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第16回国際アルコール医学生物学会総会
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文)第16回国際アルコール医学生物学会総会
         (英文)The 16th congress of International Society for Biomedical Research on Alcoholism (ISBRA)
(2)報告者 : 第16回国際アルコール医学生物学会総会委員長 齋藤利和
(2)主   催 : 日本アルコール・薬物医学会,日本学術会議
(3)開催期間 : 2012年9月9日(日)~ 9月12日(水)
(4)開催場所 : 札幌コンベンションセンター(北海道札幌市白石区東札幌6条1丁目1-1)
(5)参加状況 : 30の国・地域 506人(国外339人,国内167人)


2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯: 第16回国際アルコール医学生物学会総会は,国際アルコール医学生物学会(International Society for Biomedical Research on Alcoholism (ISBRA))が2年ごとに開催する会議であり,1982年の第1回ミュンヘン大会から当会議で第16回を迎えるアルコールに関する生物学的研究で最も歴史のある国際会議である。2008年7月に開催された第14回ISBRA総会において,第16回ISBRA総会を2012年9月に札幌で開催することが決定された。これを受け,2009年7月に,日本アルコール・薬物医学会は,日本開催準備のために,第16回ISBRA総会組織委員会を設置した。日本での開催は,1988年の第4回ISBRA総会・京都大会(栗山欣弥会長・京都府立医科大学),2000年の第6回ISBRA総会・横浜大会(石井裕正会長・慶應大学)についで12年振り,3回目の開催となる。世界のトップレベルの研究者が一堂に会し,最新の知見や研究成果について発表し議論を行うことにより,アルコール生物学の発展とその応用展開を図ることを目的に開催準備を進めた。
(2) 会議開催の意義と成果: アルコールの過量摂取が,人体のあらゆる臓器に様々な障害を与える事は周知されているが,その障害メカニズムにはいまだ不明な点が多い。アルコール生物学は,アルコールに関連した様々な研究を行う学問である。特に近年,妊娠中の母親の過剰なアルコール摂取により,その子供に,発育不全や知的障害,多動性・衝動性などの様々な精神症状,行動上の問題を認めることが知られるようになり,胎児性アルコールスペクトラム障害(Fetal Alcohol Spectrum Disorders: FASD)と呼ばれ注目を集めている。アルコールによる障害メカニズムを理解し,その有害性を広く啓蒙する事は,社会経済学的観点からも重要である。本総会を日本で開催する事は,アルコール生物学における日本の研究水準を高め,世界全体における同領域の研究の発展に貢献し,今後の更なる進展が期待される。
(3) 当会議のメインテーマ: この度の第16回国際アルコール医学生物学会総会では,「21世紀におけるアルコール・薬物依存の医学生物学の潮流~グローバルな研究・臨床の展開」をメインテーマに,アルコール依存症・薬物依存症の病態基盤の研究,アルコール・薬物依存の治療戦略,アルコール関連問題と自殺等を主要題目として,研究発表と討論が行われた。
(4) 当会議の主な成果,日本が果たした役割: 当会議を日本で開催することにより,我が国におけるアルコール症研究の成果を全世界の研究者にアピールし,多くの研究者の参画を促す絶好の機会となる。我が国においてこの分野の研究を行う科学者に,多くの他国の科学者と直接交流する機会を与え,同領域の研究を一層発展させる契機となった。また,市民公開講座を行うことにより,アルコールの過量摂取に伴う有害性を啓蒙するとともに,我が国の研究者によってもたらされた研究成果について,社会に還元し,アルコール関連領域の研究に関する一般社会の関心を大いに高めることができた。
(5) 次回会議への動き: 第17回となる次回の国際アルコール医学生物学会総会は,2014年6月21日~25日に米国のシアトルで開催されることが決定している。
