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代表派遣会議出席報告
(添付資料2)

1.会議の詳細な模様
 セッションは、以下の5つに大区分されていた。1)毎日の大きなテーマである、Themes of the Dayのもとでの特別セッション、2)Major Geoscience Programmesこれは、国際的な大プロジェクト(たとえば、IYPE, IODPなど)のもとでのセッション、3)Interdisciplinary Symposia (Topical)これは、大きなトピックスごとの区分、4)Regional Symposia (Special)これは、地域ごとのトピックス、5)Disciplinary Symposia (General)これは、一般の課題のセッション。プログラム編成委員長スウェーデンのD. Gee氏(全体のチェアマンと呼ばれていた)も、このような量的にも質的にも巨大化した内容を一つの流れの中でプログラムを編纂するのに、苦労した、アグリーなものができてしまった、と頭を抱えていたが、余りにも多量かつ類似のものをこのような形に仕上げる苦労が伺えた。今後はこのような状態をどのように止揚するかが、課題であろう。なお、特別から一般のセッションなどで、筆者らが把握しえた一端を以下にかいつまんで報告したい。

1)インド出身の海洋地球物理学者で、プレートテクトニクスの構築期に活躍した現在アメリカ在住のManik Talwani 教授への賛辞を含めた海洋科学のシンポジウムでは、同教授が果たしたプレートテクトニクスへの実質的な肉付けに対して賞賛の講演が多くなされ、その偉大な研究者、教育者の実績がたたえられた。日本からは末広潔氏がJASMTECの研究の進展と南海トラフの掘削結果の速報を行った。
2)環境科学の各セッションは、非常な熱気に包まれており、各国における災害問題とも関連して一大トピックスであることが分かった。ここでも、持続的発展の認識の重要性が増大していること、その具体的な対策の必要性が問われていることが分かる。日本からは、ユネスコの協力のもとに土木研究所に設けられている水災害・リスクマネッジメント国際センター(ICHARM)所長の竹内邦良氏の災害の増大に関する講演が注目を浴びた。人口の局所的急増が災害の増大を招いており、対策が急務である、とのことであった。(小川)
3)掘削科学は鉱山業や石油開発などとともに発達してきた分野であるが、海洋掘削と陸上掘削に大きく二分される。前者は、アメリカ主体の国際掘削計画が1965年から連綿として行われており、さらに最近新しいステージが日本などの主導で始まっている。われわれが関心の南海トロフ掘削の初期成果や、計画中のKanto Asperity Projectに関する発表も行われた。巨大掘削船「ちきゅう」に関する発表は、本学会議では合わせて4つのトークがなされた。なお、ヨーロッパ、北米大陸や中国を中心に大陸掘削が非常に関心を集めていることが理解された。
4)水とエコシステムのスペシャルセッションでの記念講演のフランスのG. de Marsily教授によると、温暖化による降水量の地域的変化と人口増加による穀物生産などのための水の需要とのバランスは、2050年までは前者が多いが、その後逆転に転じる公算が大きいので十分な検討が必要であると力説した。
5)マントル・ダイナミクスのセッションでは、MITの大御所Kevin Burke教授が、全地球4次元的な構想発表を行った。ジャイアント・インパクトによって生じた鉄の塊がコア・マントル境界に現在までも滞留し、それによって、ジオイド、ヒートフロー、巨大岩石区などほとんどの地球現象を説明でき、今後の研究に期待するとの若手へのメッセージがあった。
6)資源のスペシャルセッションの記念講演はオーストラリアの地質調査所長のNeil William氏であった。彼は楽天的な見方を示し、この10年間での新しい資源の発見から将来を悲観的に見る必要はないとの観測を示した。将来のエネルギーのスペシャルセッションの記念講演はイギリスのSir Mark Moody-Stuartで、今後の動向を多くのデータで予想したが、エネルギー資源については、相反する考えがあるようであった。
7)全地球的応力問題のセッションでは多くの研究者がローカルなデータを大事にしつつも、絶えずグローバルにものを見ていることがわかった。欧米の研究者は地球を一つのものとして考え、現象をさらに根源的な原因に求めている。特に、クラトン境界が水平圧縮応力であることの最近の発見をどのように議論するか、に意見は集中した。
8)惑星科学のスペシャルセッションでは、世界のインパクトクレーター(C. Koeberl氏)およびK/T boundaryがインパクトによるものだとの提唱者の W. Alvarez氏の総括的な研究の紹介、記念講演であるPlenary lectureは、火星の地質の第一人者である米国の女流研究者のMaria Zuber氏の火星の水の状態に関するものであった。火星のどのステージから現在に至るまでどこにどのような水がどこに存在しているかを、多くのデータで興味深く示した。
9)オフィオライトのセッションは毎回熱気に包まれており、世界共通のテーマであることが伺えた。A. Robertsonのトルコのオフィオライトのオーバービュー、P. Robinsonのオフィオライトのクロミタイトからのダイアモンドの発見などの注目すべき講演があった。後者では、一般では考えられないような鉱物の不均質な組み合わせが世界の各所のフレッシュなペリドタイト中のクロミタイトから知られてきた(ダイアモンド以外にも、SiC, coesite, kyanite, zircon, native Fe, TiSi alloy, PGE alloy, quartzなど、さまざまなものが数?数10ミクロン単位の微細な鉱物として含まれている、ただし、余りにも微細で薄片では認定されない)、ので、今後より詳しい研究が必要とのことであった。それらには、非常に低い酸素のフュガシティー、非常に高い水素のフュガシティーが必要で、地球の内部の環境としても異例であるとのことであった。この研究を行っている共同研究者のJ. Yangも、最近、衝突帯であるポーラー・ウラルからも見出しており、今後より多くの箇所で発見がなされるとの予想であった。ダイアモンドは最近日本でも三波川帯からも発見されており、大いに興味深いものである。
