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第17回世界経済史会議 開催結果報告
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文)第17回世界経済史会議
         (英文)17th World Economic History Congress (WEHC2015)
(2)報 告 者 :第17回世界経済史会議組織委員会委員長 岡崎 哲二
(3)主   催 :WEHC2015国内組織委員会、日本学術会議
(4)開催期間 :2015年8月3日(月)~8月7日(金)
(5)開催場所 :国立京都国際会館(京都府京都市)
(6)参加状況 :55ヵ国/地域・1,202人(国外908人、国内294人)


2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:
International Economic History Association (国際経済史協会、IEHA)は1960年に設立された経済史関係学会の国際的な連合体であり(会長:Gritjie Verhoef ヨハネスブルク大学教授)、Cliometric Society, International Social History Society 等6つの国際学会と世界35か国の国内学会が加盟している。日本については日本学術会議経済学委員会の中にIEHA分科会が置かれ、同分科会がIEHAにおいて日本を代表している。
日本学術会議経済学委員会IEHA分科会では2015年の第17回世界経済史会議(以下WEHC2015)を京都で開催することを計画し、2011年からWEHC 2015国内組織委員会を設置し、社会経済史学会、経営史学会、政治経済学・経済史学会の支援のもとで、準備を進めた。日本の他にWEHC 2015の招致を提案したのはアメリカ、香港であり、3か国・地域の代表は2011年11月にミラノで開かれたIEHA理事会においてプレゼンテーションを行った。その後、プレゼンテーションにもとづいて全出席理事が行った投票の結果、WEHC 2015の開催地が正式に日本(京都)に決定した。日本での開催は今回が初めてであり、また初めてのアジア地域での開催となった。

(2) 会議開催の意義・成果:
経済史は経済学と歴史学が重なり合う学際的な学問分野であり、自然科学を含む各分野の研究手法を取り入れながら発展してきた。その対象は現代社会が直面する問題を反映しながら拡大しつつあり、近年では災害や環境など、狭義の経済事象に止まらない問題も幅広く扱うようになっている。世界経済が大きな曲がり角に差し掛かっている今日、過去を振り返って長期的な変化の中に現在を位置づけようとする経済史の重要性はますます高まっている。
近年の経済史学界では、各国・地域の経済史研究の成果に立脚しつつ、それらを世界史的な視点から捉え返すグローバル・ヒストリー研究が注目を集めている。人類の経済活動やそれに起因する環境問題がグローバル化している今日、グローバル・ヒストリーの重要性もまた高まっており、世界の経済史研究者を糾合したIEHAに期待される役割は大きい。IEHAはこうした動きを念頭に、発展途上国のメンバーシップを拡大し、会議名称も国際経済史会議から世界経済史会議へと変更した。また2002年・2012年のWEHCを非欧米地域で開催する等の努力を重ねてきた。
そのなかで、このたび日本で世界経済史会議を開催し、55ヵ国・地域、1,202人の参加者(この外に同伴者128人)を集めることができたことは、極めて有意義であった。

(3) 当会議における主な議題(テーマ):
WEHC2015のメインテーマは“Diversity in Development(経済発展の多様性)”である。前回南アフリカで行われたWEHC2012のテーマである“Roots of Development(経済発展の起源)"というテーマのねらいを継承しつつ、現在急速に進行しているグローバル化を、単にある方向への「収斂」(convergence)としてのみ捉えるのではなく、歴史的にはさまざまな発展径路が「収斂」と「分岐」(divergence)を繰り返してきたことに注目することによって、その本質をより深く理解しようとするのが狙いである。
経済発展のパターンは一様ではなく、地域の条件に応じて多様である。今後の発展途上国においては、それぞれの条件に応じて環境への負荷がより小さい、持続的な発展径路を見出すことが重要な課題となる。日本のこれまでの歩みは、欧米とは異なる径路での経済発展が現実に可能であることを示しており、日本を主催国とするWEHC2015が「経済発展の多様性」をテーマとすることは時と場所を得たものと考える。さらにWEHC2015では、このメインテーマに基づく主要題目として、国・地域間の比較だけでなく、国・地域内での民族、性別、年齢等の多様性等についても主要題目として取り上げる予定である。

(4) 当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
世界中から同伴者も含めれば1,330人にのぼる参加者があり、前回大会に比べて参加国数も大幅に増加した。この参加者数は、歴代3位の数字であり、非欧米圏での開催としては大成功だったといえる。とくに日本を含むアジア関係のセッションが盛況であり、日本でのWEHCの開催が、世界の経済史学界における日本およびアジア経済史の地位向上に寄与できた。

(5) 次回会議への動き:
次回の世界経済史会議は、2018年7月29日~8月3日に、アメリカ・ボストンで開催される。今回のテーマである「経済発展の多様性」(Diversity in Development) を前提として、次回のテーマは「グローバリゼーションの波」(Waves of Globalization)となった。

