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第4回世界トライボロジー会議
1 開催概要
(1)会 議 名 : (和文)第4回世界トライボロジー会議
         (英文)World Tribology Congress 2009 (WTC IV)
(2)報 告 者 : 第4回世界トライボロジー会議実行委員会委員長 木村 好次
(3)主   催 : 社団法人日本トライボロジー学会、日本学術会議
(4)開催期間 : 平成21年9月6日(日)~9月11日(金)
(5)開催場所 : 国立京都国際会館(京都府京都市)
(6)参加状況 : 41ヵ国/1地域・1,546人(国外529人、国内1,017人)

開会式典において歓迎の挨拶を述べる木村実行委員長
2 会議結果概要
(1) 会議の背景(歴史)、日本開催の経緯:
  世界トライボロジー会議は、国際トライボロジー評議会(International Tribology Council)が統轄し、開催国の関係機関が主催して4年ごとに行われるトライボロジー分野最大のイベントである。第1回の世界トライボロジー会議がロンドンで開催されたのは1997年であり、これは、60年前の1937年に世界で初めて、潤滑と摩耗に関する国際会議が開かれたことに由来している。以降、国際トライボロジー評議会から付託を受けた選考委員会が立候補国の中から開催地案を決め、それを同評議会が審議して最終決定するという手順で開催国が決まり、開催国のトライボロジー関連団体が同評議会から主催を任されるという形式をとって運営されている。
  その第4回については、第3回世界トライボロジー会議の初日、2005年9月11日に米国ワシントンD.C.で開催された国際トライボロジー評議会の総会において、時期は2009年9月、主催国は日本とすることが決定した。第4回世界トライボロジー会議はアジアで初めての開催であり、これは従来からトライボロジーに関する研究と技術の先進性が認められていた日本での会議開催を期待する声が強かったことと共に、世界的にみた社団法人日本トライボロジー学会の貢献が国際トライボロジー評議会から高く評価されたものである。
(2)会議開催の意義・成果:
  今回の会議開催の目的は、我が国および世界のトライボロジーの普及と発展に寄与し、トライボロジーの科学的研究の深化とその応用による社会的貢献を促進することである。会場では、世界のトップレベルの研究者が一堂に会し、最新の研究内容についての発表や活発な討論はもとより、盛んな人的交流と情報交換が行われた。この結果、国内外からの多くの参加者より、各種講演や研究発表の質の高さ、ならびに円滑な会議運営であった点を評価する声を得たことから、当該会議の目的を十分に達成するとともに、極めて成功裏の会議開催であったと判断される。
(3)当会議における主な議題(テーマ):
 第4回世界トライボロジー会議では、
  ① 持続可能な発展を実現するトライボロジー
  ② トライボロジーの大規模数値シミュレーション
  ③ 人と調和するトライボロジー
  ④ アジア太平洋地域の工業におけるトライボロジー的課題
の四つをメインテーマとし、これらのテーマに沿った開会講演、基調講演、特別講演およびシンポジウム等が行われた。
(4)当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割:
  トライボロジーは、元来、摩擦損失の低減によって自動車の燃費を向上させる等、CO2排出量の削減に直結する省エネルギーへの技術的貢献が非常に大きい。今回の会議では、開会冒頭に国際トライボロジー評議会Jost会長より「Green Tribology」が提唱され、その技術革新が今後ますます不可欠となることが強調された。さらに、開会講演やシンポジウム、一般技術セッションなどにおいて、省エネルギーはもちろん、その他の環境問題解決に関連する様々なトライボロジー技術の研究成果が披露され、それら技術を掘り下げる積極的な議論が行われた。これらを通じ、主要テーマの一つにも挙げた「持続可能な発展を実現するトライボロジー」の必要性が改めて明確となり、その現状の技術課題と研究開発の方向性が示された点は、当会議の主な成果として非常に意義深い。
