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第19回国際質量分析会議開催結果報告
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文)第19回国際質量分析会議
         (英文)19th International Mass Spectrometry Conference (IMSC2012)
(2)報告者 : 第19回国際質量分析会議組織委員会委員長 和田 芳直
(2)主   催 : 日本質量分析学会、日本学術会議
(3)開催期間 : 2012年9月15日(土)~ 9月21日(金)
(4)開催場所 : 国立京都国際会館(京都府京都市)
(5)参加状況 : 50ヵ国/2地域・1,819人(国外976人、国内843人)


2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯: 質量分析学に関し最も伝統ある国際質量分析会議(IMSC)は世界各国・地域の40に及ぶ質量分析学会によって構成される組織International Mass Spectrometry Foundation (IMSF)が1958年の第1回以来3年毎に欧州で開催してきた.1953年に設立された日本質量分析学会は世界で最も長い歴史をもち,世界の質量分析学を牽引してきた.例えば,1991年には松田久がトムソンメダルを受賞し,2002年には田中耕一(今回の共同議長)がノーベル化学賞を受賞した.また,わが国は複数の質量分析装置メーカーを有する数少ない国でもある.わが国では過去2回1969年と1992年に質量分析に関する国際会議を開催したが,いずれもIMSCとしての開催ではなかった.このような状況からIMSCをわが国で開催することは日本質量分析学会の長年の夢であったが,2006年プラハ会議で招致に成功した.
(2) 会議開催の意義・成果: 参加者は世界52ヶ国・地域にわたり,地域別内訳(欧州20.9%,日本以外のアジア・オセアニア州21.2%,南北アメリカ11.5%,日本46.3%)からも明らかな通り,IMSCを初めて欧州外で開催したことで質量分析(学)のコミュニティが真にグローバルであることを証明した.演題数は1015題(口頭発表233,ポスター782)と前回会議と同等で,参加者の学術交流が高いレベルで実現できた.特に,わが国の若手研究者の国際感覚を磨くことができた.
(3) 当会議における主な議題(テーマ):「21世紀のグローバルな課題を解決する質量分析学」質量分析学は気相イオンの質量計測を主題として物理,化学,生命科学にわたる分野横断・融合分野であることから,プログラムにおいて,イオン光学,イオン化学などの基礎科学研究と,環境,医療,食品,工業材料,宇宙などへの応用研究をバランスよく配置して討論を行った.全体講演では,イオン移動度質量分析法,定量プロテオミクス,小惑星イトカワの試料分析,質量イメージング法,大気圧イオン化法など最近の注目テーマを取り上げた.
(4) 当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割: 質量分析学に関する過去3年間の成果を集大成し,質量分析法がその応用分野としての環境や医療などにおける多様な要求に応えるためになすべき研究の方向性を明らかにした. 日本が果たした役割は,欧州外で初めてのIMSC開催を,プログラム面・運営面で成功させたことにより,質量分析学コミュニティのグローバル化を実現したことである.また,質量分析法が急速に普及しつつあるアジア地域の重要性を考えて,これまでアジア・オセアニア地域の学会連携強化を先導してきたが,そのひとつの集約点としてのIMSC開催によって,日本質量分析学会および質量分析に関係する日本企業のこの地域における主導的役割を確かなものとした.
(5) 次回会議への動き: 欧州外での開催を実現したことにより,今後のIMSCは2年毎に欧州と欧州外で交互に開催することになった.これからは2年毎に研究を総括し,今後の方向を討議することになる.次回はスイス,イタリア,フランスの3学会が共同し,2014年にジュネーブで開催し,2016年は初めてアメリカ大陸のカナダ・トロントで開催することになった.
(6) 当会議開催中の模様: 会議は9月15日(土)午前10時からショートコース(教育講座)によって始まった.3枠並行で開催したショートコースでは,イオン解離法についてR. Zubarev(スウェーデン),イメージング質量分析について瀬藤光利(浜松医大)が担当し,質量分析学の基礎講座はD. Sparkman(米国)とJ. Gross(ドイツ)が交代でつとめた. 9月16日(日)夕方には19th IMSC開会式に先立って,N. Nibbering(オランダ),M. Gross(米国)による2つの教育講演(tutorial plenary lecture)を行い,それぞれが気相イオン化学とプロテオミクスについて自らの研究成果も交えて解説した. 開会式は17時からメインホールにおいて挙行し,和田組織委員長(議長)による開会宣言,IMSF会長M. Eberlin,荒川隆一日本質量分析学会会長,春日文子日本学術会議副会長の主催者挨拶,門川大作京都市長の来賓挨拶(逐次通訳)のあと,野田佳彦内閣総理大臣メッセージを田中共同議長が代読した. 開会式に続く最初の全体講演(plenary lecture)では,濱田泰以(京都工繊大学)が伝統工芸職人の動作解析を中心に,質量分析とは異なる計測科学話題を提供した.会議3日目9月17日(月,祝日)からは,全体講演,5会場同時進行による口頭発表セッション,ランチョンセミナーを挟んで前後にそれぞれ奇数および偶数ポスター番号のポスターコアタイム,午後の口頭発表セッション,ワークショップの基本プログラム構成で進めた.月曜日と火曜日のワークショップ時間帯に第3回アジア・オセアニア質量分析会議を開催し,アジア・オセアニア地域から若手中心に講演者を選ぶとともに,座長には次世代の質量分析分野を牽引することが期待される中堅・若手研究者計4名(日本2名,台湾,韓国各1名)が座長としてセッション進行を行った. 口頭発表セッションは40分のキーノート講演と各20分の口頭発表4題により構成し,午前・午後の各2時間,期間を通じて45枠を設けた.座長はプログラム委員として当該セッションの編成を行った者が担当した.プログラム編成にあたっては,気相イオンの化学や質量分離といった質量分析の学術的・技術的中核,生命科学や環境分野などへの応用研究をテーマとするセッションを会場の収容人数も勘案して5会場に配置した.特に,質量分析の基礎科学・技術(fundamental)に関するセッションの充実は参加者から好評であった.専門部会の性格をもつセッションはなるべく同日の午前と午後に配置することで参加者の便宜をはかった. 会議5日目9月19日(水)朝にトムソンメダルとブルネー賞授賞式,引き続いてブルネー賞受賞講演を行った.トムソンメダル受賞講演は翌日9月20日(木)に行った.ワイリー社が学生およびポスドク研究者の渡航参加を支援するトラベルアワード受賞者4名(スイス,ドイツ,英国,オーストラリア各1名)の口頭発表は木曜日のセッション1枠で行った. なお,同日のランチョンセミナーで山中伸弥氏によるiPS細胞に関する講演があった. 最終日9月21日(金),午前の口頭発表セッションのあと,次回2014年IMSC(ジュネーブ)の紹介,さらに全体講演を挟んで閉会式へと進んだ.閉会式ではEberlin会長が今回の京都開催は内容および運営等において完璧であり,この成功によって今後IMSCが世界各地で開催できることが証明されたと,組織委員会と日本質量分析学会に対する感謝を述べて締めくくった.
(7) その他特筆すべき事項: 今回の第19回国際質量分析会議の開催地決定は2006年の第17回会議(プラハ)での各国代表者会議によって行われた.立候補都市は京都の他に欧州の3都市であった.各国代表が1票を持つことから,多数派工作として,アジア・オセアニア地域の連携に取り組んだ.当時のアジア・オセアニア地域からはわが国の他,中国,インドおよびオーストラリア/ニュージーランド連合学会に加え,設立間もない韓国,台湾が学会を設立していた.これら学会の協力を取りつけると共に,香港とシンガポールに学会あるいはIMSFへの参加を働きかけた.そして,招致プレゼンテーションでは,欧州内か欧州外かの選択を迫った.その後,2010年には第1回アジア・オセアニア質量分析会議をつくばで開催し各国代表を招待(JSPSアジア機動的国際交流事業が補助)するなど,今回のIMSCに対するアジア・オセアニア地域での雰囲気作りを行った.


