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代表派遣会議出席報告
1 会議概要
1)名 称 (和文) 海洋研究科学委員会(SCOR)50周年記念シンポジウムおよび第29回海洋研究科学委員会(SCOR)総会
      (英文) SCOR (Scientific Committee on Oceanic Research) 50th Anniversary Symposium and SCOR 29th General Meeting
2)会 期 平成20年10月20日?24日(5日間)
3)会議出席者名 
  
日本人:蒲生俊敬・池田元美・田口哲・山本美千代・町田龍二・中野英之・中村知裕
       (最初の3名は日本学術会議による代表派遣,あとの4名は日本海洋学会による若手研究者派遣)
  外国人:Bjorn Sundby(会長),Jorma Kuparinen(書記),Robert Duce(前会長),Victor Akulichev(副会長),Peter Burkill(副会長),Huasheng Hong(副会長),
       Edward R. Urban, Jr.(事務局長)ほか83名
4)会議開催地 アメリカ合衆国マサチューセッツ州ウッズホール

            SCOR50周年記念シンポジウム(10月20,21日):Marine Biological LaboratoryのLillie講堂およびSwope Center2階
            第29回SCOR総会(10月22~24日):Woods Hole Oceanographic Institution(Quissettキャンパス)のClark Building 5階会議室(507室)
5)参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者)
 
参加国数:24,参加者数:97,日本人参加者(7名):蒲生俊敬・池田元美・田口哲(以上3名は日本のSCOR Nominated members)・山本美千代・町田龍二・中野英之・中村知裕(以上4名は,日本海洋学会推薦の若手海洋研究者)
6)会議内容
・日程及び会議の主な議題