  また、トライボロジーに関わる国際会議等で従来から取り上げられてきた、当該分野の様々な主要テーマについてのシンポジウム、テクニカルセッションならびに技術展示会等が実施され、それら研究の推進・発展に少なからず寄与したばかりか、日本の科学者の国際的な交流を促し、中でも若手研究者に世界との接点をもたらす絶好の機会となった。
  一方、本分野の先進国である我が国において、アジアで初めて開催したことは、日本から世界に向けてトライボロジーの重要性を発信し、当該分野でアジア地域を先導する日本の役割を確固たるものにしたと判断できる。トライボロジーは、省資源、省エネルギー、環境保全といった、今後さらなる研究の深化が期待される分野として、特に近隣のアジア諸国ではニーズの非常に高い重要な科学技術である。したがって今回、これらの国々へより参加しやすい環境を提供し、多くの最先端の科学者と交流する場を設けたことは、国際的にも日本が高く評価されたものと考える。
(5)次回会議への動き:
 本会議の初日、2009年9月6日に開催された国際トライボロジー評議会の総会において、次回となる第5回世界トライボロジー会議の開催は4年後の2013年、主催国はイタリア、場所は同国のトリノとすることが決定した。今後、同国のトライボロジー学会を中心に、第5回会議の開催運営に関わる委員会等が組織され、同会議の主要テーマについても、そこで策定される運びである。日本トライボロジー学会としては、その成功裏の開催に向け、全面的な協力をする予定である。
 トライボロジー分野の研究上の流れとしては、国際トライボロジー評議会Jost会長より提唱された「Green Tribology」を踏まえ、当会議で技術課題と研究開発の方向性が示された「持続可能な発展を実現するトライボロジー」の高度化、技術革新が、これからも柱のひとつとなることに疑いの余地はない。さらに、今回の会議の中で、シンポジウム等で取り上げた「トライボロジーの大規模数値シミュレーション」、「人と調和するトライボロジー」、あるいは「次世代潤滑添加剤技術」、「情報記録システムのトライボロジー」、「未来のエネルギーのための水素トライボロジー」などのテーマも、今後の重要課題として次回会議に引き継がれるものと予想される。
(6)当会議開催中の模様:
  本会議の全体スケジュールを表1に示す。9月6日の歓迎レセプションは16:30から18:00の間に開催し、約350名(うち海外から約120名)の参加を得て、盛大に実施することができた。会議本体の開幕は9月7日であり、その当日の内容は表2および表3のとおりである。これらのうち、開会講演と基調講演は前述した四つのメインテーマに沿って企画されており、具体的には、開会講演1と2がメインテーマ①を、基調講演1が②を、基調講演2が③を、そして基調講演3と4が④を代表するものである。
  翌9月8日から実施した学術プログラムの発表件数を表4から表6に示す。表4の四大シンポジウムは、開会講演と基調講演と同じく四つのメインテーマに沿って企画されたもので、38件の発表があった。また、12のミニシンポジウム(表5)、トライボロジーを6つの分野に分けて構成したオーラル発表とポスター発表からなるテクニカルセッション(表6)が行われ、以上の発表合計は839件であった。さらに、表2および表3の開会講演2件、特別講演1件、基調講演4件を加えた発表合計は846件に上る。
  一方、当会議に附設した技術展示会も一般公開の形で行った。その実施概要は以下のとおりである。
    日  時:2009年9月7日(月)? 11日(金)
    場  所:国立京都国際会館 イベントホール
    後  援:文部科学省、経済産業省、京都府、京都市、京都市教育委員会、大阪市教育委員会、京都商工会議所、京都文化交流コンベンションビューロー
    出展団体:66団体
    来場者数:延べ約7000名(出展者含む)、うち一般来場者は約880名(小中学生280名)
    特記事項:秋篠宮殿下御視察(9月7日11:50?12:05)

