宇宙、スーパーコンピュータ |
グランドビジョン⑲の実現の観点から必要となる「学術の中長期研究戦略」
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