日本学術会議 トップページ > 国際会議・シンポジウムの開催 > 国際会議結果等
 
 
第8回国際比較生理生化学会議
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文)第8回国際比較生理生化学会議
         (英文)8th International Congress of Comparative Physiology and Biochemistry (ICCPB2011)
(2)報 告 者 :第8回国際比較生理生化学会議組織委員会委員長 曽我部 正博
(3)主   催 :日本比較生理生化学会、日本学術会議
(4)開催期間 :平成23年5月31日(火)~ 6月5日(日)
(5)開催場所 :名古屋国際会議場(愛知県名古屋市)
(6)参加状況 :18ヵ国/1地域・371名(国外 114人、国内257人)

2 会議結果概要
(1)会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:
 第8回国際比較生理生化学会議は、比較生理生化学国際連合(International Association of Comparative Physiology and Biochemistry:IACPB)が4年ごとに開催する会議であり、1983年の第1回から当会議で8回を迎え、比較生理学分野で最も権威と歴史のある国際会議である。2007年8月に開催されたIACPBの国際執行委員会と総会において、第8回国際比較生理生化学会議を2011年6月に日本で開催することが決定された。これを受け、日本比較生理生化学会は、日本開催準備のために、第8回比較生理生化学国際会議(国内)組織委員会を2009年10月に設置し、開催の準備を進めることとなった。日本での開催は、第3回以来20年ぶり2回目の開催である。
(2)会議開催の意義・成果:
 比較生理生化学は、ヒトを含む地球上の生物がどのように環境(生物環境を含む)に適応しているのか、あるいはその機能をどのように進化させてきたのかの生理・分子機構を明らかにする学問である。その対象は、気水地圏に生息するあらゆる動物に及び、普段我々に馴染みのない、あるいは気づかないような希少種や小動物の巧みな生存戦略の仕組みを研究することに特徴がある。特に21世紀に入り自然環境の保護が人類の最重要課題の一つになる中で、それを具体的にどう進めるかを考える上で比較生理生化学の果たす役割はこれまでにも増して重要になりつつある。比較生理生化学は、特別に最新の技術や大型設備を使うのではなく、むしろ愚直に様々な動物の環境適応の仕組みを行動分析し、これに生理学的、生化学的、分子生物学的分析を組み合わせて解明する基礎的で地味な学問である。しかし、生命の多様性に真正面から正攻法で立ち向かう本学問こそ、自然環境保護を進める上で最も必要とされる基礎学問の一つであると言って過言ではない。特に昨年には「生物多様性国際会議(COP10)」が同地名古屋で開催されたことで、その成果を継承発展させる具体的活動として本会議を位置づけ、さらに多くの我が国の若者を鼓舞啓蒙することにより、本学問分野の発展に大きく寄与することができる。
 この度の第8回比較生理生化学国際会議では、「生物多様性の生理学的基礎」をメインテーマに、多様な生物の、感覚運動機構、体内時計調節機構、体温調節機構、浸透圧調節機構、生殖戦略、採餌戦略等を主要題目として最先端の研究発表と活発な討論が行われたが、その成果は、比較生理生化学の発展のみならず、生物多様性維持における人間の果たす具体的責務を考える上でも大きく資するものと期待できる。
 この会議を日本で開催したことで、我が国で進行中の優れた成果を全世界へ大きくアピールできただけでなく、世界の多くの科学者と直接交流する機会が得られ、特に若手・中堅を軸に我が国の比較生理生化学に関する研究を一層発展させる契機となった。また、COP10とも連携した公開の市民講座を行うことで、日本人科学者のもたらした成果について、年々関心の高まっている生物多様性についてその意義から今後の国際的な取り組み、課題までわかりやすく紹介したことで、これからの日本を担う若い世代を中心に生物多様性に関する一般社会の興味を大いに高めることができた。
(3)当会議における主な議題(テーマ):
 「生物多様性の生理学的基礎」をメインテーマに、シンポジウム、ポスター等で活発な議論が行われた。