(開会宣言を行う和田芳直組織委員長)

(主催者挨拶を行う春日文子日本学術会議副会長)

(トムソンメダル授賞式)

(ブルネー賞受賞式)

(メインホールの様子)

(展示・ポスター会場の様子)

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:開催日時:9月15日14:00-16:00
(2)開催場所:開催場所:国立京都国際会館(メインホール)
(3)主なテーマ、サブテーマ:テーマ「科学技術にマスマス貢献する質量分析」、サブテーマ「最先端の研究は,基礎的な学習から」
(4)参加者数、参加者の構成:(カッコ内は事前申込1,170人のデータ、内数)参加者総数は1,200名.京都を中心とする関西地域の高等学校生徒(283名)および大学の理系学生(174名)、これら学校の教員と保護者と一般市民(713名).(年代別内訳:10歳代以下30%、20歳代20%、30歳代10%、40歳代以上40%)
(5)開催の意義: 質量分析学は一般市民に馴染み難い分野であり、その名前は殆んど知られていない。本会議の共同議長である田中耕一(質量分析分野で2002年ノーベル化学賞受賞)が、①質量分析の基礎解説、②基礎教科の学習が最先端の研究に役立っている現場の紹介、③異分野融合が自身の受賞研究に役に立ったことの紹介、をすることにより学生や一般市民が科学に興味を持つことを期待しこの講座を企画した.
(6)社会に対する還元効果とその成果:会場の雰囲気として、視聴者は講演を終始熱心に聞き入っていた.講座中に設けた約40分の質疑応答では、年配よりも主に高校生、大学生による質問が活発にあり、講師がわかりやすくかつ正確に回答した.企画した期待・意図はある程度達成できたものと考える。 開催にあたり工夫した点は、一般市民もさることながら特に高校生に多く参加してもらいたく、府市教育委員会、私学連合会などに宣伝協力を強く依頼したことである。その結果、積極的な協力が得られ、効果が参加人数に表れた.新聞3社(京都,朝日,読売)が記事を掲載したことも社会へのアピールとして効果的であったと考える.
(7)その他:講座の休憩時間には、会場外で振り子を用いた「体験実験」コーナーと一般質問に答える「質量分析とは」コーナーを設けた.予想に反し多くの参加者がコーナーに殺到し、説明担当者の数が足らなかったほどである.

(田中耕一共同議長による市民公開講座の様子)

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
日本学術会議の共同主催となったことで,国内的には,関連学会・団体など各方面の関係者がこの会議の意義と重要性を認識し,参加意欲をおおいに高める効果があった.また,わが国の科学者を代表する機関がこの伝統ある国際会議の日本開催を重要な国際学術集会として位置づけたことで,質量分析学がめざす科学・技術の融合がわが国の科学界で理解されていることを各国学会や海外からの参加者に対して強く印象づけることができた.さらに,運営面においては,また、学術プログラム分の会場借上費のサポートによって,参加費等の収入をプログラムの一層の充実や参加者にとって快適な会場環境の向上にも充てることができ,参加者の満足度向上につなげることができた.


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