10)ゴンドワナ超大陸のセッションでは、メリーランド大学のM.ブラウン氏が超高圧・超高温変成岩の時代分布をレビューし、地球史において太古代末と原生代末にプレート運動の様式が大きく変化し、それが超大陸の形成と関連していることを述べた。また。変成岩セッションではETHのT.ゲリヤ氏が数値計算モデルを用いて「双方向沈み込みモデル」を 提唱し、プレート収束域における熱構造を説明した。
11)地球温暖化に関わる地球環境問題変動に注目が集まる中,今回の IGC においても,第四紀の環境変動や現代の人間を取り巻く環境や自然災害に関わるセッションが多数開催されて活発な研究交流が行われた.さらに,2004年の第32回 IGC で公表された地質年代表(GTS2004)で第四紀が消去された事件に端を発して過去4年間紛糾した第四紀・更新世定義問題の解決に向けたセッションと討論会も開催され,第四紀学にとっては従来に増して重要な IGC となった. 地質年代区分において過去20年以上第三紀と第四紀は正式に位置づけられていなかった.2004年, IUGS国際層序委員会 (ICS) は幅広い意見の聴取や正式な手続きを経ることなく,それまで慣用的に用いられてきた第四紀をGTS2004で消去し,Neogene を現在まで延長した.国際第四紀学連合 (INQUA) と ICS 第四紀層序小委員会 (ICS-SQS) はこれに素早く反応して,第四紀を Neogene に続く正式の紀とすることを要求し,同時に第四紀の始まりと鮮新世・更新世の境界の見直しを開始した.日本を初め,世界各国の第四紀コミュニティーもこの問題を重要視して議論を重ねた結果,2007年 INQUA 大会では,第四紀を新第三紀に続く紀と定義すること,第四紀の始まりを2.59 Ma の従来の鮮新世ジェラ期 (Gelasian) の始まりとすること,第四紀の始まりと更新世の始まりを一致させるために,ジェラ期を更新世の最初の期とすることが決議された. この提案は ICS の委員による投票で多数の支持を受け,INQUA-ICS提案としてオスロ IGC で正式に提起された.また IUGS執行部も第四紀を紀として存続させること,および,第四紀の始まりと鮮新-更新世境界については引き続き検討することを ICS に指示した.従ってオスロでは,第四紀に関わる最終的な議決は行われず,この問題の解決への道筋を明らかにして議論を開始することが主眼となった.
 8月9日と13日の研究発表,9日夜の討論会では,ジェラ期開始前後の環境変動をバイカル湖,パナマ地峡周辺,イタリア南部の層序から検討し,第四紀の始まりをどこにするかについて議論が交わされた.多くの地質事象は2.5 Ma から 3 Ma に起こり環境変動も漸移的なケースが多いが,その前後の差は歴然としている.そこに対比が確実な一層準を設けて第四紀の始まりとするのであれば,Gauss-Matuyama 古地磁気境界に一致するジェラ期基底が最も適切であろうとする意見が INQUA と SQS の立場から繰り返し表明された.2004年以来周到に準備を進めてきた INQUA と SQS が議論をリードする一方で,新生代を Neogene と Paleogene に二分し Neogene の終わりを現在とすることを主張するグループは,第四紀の存在を認めたうえで妥協的な提案を行うにとどまっていた.
 INQUA-ICS提案は,上位の時代区分である第四紀/新第三紀境界と更新世/鮮新世境界を一致させ,更新世の始まりをジェラ期の始まりに変更することも含んでいる.これは,鮮新世の終わりを現在の1.81 Ma から2.59 Ma に変更することを意味する.この点に関しては,地質図の全面改定という現実問題や従来のカラブリア階基底の定義を守る立場からの保守的な反対意見が多く述べられたが,環境変動を指標とした時代区分としての科学的な面からの従来の区分を支持する意見はなかった.
 日本第四紀学会と日本学術会議第四紀研連・INQUA 分科会は従来から INQUA の方針を支持し,討論会においても日本の鮮新更新統の存在と堆積開始時期からみて2.59 Ma を第四紀と更新世の始まりとする提案は妥当であるとの見解を伝えた.オスロで ICS 新委員長に就任した S. Finney は第四紀問題の解決に鋭意取り組んでおり,討論会では開かれた議論,公式文書,正式な手続きにより決着を着けることを明言した.その指導のもと,INQUA-SQS は IGC 直後から精力的に活動を続けており,過去数十年を要した議論に終止符が打たれるのは間近とみられる.この議論の骨子と第四紀の層序区分に関する最新の論文が IUGS の機関誌 Episodes 31巻2号の特集として出版され,まもなく PDF 全文がダウンロード可能となる (http://www.episodes.org/)ので参照されたい.
12)生命史に関するスペシャルセッションは地球上の生命の起源から始まり、時代を追った生命史イベントごとの最新の研究成果が紹介された。Cambridge University のニコラス ・バターフィールド教授によるEdiacara 動物群を挟んだ多細胞生物の興隆を海洋表層の一次生産者の進化と結びつけた話は、海洋の物質循環の進化と生物進化との連環の視点があり新鮮であった。このセッションの特別講演は、科学普及書の作家として有名な大英博物館のリチャード・フォーティー博士であった。最近、興隆してきた創造説的アプローチを批判しつつ、ダーウィン進化論の歴史と現状について紹介した講演は、皮肉とユーモアに満ちたイギリス紳士そのものであった。その夜の酒の肴となったことは言うまでもない。午後の特別講演の演者は、一転して、地球環境そして生物多様性との関係に関するものであった。生命が地球環境と強い相関を持って進化してきたことを踏まえて、現在の生物が直面する環境変動にどう影響を受け、将来どうなるかを予測する視点は、生命史研究に関わる者が社会に自分たちの研究をどう社会に還元するのかを示しており、示唆に富んでいる。
13)地球生命科学(Biogeosciences)に関するセッションは、遺伝子情報、地球化学、生鉱物学など様々な切り口から生命と環境の進化を縦横に議論する、刺激的でかつ新しいものであった。セッションコンビーナーも講演者も非常に若く、これから興隆すべき学問分野であることを示唆するものであった。
14)北里は、地球温暖化が進行すると現れる海洋の貧酸素環境と生物の反応に関するセッションを主催した。話題がしぼられている割にさまざまな分野からの聴衆が多く、活発な議論が展開された。これだけでなく、地球温暖化、災害などのように、現代社会につながる話題を持つセッションは、いずれも盛況であった。世界の研究者が社会に向かって責任ある発言を求められていることをあらわしている。

