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国際会議出席報告
1 開催概要
(1)会 議 名 (和文)原子核物理学国際会議INPC2007
         (英文)International Nuclear Physics Conference (INPC2007) Council
(2)報 告 者  原子核物理学国際会議INPC2007組織委員会委員長 永宮 正治(日本学術会議第三部会員)
(3)主   催  日本物理学会、内閣府日本学術会議、国際純粋応用物理学連合(IUPAP)
(4)開催期間 平成19年6月3日(日)~ 6月8日(金) 
(5)開催場所 東京国際フォーラム(東京都)  
(6)参加状況 38ヵ国/5地域・780人(国外340人、国内440人)
     
2 会議結果概要
(1)会議の背景(歴史)、日本開催の経緯
  
 本国際会議は1951年に第1回会議が開催され、3年に一度開催される。当該分野では最大規模の国際会議で、日本では1977年以来、30年ぶりの開催となる。IUPAPにおいて会議開催を決定するが、3年前に開催が決まったときには、本国際会議の組織委員長がIUPAPC12 Commission の chairman を務めており、日本での開催要求が高まっていた。                    
(2)会議開催の意義
 現在、独立行政法人理化学研究所においてRI Beam Factory 加速器が稼動を始め、KEK(大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構)oJAEA(独立行政法人日本原子力研究開発機構)においてJ-PARC加速器が稼動寸前にある。両加速器ともに原子核物理学を主としており、両加速器における実験研究に世界的な参加を促すことが開催の動機であった。本会議のみならず、Pre-conference symposia において目標は達成されたと思われる。
  また、最近、本分野では専門の細分化が進行しており、分科会的国際会議の方が伸びている。今回は、全分野としての結合を深め、分野全体としての総合科学の形成を目指した。参加者数も前回を大幅に上回り、内外の参加者からも、この目的が果たされたと指摘されている。  
(3)当会議における主な議題(テーマ)
 原子核は陽子と中性子から構成される多体系である。また、微視的に見ると、陽子は3つのクォークによって作られているため、原子核はクォーク多体系ともいえる。このような、多体系の特徴的な振る舞いを研究するのが原子核物理学である。また、中性子過剰核は宇宙初期の元素合成に重要な役割を果たした。このメカニズムを探ることさらに、原子核崩壊によって発見されたニュートリノの科学も、今回の主要テーマとなった。
(4)当会議の主な成果(結果)、日本が果たした役割
 ニュートリノ物理学、クォーク多体系としての特徴的な振る舞いや物質の質量生成のメカニズム、クォーク物質、中性子過剰な原子核構造と元素合成のメカニズム、新しい元素の発見、等々の分野で、日本人研究者は世界のリーダーとなっている。これらはすべて、本国際会議における主たるテーマとなった。また、独立行政法人理化学研究所のRI Beam Factory 加速器からの最初のデータも飛び入りで発表され、参加者に驚きを与えた。
(5)次回会議への動き
 本会議で議論されたテーマは未解決のものや発展性の高いものが多く、基本的には、全テーマが次回に引き継がれる。次回は、2010年、カナダのバンクーバーで開催される。
(6)当会議開催中の模様
 会議参加者は約800名で、会議の最初から最後まで、出席率は非常に高かった。Plenary Session は東京国際フォーラムのホールCを使ったが、会場の雰囲気は、写真に示すように熱気あふれるものであった。 会議の様子
(7)その他特筆すべき事項

 近年、IUPAPは "IUPAP Young Scientists Prize" を設置した。本会議はIUPAP C12 Commission として最大規模の会議であるため、受賞の様子最初の受賞者3名の表彰式と、3名の講演を企画した。本会議のような大きな国際会議では若い人の招待講演が少なくなりがちであるため、このセッションは非常に好評であった。受賞者は、米国、ドイツ、日本からであった。また、これに呼応して、Proceedingsの出版社がパラレルセッションの講演者とポスターセッションの発表者一人ずつに賞を出し、その表彰式も行われた。これも好評であった。