(6) 当会議開催中の模様: 第16回国際アルコール医学生物学会(ISBRA)総会の学術プログラムについては,各国の研究者により企画された64の一般シンポジウム,190のポスター発表に加え,日本アルコール薬物医学会 (JMSAS),アジア・太平洋アルコール嗜癖学会 (APSAAR),欧州アルコール医学生物学会(ESBRA),ラテンアメリカアルコール医学生物学会 (LASBRA),米国アルコール医学会 (RSA)といったISBRA関連団体や,日本アルコール精神医学会とニコチン薬物依存研究フォーラムが統合して誕生したばかりの日本依存神経精神科学会(JSND)とのジョイントシンポジウムが合計9つ, Gunter Schumann(英国),Hideyuki Okano(日本),Charles O'Brien(米国),Hide Tsukamoto(米国)の4名の世界的に高名な研究者による基調講演,Otto Lesch(オーストリア)によるLesch類型論に関するワークショップと,大変盛りだくさんな内容であった。発表内容は,極めて多岐にわたり,アルコールによる中枢神経系の障害,および,その分子生物学的メカニズム,肝機能障害などの内科系疾患の病態に関する研究,画像研究,遺伝研究,動物実験などの基礎研究から,胎児性アルコール症候群や併存する精神疾患に関する研究,アルコール依存症の薬物療法や動機づけ面接などの臨床的視点での報告,ネット依存など最近,関心が高まっている行為嗜癖に関する発表など多彩であった。基調講演演者の一人,慶應大学の岡野栄之教授によるiPS細胞を用いた研究に関する発表は,日本の高い研究技術を世界に示し,多数の外国人研究者の関心を集め,聴衆からの質問が続き大変活発な議論が行われた。
学術プログラム以外の企画として,総会の開幕に先立ち,プレコングレスイベントとして9月8日に催されたGet Together Party (前夜祭)には,参加予想を大きく上回る200名程の参加があり,各国からの参加者は,久しぶりの再会を楽しみながら,気軽な雰囲気の中,夜遅くまで情報交換を行った。また,会場内に設けられた日本文化体験コーナーではお茶会なども行われ,海外参加者は,学術プログラムの合間に日本の文化を楽しむ機会も得られ好評を博した。9月11日に行われた学会ディナーには200名を超える参加者があり,Isaacson Award の授賞式や,我が国のアルコール依存症研究に多大なる貢献をされた石井裕正慶應大名誉教授の功績をたたえて設立されたHiromasa Ishii Memorial Awardの授賞式が行われ,学術発表の場とは異なる和やかな雰囲気の中,活発な交流が行われ会場は大いに盛り上がった。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:2012年9月9日(日)10:00~12:00
(2)開催場所:札幌コンベンションセンター(北海道札幌市白石区東札幌6条1丁目1-1)
(3)テーマ:「広がるアルコール問題」
(4)参加者数,参加者の構成:120名 札幌近郊在住の中高年者,学生および学会参加者
(5)開催の意義:
札幌医科大学法医学講座の松本博志教授が,「法医学教室の事件簿~飲酒関連死を考える~」と題して講演し,アルコールとの関連が示唆された検死症例を紹介しながら,アルコールの危険性を分かりやすく伝え,また,国立病院機構久里浜医療センター・樋口進院長が,「アルコール依存と自殺問題」とのタイトルで,うつや自殺にアルコールの問題が深く関与していることを伝え,アルコール問題の早期発見,早期からの対応の必要性を述べ,一般市民にアルコール問題の重要さを伝えることができた。 (6)社会に対する還元効果とその成果:
 アルコールの危険性を良く知る専門家が,アルコール依存症,肝障害などの身体障害や異常酩酊に伴う問題行動といった一般的なアルコール問題とは異なる視点から,その問題の深刻さをわかりやすく講演したことで,参加した一般市民は,アルコールの問題が身近なものであり,また,非常に危険性の高いものであることを理解できた。よって,今回の市民公開講座は,重要な社会還元に貢献できたと考える。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
開会式で,日本学術会議副会長・春日文子氏より御挨拶をいただき,また,野田佳彦内閣総理大臣からのメッセージを披露させていただいたことから,我が国が,アルコールの問題を極めて重要な社会全体の問題ととらえ,その解決に向け真摯に取り組んでいる姿勢を海外からの参加者にも伝えることができた。会議の運営面においても,日本学術会議との共同主催ということで,本会議の重要性が周知され,より多くの方々に関心を持っていただき,多数の団体から支援を得られたことで,本会議を成功裏に終えることができたと考えている。

開会式で挨拶をする齋藤利和大会長
(開会式で挨拶をする齋藤利和大会長)
開会式で挨拶をするカール・マン大会長
(開会式で挨拶をするカール・マン大会長)
開会式で挨拶をする春日文子日本学術会議副会長
(開会式で挨拶をする春日文子日本学術会議副会長)
会場の様子
(会場の様子)
ポスターセッション風景
(ポスターセッション風景)
市民公開講座の様子
(市民公開講座の様子)

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