(6) 当会議開催中の模様:
5日間にわたり、3つのPlenary Sessionを含む183のセッションが設けられ、各会場とも、活発な議論が展開された。その詳細な内容は、別紙の通りである。さらにDissertation Competitionには8つの論文が、Poster Sessions には20のポスター参加があった。

(7) その他特筆すべき事項:
WEHC2015は日本の他にアメリカ、香港が立候補した。そして、IEHA理事会における投票で、開催地が日本(京都)に決定した。


3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:2015年8月4日(火) 16:00-18:00
(2)開催場所:同志社大学室町キャンパス 寒梅館 ハーディー・ホール
(3)主なテーマ:産地京都の300年―明治維新から22世紀まで―
(4)参加者数、参加者の構成:113名、内訳: 一般参加者 95名、関係者18名
(5)開催の意義:京都企業の研究者(柴孝夫・京都産業大学教授)をモデレーターとして、産業集積の研究者(橋野知子・神戸大学大学院教授)、京都の老舗企業の経営者(服部重彦・島津製作所相談役)、同じく京都の新進気鋭の経営者(竹田正俊・クロスエフェクト代表取締役)、そして地方行政の責任者(山下晃正・京都府副知事)という豪華なメンバーで、産地京都の魅力と、その活力の源について、縦横無尽の議論が繰り広げられた。まず橋野氏から現在の産業集積・産地研究の進展・蓄積の紹介があり、A.マーシャルによる集積の3つのメリットが産地の発展を説明してきたことが示された。しかし、それらが「産地京都」の歴史的発展を十分捉えることができるのかという疑問から、3つの問題提起がされた。すなわち、①産地京都の歴史的形成、②京都で未来永劫ものづくりをするための現在の試み、③産地における産学官の連携やアカデミズムの役割がそれである。これらの点をめぐって、服部氏から歴史的視点から見た産地京都の特徴、京都特有の企業文化、島津製作所の誕生し発展してきた集積地の歴史と現在、そして知の集積を形成・発展させるための試みが述べられた。これをうけて、竹田氏は知の集積の事例として、京都における試作産業の確立とそれをさらに発展させる仕組みとしての「京都試作ネット」の活動と理念、現状について説明した。ラウンドテーブルの前に、柴氏から3報告の総括と論点の整理が行われ、山下氏を含む5名でのラウンドテーブルでは、橋野が提起したマーシャルの集積の三つの利益や上記①~③の問題提起をめぐっての議論が活発に行われ、京都が多業種からなる知の集積という、まれな存在であることが明らかとなった。そして、この知の集積をより発展させていくためには、entrepreneurship、教育、交流会・勉強会を通じた切磋琢磨等が不可欠であり、加工から開発中心の産地へと変貌していくことが重要であることが議論された。
本講座の内容は、学術的にも極めて水準が高く、ご参加いただいた市民の方々にも大いなる知的刺激を与えることができたのではないかと自負している。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
開催地である京都のアピールにもなったと、京都府庁の方々からも好意的に受けとめていただいた。また本公開講座については、参加者からの反応も良好で、以下のような感想が寄せられている。

「改めて京都の知りえなかった一面と素晴らしいことに気づかされました。と、同時に京都に在住出来ていることにうれしい気持ちと感謝の気持ちも生まれました。また、ランドテーブルでの先生方のお話の掛け合いは一番面白かったです。」(広告代理店・女性)

「京都は狭いので、3人間を挟めば、誰にでも会うことができる…そんな話がシンポで出ていたように思いますが、そのとおりの展開ですね。市民講座の内容も、中々新鮮で良かったです。その中でも「京都人は、人まねをしない」という話が気になっています。京都は伝統文化の総本山、昨日シンポに出ていた「老舗のお菓子、お茶屋さん」もその文化と深く関わっています。お茶、お花、和歌、お香…、どれも、「型」を大切にされ、型は師匠をまねることがスタートではと思っているので、そのギャップはどう説明するのか?また、社長さんに聞いてみようと思います。何より、とても良い公開講座になったこと、嬉しく思います。」(公務員・男性)

なお本公開講座では市民への広報活動のため、タウン紙を活用した。地元の企業研究を行っている研究者のネットワークを活用し、WEHC2015の成果をふまえつつ、開催地の魅力を最大限引き出せる人選を行った。

(7)その他:とくになし。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
開会式に福田元首相をお招きでき、Keynote Speechを頂けたことは、本会にとってとても名誉なことであった。これが日本学術会議との共同主催の大きな意義の一つである。


(キーノートセッション) (プレナリーセッション) (一般セッション)
(市民公開講座 1) (市民公開講座 2)




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