2.会議の印象と今後の課題
 筆者(小川)は今まで多くの学会に参加してきたが、今回は簡素な中にも心温まる歓迎が行き届いており、全体のテーマである「持続的発展」が会議の運営にも合致しているものであることが印象的であった。ただし、学会議会場内部はもちろん禁煙であったが、玄関口付近が喫煙所となっており、いかがなものかと思われた。北欧は禁煙はおろか、分煙などの配慮はあまりなされていないとの印象を受けた。
 ただ、北欧、特にノルウェーは物価高である、とは聞いていたが、生活には、日本の3?5倍はかかった。諸費用を入れると、今回日本から2週間の旅行をすると、レジストレーション(10万円前後)、宿(15-20万円程度)、現地での食費など(5万円程度)、計、30-40万円、それに航空運賃にサーチャージが加わり23万円程度、総計50万円以上もかかり、一般の研究者や学生にはかなりの高負担であった。中国などは国家丸がかえで400人近くも送り込んでくるのだから、国家的意気込みの違いを見せ付けられた。そのほかに勢いがあったのはロシアおよび韓国であった。
 なお、各国のIGCへの参加態度には、色々と考えさせられた。過去、5回参加したり、それ以外の国際会議などに参加した経験からすると、このような巨大な学会議にはそれなりの意義がある。1)4年間のそれぞれの分野、それぞれの研究者の進展や、分野のはやり廃りなどの変化を知ること、がまず第一、ついで、2)各国ごとの取り組みの違いや変化を知ることが第二、さらに、3)著名な研究者とそのグループの研究動向を探ること、が第三である。1)は、依然として地質学が資源科学的面を強く持つことは全く失われてはいないものの、環境負荷(日本人研究者も主導している、Medical geologyなど)、災害、エネルギーに関する関心が圧倒的に増大しているとの強い印象を受けた。2)に関しては、やはり発展中の諸国の著しい熱心な取り組みが、国家レベル、個人レベル双方で行われている。特に、中国、インド、それに韓国、イタリア、スペインなどの急速な進展が脅威であると感じた。大げさに言えば、生痕化石の芸術的モデルを出品し、参加者に熱心に説明するサイラッハー教授日本はそれら諸国にこの面で(国家的取り組み、個人的熱意で)かなり遅れをとったと感じられ、もはや追いつくことはできないかもしれない、との率直な印象を受けた。日本は全体的には日の丸株式会社であり、各自の国際化の努力は各個人レベルでは大いに行われてもいようが、全体的には多くの研究者の関心は国の内部とその事情の解決に向けられており、学問とその交流・協力などについての国際化へむけての国家的取り組みは完全に欠落している。3)に関しては、著名な研究者は自己の責任を理解しており、それをこのような巨大な学会議でも発揮し、広く皆と交流し会おうとの謙虚な考えを持っている。決して尊大ではなく、皆と共有しようとの努力が見られる。今回、既にあげた、タルワニ氏(インドー>アメリカ、バーク氏(イギリスー>アメリカ)、イギリスのロバートソン氏、カナダのロビンソン氏、アメリカのブラウン氏、スウェーデンのジー氏などのほかに、ドイツのザイラッハー氏は生痕化石を芸術作品に仕上げて多数展示し、自ら参加者に丁寧に説明していた姿が印象的であった。
 このように、老体に鞭打ってわざわざ参加し、ほとんどの講演やポスターに顔を出し、そのつど講演者や聴衆に感動を与える著名な研究者が欧米には少なからずおり、研究、教育、若手への鼓舞など、その謙虚で誠実な態度、生命を賭しての努力にはただただ頭が下がる思いであった。