10月20日,21日: SCOR 50周年記念シンポジウム”The Changing Ocean: From Past to Future(変わりつつある海洋:過去から未来へ)が開催された (プログラムは,https://www.confmanager.com/main.cfm?cid=1285&nid=9769)。大別して, 1)SCORの歴史,2)SCORの作業部会活動,3)SCORの大型研究プログラム支援,4)その他のSCORによる連携・支援活動,および5)若手研究者によるポスター発表,の5つのセッションが実施された。
10月22日~24日:第29回SCOR総会(審議項目と大まかなスケジュールはhttp://www.scor-int.org/2008GM/Block_Agenda.pdf にある)。例年のSCOR総会(または執行理事会)と同じく,SCORの作業部会活動の現況報告と審議,新たな作業部会のプロポーザル評価と設立,大型海洋研究プログラムの現況報告・審議, 国際海洋科学研究の現状とSCORによる連携・支援活動全般について議論がなされた。SCORの役員改選と財務状況についても合わせて報告された。
・会議における審議内容・成果
 50周年記念シンポジウムでは,SCORの50年の歴史を踏まえ,今後世界の海洋科学界の進むべき方向,またSCORとしてなすべき課題などについて幅広く審議がなされた。その際,SCOR活動の中核をなす作業部会支援, および大型の国際共同研究プログラム支援について多くの時間を割いて最新成果の報告や講演が行われた。発展途上国に対する支援を含め世界の海洋科学研究界の発展に向けて今後SCORの果たすべき役割についても議論された。 さらに,未来を担う若手研究者によるポスターセッションを行い,幅広い研究分野にわたり新鮮な議論や意見交換を行いつつ,SCOR加盟国間の若手研究者の連携・親睦を深めたことは大きな成果である。
 SCOR総会では,昨年のSCOR会議以後,ほぼ1年間にわたる世界の海洋科学界の趨勢や課題について様々な観点から検討がなされ,SCORの果たすべき役割や実施計画について議論された。 SCORが現在サポートしている10数件の作業部会の進捗状況を確認するとともに, 2009年度発足に向けて提案された新たな作業部会プロポーザルを厳正に評価し採択課題(3件)を決定した。また, SCORが中心となってサポートする大型海洋研究プログラムの進捗状況について報告がなされ,今後さらに国際共同研究を発展させるための方策等について意見交換を行った。SCORの任期の規約に従い, 会長及び副会長の交代が提案され了承された。
・会議において日本が果たした役割
 気候変動と生態系の相互作用は海洋科学の全分野の協力が最も必要とされる研究対象であり,SCOR作業部会への積極的な提案を求めるべきであると進言し,会議全体の賛同を得た。  
 2009年度発足に向けた作業部会プロポーザルに関し,日本国内では例年通りSCOR小委員会メンバーによるレヴューを行い,詳しい評価レポートを事前に事務局に提出した。残念ながら日本の国内委員会が上位に推薦したプロポーザルは採択されるに至らなかったが,議論を深化させる上で大きな役割を果たした。
 今回は日本から海洋物理学,海洋生物学,海洋化学の3名の代表が派遣され,海洋に関わる広範な研究分野を網羅して議論に参加できたことには大きな意義があった。我が国として今後さらに海洋の国際共同研究や途上国支援,作業部会の提案等SCOR活動に強くコミットする意思表示や意見交換を行ったことは高く評価された。
・その他特筆すべき事項
 SCOR 50周年記念シンポジウムの一環として行われた若手研究者によるポスターセッションにおいて,我が国から参加した山本美千代博士(現在カナダ海洋省海洋科学研究所所属) が最優秀ポスター賞(2名)を受賞した。
2 会議の模様
2-1.SCOR 50周年記念シンポジウム
 50年前に最初のSCOR総会が開かれたウッズホールに立ち戻っての開催ということで,事前に広く周知され,参加人数は例年の約3倍と活気に満ちていた。シンポジウム会場のLillie講堂は,使いこまれ黒光りする座席など,古風で重厚な歴史を感じさせ,今回の開催に相応しい雰囲気があった。
 初日は冒頭にウッズホール海洋研究所所長(Dr. S. Avery)およびSCOR会長(Dr.B. Sundby)による歓迎挨拶と,SCORの上部組織ICSUからのメッセージ(Dr.P. Liss)があり,続いてSCOR前事務局長Dr. E. Gross よりSCORの50年の歴史が多くの写真とともに紹介された。次にPanel#1として,現在稼働中のSCOR作業部会から6件が選ばれ,それらの成果と将来展望が報告され議論された。
 午後は,まずDr. M. Visbeckによる基調講演-1 ”Ocean variability”が行われた。その後,会場をMBLのSwope Centerに移し,各国の若手研究者によるポスター発表(合計29件)が行われた。トルコ,米国,南アフリカ,オランダ,チリ,オーストラリア,ロシア,フランス,日本,ドイツ,スペイン,中国,インド,ブラジル,ペルーの15カ国から大学院生又はポスドククラスの研究者が集い,最新の研究成果を発表した。アルコール類の振る舞われたこともあって活発で親近感あふれる質疑応答が約3時間にわたって賑やかに実施された。我が国からは,日本海洋学会の推薦と援助により,以下の4名(2007年度及び2008年度の日本海洋学会岡田賞受賞者)の発表がなされた。”Zooplankton community genomics: Beyond barcoding of marine animals”(町田龍二),”The effects of tidal mixing at the Kuril Straits on north Pacific ventilation”(中村知裕),”Mechanism of the Kuroshio current system”(中野英之),”Surface freshening of the Canada Basin of the Arctic Ocean in 2000S”(山本美千代)。このうち山本博士による発表は,最優秀ポスター賞(Best Poster Presentation)2名のうちの1名に選ばれた。シンポジウム参加者がそれぞれに高く評価されるポスターを投票し、他の3名も多くの票を得たグループに入った。
 夜はSwope Centerで引き続きレセプションが行われ,地元産の特大ロブスターを堪能しながら和やかな懇談を楽しんだ。
 2日目は,基調講演-2 “Dangerous ocean acidification” (Dr. A. Ridgwell)がまず行われ,次にPanel#2として,SCOR支援による海洋の大型国際共同研究(JGOFS, IMBER, SOLAS, GEOTRACES, GLOBEC, およびGEOHAB)についてそれぞれ研究代表者からの現況報告がなされ,将来構想も含めて活発に議論がなされた。
 午後は,まず基調講演-3 “Genomics and Ocean Observatories” (Dr. C. Schokin)が行われ,次いで最後のPanelとしてSCORの重要視する途上国支援(Capacity Building)と,IOCをはじめ他の関連団体との連携推進についてパネルディスカッション方式で議論がなされた。最後にSundby会長が,学際的海洋研究の今後とSCORの果たすべき役割についてまとめ,シンポジウムを締めくくった。