 具体的なテーマは、多様な感覚機構、呼吸調節機構、体温調節機構、代謝調節機構、体内時計調節機構、浸透圧調節機構、神経系の起源と進化、微小脳の構造と機能、神経・内分泌相関、神経行動学、感覚運動機構、生殖戦略、採餌戦略などが挙げられる。
(4)当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
 350 名を超える内外のトップレベルの研究者の参加があり、特別講演、シンポジウム、ポスター等を通して、活発な研究発表と討論を行われた。リーマンショックに続く世界的な不況、円高、そして、直前の東日本大震災と福島原発事故など、国際会議の開催すら危ぶまれた困難な状況であったにもかかわらず、想定を上回る参加者数とポスター発表の申し込みがあり、幅広い生物種を対象とした比較生理生化学という基礎科学の重要性、独自性を強く認識することができた。さらに、国内外から100 名を超える学生が参加し、精力的な発表や活発な質問、交流が行われ、本会議の趣旨の1つである学生や若い研究者の支援も十二分に達成できた。また、ホスト国として最も多くの研究発表を擁することで、この分野における我が国の基礎科学の高い研究水準を示すことができたと考えている。
(5)次回会議への動き:
 2009年7月に京都で開催されたIACPB(比較生理生化学国際連合)執行委員会において、次回の会議はポーランドで開催することが内定していた。今回、ICCPB2011の本会議の開会式兼IACPB総会(2011年6月1日、名古屋)において、ポーランド代表のプレゼンテーションを元に、4年後の2015年にポーランド生理学会がホストとなり、同国クラコウ市で第9回国際比較生理生化学会議(ICCPB2015)を開催することが正式に決定された。具体的なテーマは未定であるが、引き続き生物多様性に関連する主テーマが設定される見通しである。
(6)当会議開催中の模様:
 本国際会議の伝統であり特色の一つに、講演が国際連合であるIACPBに所属する各学会から推薦されたシンポジウムと特別講演から構成され、発表の質の高さが維持されている。本会議では学術プログラムの5日間において、5つの特別講演と29のシンポジウムが組まれ、合計146件の講演題目について各講演者が最新の研究成果について発表を行った。各シンポジウムは上述のテーマに基づいて構成されていたが、同じシンポジウム内でも多岐にわたる生物種を対象とし、出席者も専門分野や研究対象の違いを越えて積極的に議論に参加するなど比較生理生化学の名にふさわしい学術的交流が活発に行われていた。
 ポスターは191題の発表が行われた。これは計画段階での見込みを大きく上回る数であり、一部のポスターは隣接したロビーにパネルを設置して発表を行った。ポスターセッションではそれぞれのポスターの前で活発の議論が交わされており、セッションは3日にわたって組まれていたが、いずれの時間も大変盛況であった。また、ポスターを会議期間中張り出せるようにしたことで、セッション以外の時間でも休憩時間等に十分に時間をかけてポスターを見ることができ、大変好評であった。
 4日目のバンケットでは、地元名古屋の名物を中心に大変特色のある料理と、迫力のある太鼓演奏、そして情感豊かなクラシック演奏等のアトラクション、ユーモアあふれるスピーチ等、特に海外からの出席者には大変好評であった。また、学術プログラムは2日目から最終日正午まで朝から晩まで密に組まれており、公式なエクスカーションのない過密なスケジュールであったが、ロビー等、本会議で専用できるスペースに十分余裕を持たせたことで、テーブルを囲んで活発なディスカッションが行われるなど、活気あふれる6日間であった。
(7)その他特筆すべき事項:
 リーマンショック、円高、そして東日本大震災と、逆境というべき状況でありながら来日していただく出席者を温かく迎え、そして学術のみならず日本が元気であることを母国で発信していただけるよう限られた予算の中でも最大限のホスピタリティを発揮できるよう努力してきた。シンポジウム等学術プログラムのスムーズな運営や、動線を考慮し余裕を持たせた会場配置、バンケットの企画や快適なネットワーク環境・リフレッシュコーナー等、世界中から集まった研究者同士の交流を促進できる環境を構築できるよう準備を重ね、その目的は達せられたと考えている。事実、海外参加者から発表内容の質の高さ、日本人若手の活力、会議運営や会場設定に対する数多くの讃辞をいただいている(その内容は日本比較生理生化学会公式雑誌「比較生理生化学」に掲載予定である)。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:平成23年6月5日(日)13:30-16:30
