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第9回プラトン・シンポジウム
1 開催概要
(1)会 議 名 :(和文)第9回プラトン・シンポジウム
         (英文)IXth Symposium Platonicum
(2)報 告 者 : 第9回プラトン・シンポジウム準備委員会委員長 加藤 信朗
(3)主   催 : 日本西洋古典学会、日本学術会議
(4)開催期間 : 2010年8月2日(月)~ 8月7日(土)
(5)開催場所 : 慶應義塾大学三田キャンパス(東京都港区)
(6)参加状況 : 31ヵ国/1地域・260人(国外130人、国内130人)、ボランティア学生手伝い60名

2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:
 プラトン・シンポジウムは国際プラトン学会(International Plato Society: IPS)が3年ごとに開催する研究大会で、今回で9回を迎える、哲学分野で最も開かれた世界規模の国際会議である。IPSは現在500名ほどの会員を全世界に擁し、プラトン・シンポジウムを中心に、研究書シリーズの出版や電子ジャーナルの主催、研究文献カタログの作成、研究集会の開催など、多方面で活動を展開している。日本のプラトン研究者は、IPS創立以来積極的な役割を果たして来ており、2004年7月のIPS総会時に2010年大会の東京開催が決定された。その決定を受け、まず、日本西洋古典学会がその主催団体となることを日本西洋古典学会委員会で決定し、「第9回プラトン・シンポジウム準備委員会」を2007年に学会内に設置して、慶應義塾大学に置かれたIPS東京事務局と協力して、開催の準備を進めた。2009年3月には、IPS実行委員会の中間会議がパリで開催され、加藤信朗と納富信留の提案によって、本研究大会プログラムの概要が了承された。3人の招待講演者が決定され、100あまりの研究発表は、会員より応募された要旨からIPS実行委員会が厳正な審査の上、選出した。
(2)会議開催の意義:
 プラトン・シンポジウムの日本での開催は、ヨーロッパ・北米・地中海圏以外では初となった。2001年には大会がイスラエル・エルサレムで開催されたが、それ以外では初めてのアジア開催となった。東京大会では、プラトンの主著『ポリテイア』を主題に、プラトン哲学の本質と可能性をめぐって、世界のトップレベルの研究者が一堂に会して、最新の研究成果が討論された。「正義・国家・社会・心」といったテーマをめぐる基本問題を根源的に考究することで、今日人間が直面する諸問題解決への手がかりを探った。また、学際的な相互理解と国際的な学術交流をはかることで、未来の共生の哲学への可能性を拓いた。
(3)当会議における主な議題(テーマ):
 第9回プラトン・シンポジウムは「プラトン『ポリテイア(国家)』」をメインテーマとすることが、2007年ヴュルツブルクでのIPS総会で決定した。「正義とは何か」をめぐる倫理学、理想国家を論じる政治学、魂の三部分説を提唱する心理学、文芸と体育を中心とする初等教育、男女共同参画の社会論、イデア論を中心とする知識論・存在論、数学を基本とする高等教育、多角的な政体分析、文芸批判といったきわめて広汎なトピックを扱うこの著作は、西洋文明の古典として、伝統文化に絶大な影響力を維持してきた。これらの主題を現代の視点から改めて検討し、プラトン哲学の全体像をそこから探ることが、本研究大会の課題となった。3つの招待講演と並んで「ポリス・パネル」(政治哲学)と「プシュケー・パネル」(魂論)が企画され、IPS大会では初めての試みとして、異なる背景の論者によるパネル・ディスカッションがなされて大きな成果を得た。
(4)当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
 本研究大会を日本で開催し成功に終えたことは、日本でこれまで積み上げられた西洋古典学・西洋哲学の研究成果を全世界の研究者に広くアピールする絶好の機会となり、また、若手を含めた日本の研究者には世界一流の研究者たちと直接交流する機会を与えた。参加した各国の研究者は、日本の研究レベルの高さと熱心さに、大きな賞賛の声を寄せて下さった。このような大規模な国際学会を有意義に主催したことで、日本の学界が世界の研究の一翼を担っていることを全世界に示しえたと確信する。
 IPSの運営については、2007~2010年に慶應義塾大学に事務局本部がおかれ、加藤信朗と納富信留が共同会長(President)として世界のIPS活動を支えた。東京大会中の8月5日には両者がIPS総会の議長をつとめ、今後の学会運営について多くの議事を順調にすすめ、重要な成果をえることができた。今後のプラトン研究の世界規模の活動にとって、今回の日本での開催は大きな意味をもった。
(5)次回会議への動き:
 IPSでは、2007年7月にアイルランド・ダブリンで開催された総会において、次回の第10回プラトン・シンポジウムを2013年夏にイタリア・ピサで開催し、そこで『饗宴』をテーマとすることを決定している。2010年8月の東京大会において開かれたIPS総会では、次々回2016年の第11回プラトン・シンポジウムの開催地を、投票の結果、ブラジル・ブラジリアに決定し、そこでの研究テーマを『パイドン』に選定した。
(6)当会議開催中の模様:
 研究大会と合わせて、8月2日には「レセプション・パーティ」、3日には「文化行事」として雅楽の演奏会を催した。4日午後には研究発表は休みにして、希望した参加者による「東京市内エクスカーション」として浅草・江戸東京博物館・東京タワーなどをめぐり、日本の文化・歴史に触れていただいた。それにひき続いて「バンケット」も催された。6日夕方には「フェアウェル・パーティ」を開き、それらの機会をつうじて、世界各国から参加した研究者の間で親睦を深めた。
 本研究大会での研究発表一覧表は、別紙(PDF)として添付する。
(7)その他特筆すべき事項:
 本大会の開催は、2004年7月にドイツ・ヴィルツブルクで開催されたIPS総会において、第9回大会を2010年夏に東京で開催することが決定された。その際、イタリア・コモが立候補しており、IPS会員による投票の結果、東京が招致に成功した。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:2010年8月7日(土)  14:00~18:00
(2)開催場所:慶應義塾大学三田キャンパス 西校舎ホール
(3)主なテーマ、サブテーマ
 〔メインテーマ〕
  プラトン哲学の現代的意義 ―『ポリテイア』(国家篇)を中心に―
  The Significance of Plato’s Philosophy in the Contemporary World:Reconsidering the Politeia
 〔発表プログラム〕
  加藤信朗:基調報告
  納富信留:『ポリテイア』の現代的意義
  リヴィオ・ロセッティ:プラトンの『国家』は論文ではない(宮崎文典訳)
  岩田靖夫:アリストテレス政治思想の現代的意義―プラトン『国家』の思想との対比において―
  リュック・ブリッソン:プラトン『ポリテイア』における女性(波多野知子訳)
  佐々木毅:20世紀政治の中のプラトンと『ポリテイア』
  全体討議(司会:三嶋輝夫)
(4)参加者数、参加者の構成:一般の参加者、約350名(うち、外国人10名)
(5)開催の意義:
 市民公開講座は、6日間にわたった国際学会大会の成果を日本語で一般に披露しながら、日本で『ポリテイア』の可能性を考えるための特別企画であった。プラトン・シンポジウムは、英仏独伊西の5カ国語が公用語となり、100あまりの研究発表はすべてそれらの言語でなされた。内容の専門性と合わせて、日本人参加者の一部には必ずしもすぐに理解できるものではなかったかもしれない。そういった側面を補いながら、独自の考察を展開することが、この市民公開講座で目指された。そこでは、日本を代表する論者たちと共に、フランスのリュック・ブリッソン教授(CNRS、IPS副会長)とイタリアのリヴィオ・ロセッティ教授(ペルージア大学、IPS初代会長)にお話いただき(英語)、通訳を交えて、日本人参加者と活発な議論がなされた。世界最先端の研究内容を、分かりやすい言葉で広く伝えることができた意義はきわめて大きい。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
 市民公開講座については、事前に慶應義塾大学のホームページをつうじて大々的に宣伝を流した他、朝日新聞や読売新聞でその意義を紹介してもらった。その効果もあって、他分野の多くの専門家や、一般市民で哲学に関心のある人びとが、多数参加して下さった。会場では、6名の発表の後に一旦休憩をとり、会場の参加者からの質問や意見を「質問票」で提出していただいた上で、それらの質問にパネリストが答えるという形でフロア参加型の議論を行なった。なお、英語で発表されたブリッソン、ロセッティ両教授に対する質問は、主催者で英訳し、その回答は通訳して伝えた。
(7)その他:
 市民公開講座開催にあたっては、慶應義塾大学グローバルCOEプログラム「論理と感性の先端的教育研究拠点」に共催となっていただき、小冊子の編集・発行、事前準備、費用負担、当日の会場設営等にわたってお世話になった。