   表1?表6はこちらから(PDF)

 
       お言葉を述べられる秋篠宮殿下                 技術展示会をご視察いただきました
                    
              クリストファー・フレービン氏(ワールドウォッチ研究所所長)による開会講演
                     
                              シンポジウムの様子
  
           ポスターセッションの模様                  技術展示会でのミニ「トライボロジー」教室

(7)その他特筆すべき事項:

  2002年12月、日本トライボロジー学会理事会は第4回世界トライボロジー会議開催国として立候補することを正式決定し、国際トライボロジー評議会へ立候補の意志を書面で伝達した。また、2004年1月にドイツのエスリンゲンで開催された評議会総会において、周到に練り上げた開催計画を発表したところ、各国の代表から好意的な反応が得られた。この内容は、同時に開催国として立候補していたイタリアの発表と比べても、明らかに優位性のあるものであった。
  日本開催にあたり、その実施体制としては、木村好次委員長の下、運営実務を担当する「実行委員会」を編成すると共に、瀧本正民委員長の下、トライボロジー関連企業の技術系トップ等で構成する「組織委員会」を設立し、運営基盤の確立と充実を図った。また、日本学術会議からは共同主催の承認を得ることができ、日本機械学会、自動車技術会、情報ストレージ研究推進機構からは共催、文部科学省、経済産業省、京都府、京都市等からは後援、22の学協会等からは協賛の認可を得る等にも努力し、極めて強力な運営および支援体制を構築することができた。
  一方、具体的な実施案の策定にもつとめ、会場は国立京都国際会館を選出し、今回アジア地域で初めてのWTC IVの特色を具現化する4つのシンポジウムテーマ(前出)も決定して、2005年1月には、国際トライボロジー評議会に設置された「第4回世界トライボロジー会議開催地選定小委員会」委員長へ開催計画の詳細なレポートを送付した。さらに、日本トライボロジー学会が5年ごとに独自主催している国際トライボロジー会議(International Tribology Conference、略称ITC)の2005年神戸大会(ITC Kobe 2005)初日に開催した学会創立50周年記念式典には、海外のトライボロジー関連学会の会長多数を招待し、日本のトライボロジーの隆盛を実感した上で、第4回世界トライボロジー会議開催を日本に任せて大丈夫という心証を形成してもらえるよう腐心した。
  こうして2005年9月11日に、第4回世界トライボロジー会議開催国を決定する国際トライボロジー評議会の総会を迎え、日本とイタリアの最終プレゼンテーションとともに、開催地選定小委員会からの報告がなされた後、同報告に対する採否の投票があり、日本開催が決定した。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時:2009年9月7日(月)14:00?18:10
(2)開催場所:国立京都国際会館メインホール
(3)主なテーマ・サブテーマ:
 ① 持続可能な発展を実現するトライボロジー
 ② トライボロジーの大規模数値シミュレーション
 ③ 人と調和するトライボロジー
 ④ アジア太平洋地域の工業におけるトライボロジー的課題
(4)参加者数、参加者の構成:
 特別講演 約650名(会議参加者:約370名、市民参加者:約280名)
 基調講演1 約450名(会議参加者:約370名、市民参加者:約80名)
 基調講演2 約400名(会議参加者:約370名、市民参加者:約30名)
 基調講演3 約420名(会議参加者:約370名、市民参加者:約50名)
 基調講演4 約400名(会議参加者:約370名、市民参加者:約30名)
(5)開催の意義:
 小柴昌俊東京大学特別栄誉教授より、これまで携わってきたニュートリノに関する研究と、それらを通して得られた貴重な経験、研究を成し遂げるための苦労話などについて、スーパーカミオカンデに代表されるビッグサイエンスの話題を交えながら、一般市民にもわかりやすい内容で講演いただき、科学技術の重要性を広く一般に理解してもらう機会を設ける。
  また、世界的な省資源、省エネルギー、環境保全を通じた地球環境保護という人類共通の課題解決につながるトライボロジー技術を紹介することで、環境問題への一般市民の関心を大いに高め、将来この分野の科学技術の発展・向上をより促す効果が見込まれる。
(6)社会に対する還元効果とその成果:
 トライボロジーは動くところのある機械には不可欠な科学技術であり、自動車・鉄道車両・航空機・船舶、産業機械、加工システム、精密情報機器、家庭電器、宇宙機器まで、身の回りのあらゆる機械において動く部分の摩擦を低減あるいは制御しなければ、必要な性能を生み出すことができないことの理解を助ける効果が、今回の市民公開講座によってもたらされたものと評価できる。このような一般市民の関心の高まりは、9月7日にNHK京都および9月11日にKBS京都のテレビ番組で本会議と附設技術展示会が取り上げられたことからも確認できた。
 今回の市民公開講座では、特別講演を除いて英語での発表であったため、同時通訳を付けることで一般市民が参加しやすい環境を整えた。また、同じく一般公開した附設技術展示会とともに、京都市地下鉄への吊り広告で周知につとめ、地域の教育委員会を通じて小中学校等へも案内勧誘を行った。さらに、当日の参加者には、市民公開講座の内容とトライボロジーについて、わかりやすく説明したパンフレットを作成し、配付した。
4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
 今回の会議では、「地球という惑星の上での持続的な発展への科学技術の貢献が求められている現在、世界各国からトップクラスのトライボロジー研究者・技術者が、1997年に地球温暖化防止京都会議の開催された会議場に集うことは、大きな意味をもっている」ことを掲げ、そのScope and Outlineに、「人類と自然との調和のとれた共存は、現在世界規模の大問題になっている。この目的を達成するためにはさまざまな分野の科学技術の革新が必要であり、中でも機械・設備の効率化と長寿命化によるエネルギーと資源の節減はきわめて重要である。そこで今回の会議は“21世紀における技術革新の鍵を握る領域としてのトライボロジー”を主要課題に位置づけた」と宣言した。
 上記の方針は、我が国が進むべき方向と合致しており、日本学術会議より共同主催としての承認を得たことで、第4回世界トライボロジー会議は国の行事のひとつとなった結果、単に運営実施体制の強化を大きく図ることになっただけでなく、会議開催の目的である、我が国および世界のトライボロジーの普及と発展に寄与し、トライボロジーの科学的研究の深化とその応用による社会的貢献を促進することの達成に多大な効果を発揮したと判断される。
 とくに、日本学術会議との共同主催によって、秋篠宮殿下の御臨席を賜ることが叶い、皇室にトライボロジーへの関心をお寄せいただいたことで、我が国のトライボロジー活動の世界における評価がさらに高くなったものと確信できる。開会式典において秋篠宮殿下より、トライボロジーの重要性をご理解いただき、この上ないお言葉を頂戴したことは、トライボロジー分野の研究開発を志す研究者、技術者、研究機関等を強く励ます結果となり、国内のみならず世界的なトライボロジーの発展・向上につながると期待される。
 さらに、開会式典での首相メッセージ、あるいは学術プログラム部分やレセプション、主要研究者への招へい等への財政的な支援など、本会議を成功裏に終了できたことへの日本学術会議の貢献は非常に高く、ここに深く謝意を表したい。

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