3 市民公開講座結果概要
(1)開催日時 2007年6月3日(日)
(2)開催場所 東京国際フォーラムホールC
(3)主なテーマ 湯川秀樹博士生誕100年記念講演会 
(4)参加者数、参加者の構成 約800名。半数は本会議参加者。半数は学生や一般の方。 
(5)開催意義
 講演者           
 湯川理論は、原子核の中になぜ陽子や中性子が閉じ込められるかの謎を解明するために提唱された理論であり、これは原子核物理学の中心テーマの一つである。湯川記念財団より、約3年前に本国際会議において生誕百年に当たる記念行事を行うことが提案され、本会議主催側としては、この記念行事を本国際会議の一環として組み入れることとし、会議初日の午後、一般参加者も入れて「市民公開講座」形式をとることとした。
 ノーベル賞受賞も含め、7名の著名な講演者にお願いし、講演会を行った。写真には6名記載されているが、その後、山崎敏光氏を加え、7名とした。湯川博士の生涯の紹介から、湯川理論を巡るエピソード、歴史的価値、その後の発展、最近の先端研究、等が語られ反響を呼んだ。
(6)社会に対する還元効果とその成果
 本講演会のように著名な研究者を同時に集めることは非常に難しい。これら第一線の方がどのように湯川理論を捉えておられるかを聞くこと自体、専門家にとって興味深いが、それを一般市民も含めた方々に知っていただく機会が出来たことは素晴らしい。
4 日本学術会議との共同主催の意義・成果
(1)天皇皇后両陛下のご臨席
 本国際会議において、参加者を最も印象づけ、また、参加者に最も感動を与えたのは、天皇皇后のご臨席と天皇陛下の開会式におけるスピーチであった。
 陛下は、戦後の荒廃した時期に湯川秀樹氏のノーベル賞受賞に国民がいかに喜び勇気づけられたか、また、理研で作られたサイクロトロンが東京湾に投げ込まれた時、仁科博士の思いは、いかばかりだったかを話された。さらに、この分野が生み出した成果の明暗、特に核兵器によってもたらされた悲劇にも触れられ、本分野の研究成果が、世界の平和と人類の幸せに役立っていくことを切に祈るというメッセージで挨拶を締めくくられた。このご挨拶は、英訳も電光表示され、内外の参加者の多くが深く感激し、会議終了まで会場のあちこちで感激や感想が語られた。ご講演される天皇陛下
 さらに開会式では、日本学術会議会長(金澤一郎氏)、IUPAP会長(A. Astbury氏)、日本物理学会会長(坂東昌子氏)等の主催者をはじめ、高市早苗内閣府特命担当大臣、池坊保子文部科学副大臣等の来賓からのご挨拶もいただいた。
 開会式後お茶会が開催された。天皇皇后両陛下を囲んで会議参加者が和やかに両陛下と歓談し、さわやかな会議スタートとなった。お茶会の様子
 両陛下のご臨席は、その後、海外でも大きな話題になり、内外の参加者より感激のメッセージが届いている。また、このご臨席は、日本学術会議の方々の大きな支えによって初めて可能となったことである。本報告を借りてお礼を申し上げたい。
(2)東京国際フォーラムでの開催
 東京国際フォーラムにおいて純粋学術的な国際会議を開催するのは、資金的も含めて一般的に難しい。日本学術会議の援助があって初めて可能になった。一方、この場所で開催できたことは、外国の参加者からは絶賛を浴びている。
(3)原子核物理学と総合的な科学との関連
 今回、日本の原子核物理学研究者が一丸となって参加したことにより、国内では、より強い研究グループに成長するきっかけとなった。これは、内部的に見て大きな収穫である。さらに、原子核物理学と隣接したエネルギー等の応用分野を包含し、総合的な科学分野を築くステップともなった。
 日本学術会議が国際会議を共同主催する意義は、開催を機に専門の中だけに閉じない総合的な科学分野への広がりの道を開く点にもある。本会議ではこの点を認識し関連分野の講演者をお招きした。この点への参加者の認識も高まり、意義深いものがあった。


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