(2)開催場所:名古屋国際会議場(2号館2F-224)
(3)主なテーマ:工夫に満ちた身近な生き物たち
  サブテーマ:広げよう生物多様性
(4)参加者数、参加者の構成:50名(内訳:学生15名:一般35名)
(5)開催の意義:
 生物多様性の意義について比較生理生化学の研究成果や昨年同会場で開催された生物多様性条約題10回締約国会議 (COP10) の成果をふまえて、身近な動物たちの地球上で生きるための工夫と仕組みや、ヒトを含めた様々な生物が地球上で相互に関わりあいながら生活していることを理解するとともに、ヒトとこれら生物多様性がいかに共存していくか考える機会とすることを目的とする。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
 前年のCOP10もあり、「生物多様性」という言葉は広く普及しつつあり、関心は高まっている。その反面、なぜ生物多様性が重要なのかという基本的な点については十分な啓蒙がなされているとはいえない。公開講座では、生物多様性の基本からその保全にかかわる国際的な取り組みまで網羅するよう工夫した。上記目的を達成するために、講演者として3名を選出した。本国際会議の主催団体である日本比較生理生化学会から浜松医科大学・針山孝彦教授、京都大学・沼田英治教授が、多様な生物の生きるしくみを研究する比較生理生化学の研究成果をもとにその重要性と人とのかかわりについて分かりやすく解説し、続いてCOP10を始めこの分野で精力的に活動されている名古屋市立大学の香坂玲准教授がCOP10開催の模様と開催国としての日本の責務、そして国際的な議論について講演を行った。講演後には、パネルディスカッション形式で、市民からの質問に答え、かつ講演者間の議論を深め、「生物多様性」について啓蒙した。
 会場から熱心な質問があり、公開講座の司会を務めた曽我部大会長の進行のもと、講演者との議論が盛り上がった。生物多様性が知的財産として機能するだけでなく、経済的財産としても重要であることに関しての質問があったり、各論としての捕鯨の問題や、人口抑制の問題などの質問が生じたり、幅広い議論がなされた。
(7) その他:
 本公開講座を踏まえて、生物多様性についてより理解を深めていただくことを目的として、本講座に密着したテーマで中学・高校生から一般まで広く論文を募り、優秀な論文には論文賞を授与し、学会誌への掲載を予定している(応募締切2011年7月31日)。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
 我が国の人文・社会科学、生命科学、理学、工学の全分野の研究者を代表する機関たる日本学術会議が共催となることで、COP10のホスト国でもある我が国が、比較生理生化学を生物多様性の理解に必要不可欠な学問分野として重視していること、そして基礎科学全般を文化国家の基礎として今後とも重視する姿勢を世界へアピールすることができたと考えている。また、国内に向けても、このことが本国際会議の意義を広く理解していただくきっかけとなり、40を超える企業・団体・個人や財団の支援につながり、会議の成功に至ったと考えている。

             
 Opening Ceremony(大会長挨拶)              Opening Ceremony(日本学術会議副会長挨拶)      副会長による内閣総理大臣メッセージの披露       Plenary Lecture(Dr. John Hildebrand)

             
 Poster Session                          Symposium                            Banquet                              市民公開講座



このページのトップへ
日本学術会議 Science Council of Japan

〒106-8555 東京都港区六本木7-22-34 電話番号 03-3403-3793(代表) © Science Council of Japan