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代表派遣会議出席報告
1 会議概要
1)名 称 (和文)国際憲法学会第7回世界大会,(英文)Ⅶth World Congress of Constitutional Law
2)会 期 2007年6月11日~15日(5日間) (10日の理事会を含め6日間)
3)会議出席者名 辻村みよ子(第一部会員・東北大学教授・国際憲法学会日本支部副代表)  
4)会議開催地 ギリシア共和国アテネ市,国際会議場ザピオン(Zappeion Megaron)   
5)参加状況(参加国数、参加者数、日本人参加者) 70カ国,450名,日本人参加者9名
          
辻村みよ子(東北大学教授、日本学術会議第一部会員、国際憲法学会日本支部副代表、国際憲法学会評議員)
長谷部恭男(東京大学教授、日本学術会議第一部会員、国際憲法学会理事)
井上達夫(東京大学教授、日本学術会議第一部会員) 西原博史(早稲田大学教授、日本学術会議連携会員) 江島晶子(明治大学教授)
小泉洋一(甲南大学教授) 南野森(九州大学准教授) 青柳卓弥(平成国際大学助教授) 福岡安都子(東京大学元助手・ドイツ留学中)   
6)会議内容(テーマと日程)   
・総合テーマ 「憲法の境界を再検討する(Rethinking the Boundaries of Constitutional Law, Réimaginer les Frontiéres du Droit Constitutinnel)」
 *世界の紛争を克服し人権保障と民主主義を確保するために、憲法と立憲主義がどこまで貢献できるかを問いなおすことを目的にしている。
・ 日程 2007年6月11日:開会式と第1全体会「紛争と安定のなかの憲法」       
            12日:第2全体会「立憲主義への脅威に対峙する哲学」           
                第1-5分科会(テーマ:①憲法制定への人民の参加、②憲法と緊急事態、③正当性と政治的安定のバランスとしての選挙制度、④欧州憲法                   と現代立憲主義、⑤政治的慎重さを要する問題の違憲審査)     
            13日:第6-11分科会(テーマ:⑥国内紛争解決のための憲法システムの有効性、⑦憲法理論の新展開、⑧憲法と世界テロ、⑨憲法改正の限界、                   ⑩民営化に対する憲法保障、⑪連邦国家における州憲法の役割)  午後「評議会(各国代表者総会)」     
            14日:第3全体会「宗教、国家、社会」         
                第12-16分科会(テーマ:⑫世俗主義(ライシテ)と立憲主義、⑬社会権の司法判断適合性、⑭ジェンダー平等と宗教的自由・文化、⑮違憲                    審査における比較考量と比例原則、⑯憲法と腐敗・善政)     
            15日:第4全体会「憲法の国際化」、閉会式  (ほかに、6月10日および15日午後に「理事会」開催)
・ 会議における審議内容・成果
 今回のテーマは、前回2004年1月のチリ・サンチアゴ大会(テーマ「立憲主義――古い観念と新しい世界(Constitutionalism; Old concepts, New worlds)」)に比して、より直接的に、テロの脅威や世界の紛争に直面した状況下での立憲主義の有効性や限界を問題とした。これは、会長のチェリル・ソンダーズ教授(メルボルン大学)の開会式での基調講演の中でも明らかにされており、憲法とテロ、宗教と社会、憲法の国際化、などに関する問題意識が明確かつ具体的であった。また第3回全体会にも示されたように、欧州憲法や欧州人権条約との関係で各国の憲法裁判所や欧州人権裁判所等の課題を明らかにする視点が明確にされ、アジア・アフリカ・南米諸国を含めた憲法裁判官たちの役割が重視されたことが特徴であり、大きな成果が得られた。
 国際憲法学会およびギリシア憲法学会が主催した今回の大会も、ギリシアの政府高官や国会議員・研究者等が全面的に協力し、開会式では、大臣・国会議長など10名が挨拶をした。また、憲法裁判所裁判会の夕食会や、アフリカ憲法ネットワークの会合などが準備され、世界の憲法研究者・実務家の連携、ネットワーク化という点でも大きな成果が得られた。
・会議において日本が果たした役割
 ①6月13日午後に開催された「評議会」に、日本支部を代表して辻村みよ子および西原博史教授が出席し、新会長、新副会長・理事の選出、会則の改定等について、議決権を行使した。また、10日の理事会には、長谷部恭男教授が出席した。
 ②6月12日午後に開催された第2回全体会「立憲主義への脅威に対峙する哲学」に、井上達夫教授が報告者として参加し、法哲学の立場から立憲主義の課題について報告した。
 ③6月14日に開催された第3回全体会「宗教、国家、社会」の座長、および第7分科会の共同座長を長谷部教授が努めた。