2-2.第29回SCOR総会
 会期3日目から,会議場をウッズホール海洋研究所(Quissettキャンパス)に移し,加盟国のNominated membersによる通常の総会が3日間にわたって行われた。前日までのシンポジウム参加者の一部は引き続き総会にも出席した。会長として4年目(最終年)のBj?rn Sundbyの司会は適切で,議論に十分な時間をとり,参加者が納得する結論に到達していた。また会議のアジェンダと質疑内容はSCOR事務局によって事前に要領よく取りまとめられ,午前と午後に1回ずつのコーヒーブレークを挿み,会議はほぼスケジュール通りに進行した。会議場から遠く望むことの出来る穏やかな海と紅葉に彩られた風景は参加者の目を楽しませた。
 SCOR総会初日(10月22日)は,過去1年間のSCOR関連物故者へ黙祷を献げた後,会長挨拶,次いで事務局長より最近のSCOR事務関係,財務関係の概略が述べられた。また,役員改選の結果が報告された。
 大型海洋研究プログラムGLOBEC(Ian Perry議長,日本より桜井泰憲委員が参加),SOLAS(Doug Wallace議長,日本より武田重信副議長が参加),およびGEOTRACES(Robert Anderson共同議長,日本より蒲生俊敬委員が参加)に関する状況報告がそれぞれのプログラムの代表もしくは共同代表者からなされ,質疑応答があった。次いで,現在実施中の作業部会(Working Group: WG)12課題について報告があり,終了か継続かが判定された。我が国ではWG122 (Estuarine Sediment Dynamics,2003設置,日本より斉藤文紀参加),WG125 (Global comparisons of zooplankton time series, 2004年設置,日本より千葉早苗参加),WG126 (Role of Viruses in Marine Ecosystems, 2004年設置,日本より長崎慶三参加),WG129 (Deep Ocean Exchanges with the Shelf, 2006年設置,日本より松野健参加),WG131 (The Legacy of in situ Iron Enrichments: Data Compilation and Modeling, 2007年設置,日本より武田重信参加)に,それぞれ正委員(Full members)を派遣し,活動に大きく貢献している。
 来年度発足に向けた作業部会プロポーザル(7件)の採択・不採択に関する審議を開始したが,時間切れで結論は翌日に持ち越された。
 SCOR総会2日目(10月23日)は,作業部会プロポーザルの審議を継続し,以下の課題を上位3件に決定した。”Ocean Scope”(商船を有効活用する海洋観測手法について),”Hydrothermal energy transfer and its impact on the ocean carbon cycles”(海底熱水活動が海洋の炭素循環の果たす役割の解明),”The microbial carbon pump in the ocean”(海洋の炭素循環に果たす微生物ポンプの役割解明)。しかし我が国が主導する作業部会のプロポーザルはまだなく,今後なお国内で提案をまとめると同時に、途上国も含めた世界の研究者ネットワークを組み立てた上で、プロポーザルを提案する努力が望まれる。
 大型海洋研究プログラムIMBER(Julie Hall議長,日本より齋藤宏明委員参加)に関する状況報告がなされ質疑応答があった。GEOHAB(日本より古谷研委員参加)についてはHuasheng Hong副会長より活動状況が報告された。また,海洋の炭素循環に関するIOCCP等のプロジェクトに関する報告がなされた。
 午後の会議は,米国National AcademiesのOcean Studies Board (OSB)との共催で行われ,将来にわたるSCORとOSBの連携を視野に入れた研究紹介と意見交換(テーマとして,途上国支援(SCORのCapacity Building委員会には戸田龍樹が委員として参画している),海洋の酸性化問題,近年の海水準上昇,海洋のエネルギー資源など)を行った。米国における研究者と政策決定者の相互理解を図る組織的な取り組みは,我が国も参考にすべきであると強く感じた。
 夜は,Quissettキャンパス近くの,National Academies所有J. Erik Jonsson Centerにおいて,OSB主催のレセプション(ワインパーティー)が開催され,ひとときの歓談を楽しんだ。
 SCOR総会3日目(10月24日)。SCORと強い関連のある政府間組織(IOC, PICES, GESAMPなど),非政府間組織(ICSU, WCRP, IGBP, SCAR, CoML, SCOPEなど),国際組織(IABO, IAMAS, IAPSO),および国際プロジェクト(CoML, InterRidge, IOCCG, IMAGES, iAnZoneなど)の現状とSCORの連携状況について報告と議論があった。
 財務委員会からSCORの予算状況について報告があった。順調に発展を続ける海洋の大型研究,作業部会活動、および連携プロジェクト等を適切にサポートし、かつ発展途上国へのアウトリーチを進める上で、なお予算の増額を必要としている。2009年度の年会費は昨年の執行理事会での決定に基づき,全ての加盟国について2008年度年会費の5%増となる。
 分担金の点では,日本は最上位のカテゴリーVに属し、米国・ロシアとともに最高額を負担している。その点から見て,SCOR作業部会への日本の研究者の参画はまだ十分とはいえず, 今後,さらに積極的立案が望まれる。

 次回開催予定  次回は,2009年10月にSCOR執行理事会(第38回)として,中国の北京で開催される予定である。


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