(生痕化石の芸術的モデルを出品し、参加者に熱心に説明するサイラッハー教授)

 なお、今後の課題としては、以下のようなことがあげられる。これらは、会期中に議論になったものも含まれ、一部は個人的なものでもある。
1) IUGS-IUGGとの合体あるいは協力。地質学は広いいみでの地球科学の中心的分野ではあったし、その手法は今後も有意義ではあろうが、今や地球物理学、地球化学、惑星科学、古生物学、宇宙科学などとの境界は、実質的にはなくなったといってよい。これらの分野が一同に会しての学会は、たとえば、AGU, EUG,日本の地球惑星科学連合大会などですでに行われているといってよい。
2) 大きくなりすぎた学会の意義ある将来像。依然として地質学は、特に開発途上国にとって重要な学問であるが、発展途上国では、分化してもいる。特に、途上国への資源開発などに関する学問的遺産の伝授と継承と、環境配慮のための学問的、技術的裏づけを与える知的創生、および全人類のための知的好奇心への探求である。これらを、4年毎の学会議でどのように意義付けていくかが重要であろう。
3) 国際化と国内事情の狭間で、各研究者は独自の取り組みもしているが、国家的な取り組みが遅れている。学問的な新興国と言われてきたアジア各国の猛烈な追い上げは、時に日本の質と量を追い越しているように思われる。今後、いっそう、国家規模の取り組が必要である。
4) 以上のことをいかに具体的な方策で実現するかが、緊急の課題だろう。

主会場となったメッセ最終日、参加者を見送るボランティアの大学院生たち好評でにぎわっていた産総研のブースと活躍していた地調若手










(左)主会場となったメッセ
(中)最終日、参加者を見送るボランティアの大学院生たち
(右)好評でにぎわっていた産総研のブースと活躍していた地調若手

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