 ④日本からの参加者がそれぞれ全体会および分科会に出席して報告や質疑に参加した。江島教授が第5分科会、西原教授が第15分科会、小泉教授が第12分科会で報告したほか、辻村が第14分科会で日本についての紹介および質疑を行った。
2 会議の模様・課題など
1) 今回の世界大会の特徴は、第一に、テロの脅威や世界の紛争に直面した状況下での立憲主義の有効性や限界を問題とし、憲法とテロ、宗教と社会、憲法の国際化、などに関する問題意識が明確かつ具体的であったことである。第二の特徴は、欧州憲法や欧州人権条約との関係で各国の憲法裁判所や欧州人権裁判所等の課題を明らかにする視点が明確にされ、憲法裁判官たちの役割が重視されたことである。
2) テーマ意識が明確であったことから、4つの全体会には大きな関心が集まった。とくに、第2全体会「立憲主義への脅威に対峙する哲学」(座長、ミシェル・ローゼンフェルド元会長)、では、ドナルド・ドゥオーキン教授(ニューヨーク大学)、オリヴィエ・ボー教授(パリ第二大学)、井上達夫教授(東京大学)らが報告し、人権と民主主義等へのテロリズム等の脅威に対する立憲主義の有効性について法哲学や憲法学の視点から論じた。ドゥオーキン教授は、9.11後に、安全と自由、安全と正当性という新たなバランスが求められていることを指摘し、人権を再構築すべきことを強調したが、善(good)と悪(bad)という対立構図を用いて論じたことから、この区別をめぐって質問や反論が続出した。ボー教授は最近の風刺画事件を契機とする表現の自由と信教の自由、個人主義と宗教という対立構図を指摘した。また、第1回全体会ではがテーマとされ、9.11後やイラク、東欧など憲法の変容や創設をめぐる困難な課題を背景に、多文化社会のなかで立憲主義がいかに有効性を発揮できるかが論じられた。第3回全体会は「宗教、国家、社会」と題して長谷部泰男教授を座長にして開催され、政教分離、信教の自由等をめぐる最近の問題が取り上げられた。第4回全体会は、「憲法の国際化」や欧州憲法の問題をめぐって欧州司法裁判所やドイツ、コロンビア、南アフリカ等の憲法裁判所の判事たちによって議論された。   
 分科会テーマにも憲法変動・危機・国際化を背景にした今大会の趣旨が貫かれた。人権分野を扱ったものは少数であったが、宗教との関係、憲法訴訟における違憲審査の問題を扱う分科会に注目が集まっていた。ちなみにジェンダー平等を扱った第14分科会では、ジェンダー平等と信教の自由・文化との対抗関係がテーマとされた。フランスなどの諸国で問題になっているイスラムのスカーフ問題など、女性の宗教的活動の自由とジェンダー平等の要請が不可避的に矛盾対立を抱えている現状が問題となった。ジェンダー平等をめざす世界の動向に対して、文化や伝統を持ち出してジェンダー平等を阻害する傾向があることについても筆者が発言して注意を喚起した。
3) そのほかの特徴として、アジア・アフリカからの参加者の増加が目立ったことであげられる。その背景には、本国際憲法学会の事務局を担当している南アフリカ共和国の憲法研究者を中心にアフリカ憲法ネットワークが構築されたことなど、ネットワーク化が進んだことが背景にある。東アジアからは韓国から17名、中国から10名、台湾から2名が参加していたのに対して、日本から9名(多くが個人参加)というのは、多少とも少なかった印象がある。その原因として、日本の大学では夏学期の講義期間中で、とくに法科大学院などの教員にとっては、講義を休講にして参加することが困難であったという事情がある。とくに、国際学会が、欧米のアカデミックイヤーが終わる6月に集中して開催される傾向からすると、日本が現在の4月開講制を維持する場合には(たとえセメスター制を導入する場合でも)参加が難しいことは変わらない。今後は日本の研究者の積極的な参加を促進するための方策や工夫が必要となろう。 辻村先生
4) 最近の国際学会では、アジア・アフリカ諸国の参加や活躍が目立っており、公用語(国際憲法学会では英語とフランス語)との関係でも、途上国の研究者のほうが日本の参加者よりもネイチヴに近いことを活かして積極的に発言する傾向があるといえる。この意味でも、国際的に活躍できる語学力・国際性・社交性を備えた研究者を育成し、日本からの国際学会への参加を一層促進する必要があるといえよう。
3 次回開催予定ほか
1) 次回第8回世界大会は、2011年にメキシコで開催されることが決まった。
2) 次期会長には、新会長としてパリ第一大学、コンセーユ・デタのディディエ・モース教授が13日の評議会で選出された3) 2007年11月22-24日には、横浜でラウンドテーブルが「憲法の制定と解釈(Writing and Reading Constitutions, Écriture et Lecture des Constitutions)」をテーマとして開催され、新旧会長のほか多くの著名な研究者が来日の予定であるため、積極的な参加が期待される。辻村先生
(辻村みよ子・日本学術会議第一部会員、東北大学教授、国際憲法学会日本支部副代表、2007年6月15日アテネにて 手前一番左が筆者)


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