4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
 本研究大会を日本で開催するにあたり、日本でのプラトン研究の基盤となってきた日本西洋古典学会と、日本の学術研究の窓口である日本学術会議に共同主催となっていただいたことは、国内外に対する最大のアピールとなった。日本国内では、本研究大会の認知度がより一層高まると同時に、この企画が国レベルでオーソライズした国際学会であるという認識を内外の方々にもっていただけた。日本西洋古典学会でも、会員に広く参加を呼びかけて学会活動の一層の活性化につなげることができた。
 日本学術会議が編集・発行している『学術の動向』では2011年に、本研究大会、とりわけ、市民公開講座の研究成果を報告する特集号を組んでいただいた。また、一般に広く読者をもつ哲学の雑誌『理想』でも2011年春に、プラトン『ポリテイア』の特集号を組んで、納富信留をはじめIPS大会を準備し研究発表をした日本の研究者が、最新の研究成果を寄稿している。こういった積極的な研究成果公開をつうじて、本研究大会の学術成果を専門家、他分野の研究者、そして一般の方々と共有することは、今後プラトン哲学の発展と普及により大きな意義をもつものと信じている。共同主催いただいた日本学術会議と日本西洋古典学会に、心より感謝を申し上げたい。

 
(開会式での主催者挨拶 左:中務 日本西洋古典学会委員長、右:鈴村 日本学術会議副会長)
 
                          (市民公開講座)


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